【イベント報告】日本橋いづもや三代目の四方山話~鰻文化の過去と未来~(1/26第55回NRLフォーラム)

1月26日、第55回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はゲスト講師に岩本公宏氏(いづもや/三代目)をお招きし、「日本橋いづもや三代目の四方山話~鰻文化の過去と未来~」をテーマにご講演いただき、フェローを交えたディスカッションを行った。

1975年10月2日、東京都中央区生まれ。大学卒業後、横浜にある老舗鰻店「わかな」で修業したのち、いづもや初代・祖母の他界をきっかけに「日本橋 いづもや」へ入店。2003年から7年間「日本橋 いづもや 三越店」の店長を務める。現在は江戸通り沿いにある本館で腕を振るい、鰻文化の継承のため尽力している。


■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
 坂野 泰士 氏 有限会社シンプル研究所 代表取締役
 川連 一豊 氏  JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事
 山本 貴大 氏  株式会社山本海苔店 代表取締役社長
 

鰻業界の課題

創業から70余年の歴史を持つ鰻屋いづもやは、東京・日本橋に本店、日本橋三越店に出店している鰻屋だ。戦後間もない時期に創業し、社会変化や環境変化がある中で、地道な努力により伝統的な鰻の味を次の世代に受け継ごうとしている。

鰻は近年、稚魚の不漁が話題になっている。鰻の稚魚であるシラスウナギは、1kgの取引価格が400万円を超えた年もあったそうだ。

業界としては鰻の完全養殖を待ち望んでいるのが現状だという。鰻の完全養殖とは、出荷予定の天然鰻や養殖鰻の中から一部を養殖用に残し、卵が孵って成魚になるまで育てる養殖方法を指す。

同じく海産物を取り扱う山本海苔店の山本氏より、養殖方法へのこだわりについて質問があった。

山本氏:温暖化で海苔も捕獲量が少なくなっている。養殖の話も出るがコストが高く難しい状況だ。鰻の場合、なぜそこまでして完全養殖に力を入れるのか気になる。

岩本氏:鰻は育てた後、出荷して食べる流れができているために、そのままのサイクルを続けると鰻を根絶やしにする状態になっている。養殖鰻を育てるためにも天然鰻が必要だが、どちらも捕獲され食べられている状況だ。生態系や環境問題の観点からも、現状には課題が多い。安定して鰻を食べてもらいたいからこそ、鰻の完全養殖化が必要と考えている。

伝統の味を未来につなげるために

① 店の発展に向けて

岩本氏は店の発展のために、2つの取組みを行った。料理の提供方法の工夫と、さまざまな料理組合や団体といった店の外での経験を積むことだ。

料理の提供方法について、入社してすぐに出店が決まった日本橋三越店で様々な工夫を凝らしたと岩本氏は語る。

日本橋三越は子供の頃から通っていたデパートだからこそ、岩本氏も来店客が本物の味を知っていることをよく理解していた。そのお客様が満足するものを提供しなければならないと考え、一番美味しいと思う焼きたてを提供するようにしたという。

しかし、注文が入ってから焼くため時間がかかり、来店客は帰ってしまう。さらには、先代である父や三越の社員からも批判され、すぐには結果が出ない日々が続いたそうだ。それでも岩本氏は、徐々に手応えを感じ、一人ひとり、店舗従業員に接客の仕方を説明し、前もって予約してもらうことで焼きたてを提供するというアプローチで、業績の回復に結びつけた。

いづもやではコース料理も提供している。しかし、最後の鰻重が運ばれる前に、刺身やお碗や揚げ物といった他の料理で満腹になってしまうお客様が多く、鰻重が持ち帰りになることも少なくなかった。そこで、せっかくなら鰻を満喫してもらいたいと考えた岩本氏は、鰻づくしのコースを開発した。鰻が入った卵焼きや白焼きなどをメインの前に出すことで、鰻重を食べることができずとも鰻料理を楽しむことができるということだ。

また、料理組合などの外部団体では、他のお店の人と繋がり交流することで様々な知見を得たという。

例えば、天ぷら店の人には天汁の配合を、寿司店の人には質の良いワサビの産地などを積極的に質問し、交流を持った人の店にも足を運んだ。同様に、自分が他店の若手料理人に店の秘訣を質問されたときには答える。そうして知識を継承することこそが、伝統文化をつなぐと岩本氏は考えている。

後進の育成

岩本氏は鰻業界の発展を目指して、商品・サービスの向上だけでなく、後進の育成にも力を入れている。

若手の人材が少ないことが目下の課題でもあるため、まず何よりも魅力的な職場づくりが重要だと岩本氏は話す。

まず、新しい人材には、下積み仕事をしてもらうだけではなく、先輩や職人が直接仕事を教えている。昔は「時間がかかっても仕事は見て覚えてもらう」というやり方であったため、その厳しさに耐えた人材だけが残っていたが、少ない若手になるべく長く鰻業界で仕事をしてもらうため、やりがいを感じられる職場づくりを行っている。

また、一通り仕事ができるようになったら他の鰻店に移ることも重視している。今や業界は慢性的に人手不足であり、ある程度仕事ができる若手人材にはどんどん仕事を任せられる。仕事を任されることで若手人材にも自信やプライドがつき、プライドにかけて腕を磨くように努力するようになる。その結果、1~2年すると若手が一人前の職人になる。育った職人は新しい若手人材がやってきたときに、自分が教わったように仕事を教えようという好循環が生まれる。

岩本氏は鰻業界の20年後、30年後を見据えて、そうした好循環を生み出そうとしているのだ。

後進の育成について、ディスカッションでも掘り下げる質問が多く出た。一部を以下に抜粋する。

山本氏:若手が一通り仕事を覚えたら外に出すとのことだが、その際には、最終的にはいづもやに帰ってきてもらうという前提があるのか。

岩本氏:帰ってくるかは本人に任せている。行った先の店の居心地が良ければ、そのまま残って経験を積むこともできるし、いづもやに帰りたいという思いがあれば受け止めるようにしている。また、戻ってきてくれた職人は他店でレベルアップしているので、後進の育成もでき、店の主戦力になる。
業界にとっては、若手人材は他店でも自店でもいてくれるだけでこの上ない財産だと思っている。採用計画も、他店に行ってもらったあとに戻ってこない職人もいることを念頭に立てている。

まとめ

全体を通して、岩本氏が自社の店舗に限らず鰻業界全体の発展のために動いているのが印象的であった。

飲食業界では人手不足が続いているが、その飲食業界の中でも多様化が進み、伝統の味を継げる人はますます減少している。食材である鰻も絶滅の危機に瀕している。このまま何もしなければ、鰻の文化が廃れてしまう可能性が高い。

しかし岩本氏がお店の発展と後進の育成のどちらも相手目線で動いていることで、いづもやは日本橋三越店で行列ができるほどの人気繁盛店となっている。

提供するサービスの向上だけでなく、支えてくれる従業員のための環境づくりと人材育成の好循環が産業を発展させていくということは、伝統産業に限らずどの業界でも普遍的に重要なポイントと言えるだろう。

日本橋 いづもやHPより「特別ランチ 限定10食」

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
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