【イベント報告】WEB3・メタバース・NFTとマーケティング/リテール(2/22第56回NRLフォーラム)

2月22日、第56回目となるNext Retail Labフォーラムが次世代マーケティングプラットフォーム研究会 NMPLABと共同開催された。
Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関して調査研究をしたり、マーケティング視点での提言を行ったりする任意団体である。
定期的に開催されているフォーラムの第56回目となる今回は、注目度が高まるWeb3やメタバースなどをテーマに、最前線でサービスを展開しているトップランナーたちが、今後の展望や課題についてディスカッションした。

さわえみか氏

株式会社HIKKY 取締役COO・CQO・クリエイティブディレクター

プロヘアメイクからイラストレーターへ転身、マルチコンテンツ制作を続ける。スマートフォンゲーム開発やウォルト・ディズニー等のプロモーション業務を通してアートディレクターに転身、ヒットコンテンツを多数世に贈りだす。2017年末からVR空間での活動を開始。HIKKYのクリエイティブ全体を統括。プラットフォームの枠組みを超え、誰もが自由にメタバースを行き来できる未来を目指している。

https://vket.com/

深谷尚史 氏

電通 事業共創局プロジェクト推進部ゼネラル・マネージャー(コミュニティ開発部ゼネラル・マネージャー)

営業(松下電器担当)、テレビ局、営業(花王担当 メディア&ブランド)、上海赴任 2012年〜2017年、ビジネスプロデューサー(花王担当 ブランド)、事業共創局(コミュニティ、web3/NFT)を経て、現職。電通グループ横断組織 web3 clubでの活動も行っている。

竹内 一博氏

株式会社DONUTS 経営企画室 プロジェクトマネージャー

 2002年より、スタートアップから一部上場企業まで複数のIT企業で開発現場マネージャー、部門長などを経験。開発部門の責任者として新卒・中途の採用面接を行ってきた。2020年より株式会社DONUTSにて現職に従事、関連会社の開発部門責任者および新規SaaSプロダクト開発を担当。


塚本陽一氏

株式会社REJECT 執行役員事業統括本部長

2001年株式会社エフエム東京に入社。電通、オプトなどを経てKDDI 株式会社に入社。宣伝部担当部長、デジタル マーケティング部長としてauのブランド強化と事業拡大に貢献。
カブドットコム証券(現auカブコム証券)の執行役を経て、2019年4月B.MARKETING株式会社 取締役に就任。日本バスケットボール協会とB.LEAGUEのマーケティングを統括し、ファンベースの拡大を推進。2021年7月メルカリMarketing Directorに着任。マーケットプレイス事業の成長に寄与。
2023年1月より現職。

野山嶺氏

株式会社REJECT 新規事業開発室長 兼 事業統括本部営業部長

同志社大学商学部卒業。
2018年4月P&Gジャパン合同会社に入社。
P&Gでは、家電ブランド「Braun」「OralB」のECモールやTVショッピング、家電量販店など10以上の小売店での営業責任者として、売上成長に寄与。2021年3月より現職。

■主催・モデレーター:江端浩人 江端浩人事務所代表 次世代マーケティングプラットフォーム研究会 主宰 
■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■共催・進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■グラレコ:松田 海 氏 グラフィックレコーダー http://orangemotion.strikingly.com/
■会場:iU情報経営イノベーション専門職大学 竹芝サテライトオフィス
 
 

トップランナーたちが独自の取り組みを紹介

フォーラム前半では、今回のテーマであるWeb3やメタバースなどに取り組む4つの企業の担当者が登壇し、それぞれが展開する独自のサービスについて紹介した。

ゲスト講師による各講演をまとめたグラレコ

必要なのは「楽しい」こと、誰もがバーチャル空間に来るきっかけを
さわえみか氏:株式会社HIKKYクリエイティブディレクター、取締役COO

HIKKYはメタバースイベントの企画運営や、VRエンジンの提供などを手掛けている。役員もそれぞれアバターを持ち、中には現実世界をリタイアし、リアルの顔も本名も明かさないまま働いている役員もいるという。

HIKKYはバーチャル空間最大級のマーケットフィスティバル、「バーチャルマーケット」を開催している。世界中から100万人以上が来場するVRイベントで、メタバース上の会場には数多くの企業が出展。VR空間で買い物をしたりライブに行ったり、VRならではの体験ができる。

さらにこの春、「My Vket(マイブイケット)」をリリース。5億通り以上のアバター作成が可能で誰でも簡単にアバターやバーチャルルームを持てる、新メタバースサービスを展開している。

さわえ氏はバーチャルマーケットを含め、メタバースはクリエイターが「楽しい思える環境で作ることが大切」と話す。「全人類がバーチャル空間に来るきっかけをつくりたい」という思いで、日々楽しみながら、ユーザーが楽しめるさまざまな仕組みを発信している。

青森ねぶたの下絵をNFTで販売、テクノロジーを活用し文化と人々の想いを継承する
深谷尚史氏:電通事業共創局プロジェクト推進部ゼネラル・マネージャー

電通は昨年、グループを横断して顧客企業のWeb3関連ビジネスを支援する「web3 club」を発足させた。

web3 club ではテクノロジーの進化に加え、今社会に起きている大きな変化への対応をテーマに掲げ、とりわけマーケティング、クリエイター、メディア、デジタルエコノミーの4つの変化に対応するさまざまな施策に取り組んでいる。

その一つとして、デジタル経済化が進む中、DX化が遅れ課題を抱えている地方を支援するために企画されたのが「青森ねぶた祭NFT化プロジェクト」だ。

ねぶたの山車は3カ月にも及ぶ時間と2000万円の費用、そして作り手の想いを込めて制作されるが、その大きさから保存が難しく、祭りのあとは毎年壊される運命にある。この企画は、ブロックチェーン技術を使ってねぶたの下絵をNFT化し、作品を後世に残すとともに、販売金額の一部を寄付して地方支援につなげることを目指したものだ。青森のねぶた師と現代アーティストがコラボレーションした作品などを作り、NFTとして販売。また、2023年のふるさと納税返礼品としても活用している。

同様の課題をかかえる地方を支援するため、今後はこの仕組みを、日本全国の祭り、伝統芸能、文化の継承に役立てていく計画だ。

推しと二人きりでVR空間に…Web3を使ったVTuber関連サービス
竹内一博氏:株式会社DONUTS経営企画室プロジェクトマネージャー

DONUTSはクラウドサービス、動画・ライブ配信、メディアなど多くの事業を展開している。数年前から力を入れているのがVTuber関連のサービスだ。

2021年にスタートした「ときめきVR」は、ファンが推しのVTuberと一対一で話すことができるプラットフォームで、現在およそ900名のVTuberが登録している。元々、VTuberにはアイドルの握手会をZoomで再現したりDiscordの通話などを使いファンと1on1で交流したりする文化がある。VR空間を使ってより臨場感ある体験を提供しようとしたのがこのサービスの始まりだ。ユーザーはVRヘッドセットでも、スマホでも好きな端末から参加ができる。

接続にはWebRTC(Web Real-Time Communication)という技術を使い、VTuberとファンをP2P通信でサーバーを通さずつないでいる。この仕組みによって、どれだけ多くの人が同時に接続してもシステムが落ちることなくサービスを提供できる。またログが残らないため会話内容についても外部に漏れる心配がない。

竹内氏は、「VTuberは一般的にはまだなじみがない世界かもしれないが、実は、こんなところにもWeb3が使われている」と紹介した。

DONUTSでは、今後VTuberだけではなく、360度カメラで撮影した実写映像をリアルタイムで送信し、VR空間で実際のアイドルと二人きりになれるサービスを展開する予定だ。

巨大なプラットフォームであるゲームを活用し、メタバース事業の課題を解決
塚本 陽一氏:株式会社REJECT 執行役員事業統括本部長
野山 嶺氏:株式会社REJECT 新規事業開発室長 兼 事業統括本部営業部長

REJECTはプロeスポーツチーム「REJECT」の運営を軸に、タレントビジネス、大会・イベント運営、メタバースなどの事業を展開している。ゲームに関連するさまざまな事業を通して、新たなゲームカルチャーの創造とコミュニティの形成を目指す組織だ。

REJECTが現在取り組んでいるのが、大型メタバースプラットフォームでもある世界的な人気ゲーム「Fortnite」を活用したメタバース事業。メタバース事業に取り組む企業は増えてきているものの、若い人が集まらない、リアリティあるメタバース空間ができない、利用者が少ないといった悩みを抱え、なかなかうまくいかないケースが多いという。REJECTでは3.5億人以上が登録するFortniteをベースに、REJECT所属のクリエイターなど自社のアセットを活用することで、こうした課題を解決できると考えている。

例えば、制作したメタバースの知名度を高めるために、著名なYouTuberなどのインフルエンサーを招致して大会を開催。大会運営のノウハウやインフルエンサーとのコネクションを使い、制作するだけではなく、拡散し人を集めることもできる点が大きな強みだという。

塚本氏は今後の展望として、「eスポーツ、メタバースをいっときのムーブメントで終わらせたくない。本質がどこにあり、企業のビジネスやマーケティング活動にどう寄り添い課題解決につなげていくのか、愚直にトライしていきたい」と話している。

NFTは一般にハードルが高い?普及するポイントとは

パネリストの発表に続き、会場ではディスカッションや質疑応答が行われた。一部を抜粋して紹介する。

質問NFTはまだハードルが高く、売れているのは一部の人にとどまっている。自分でも作ってあげてみたが、かなり大変だった。また、個人的には、NFTを単体で売るのはなく、メタバースなど何かと組み合わせた方が価値は上がるのではと感じている。一般にNFTを普及させることは可能なのか、それぞれの立場でどう考えるか。

深谷氏:仮想通貨とウォレットを持つという点が、NFT普及を目指すときにぶつかる現時点での非常に大きな障壁だと思っている。ウォレットと暗号資産取引所の口座をコンバインできるなど、今後新しいサービスが出てくれば、その点での障壁は下がるはずだ。
一方でNFTを出せば高値がつくという状況は崩れ去っている。これからNFTを一般の人に広げていくには付加価値が重要で、メタバースも有効な手段の1つだと思う。ほかにも例えば、リアルで何かに参加できるなど、付加価値の作り方はたくさんある。NFTにどのような付加価値を加えるかが、今後の重要なポイントになるだろう。

竹内氏:ものをつくる仕事をしている立場とすると、技術としてNFTを選択すべき理由があるかどうかが重要。NFTにもいろいろあり、再販売不可のものもあれば貸せるもの、償却されるものもある。それぞれいわば技術によるもので、コードの進化にともなってとりうる選択肢も増えていく。達成すべき目標を達成するのにそのほうが有利ならNFTを使うし、ニーズがあれば技術も進化するはずだ。
例えば先ほどのねぶたの下絵をNFT化する話で考えると、NFT化することでねぶたが世界に認知されていく。すごいな、観に行きたいなと思ったら、メタバースでやっている。メタバースの中で、ラスベガスの隣でねぶたを楽しめる…そうしたものが全部あわさってひとつの文化、マーケットを作っていくのでは。ひとつの入口として、NFTはいいアイテムだと思っている。

質問:日本のメタバース、取り組みの位置づけをどう感じているか。加速させようと思うと何が必要か。

さわい氏:リアルな延長線上で自分のアイデンティティを持って参加している人たちと、ビジネスで何かをしようとしている人たちで、現在は溝がある。例えば若いクリエイターのコミュニティはビジネスの側面が強いものが入ってくるのを嫌い、相容れない状況で、下手をすると炎上してしまう。
これから必要になってくるのは、そうした対立をなくして、メタバースに関わる人たちが、いろいろなメタバースの文化や、他で何をやっているのかを知り、いいところを取り込んでいくことではないか。そうしたことができる仕組みが発明されていく時期なのではと感じている

塚本氏:今は、ビジネスとして、企業がマーケティングしてどう活用するかという点に議論がいきがちで、お客様や体験する人にとって、それがないと何がだめなのか、どういう形でそれが必要かという議論がおざなりになっている。自分の反省も含め、何ができるっけという話がつい先行してしまう。
自分たちがやっていることは企業にとってだけではなく、その先にいるお客様、生活者にどんな体験を提供できているのか。メタバースがあり、その中でどんな価値を提供できているのか。それをつきつめるといい形でソリューションが深化し、その先にWeb3やメタバースの未来が日本でもみえてくるのではないかと感じている。

江端氏:プラットフォーム戦略という言葉が昔あったが、ブラウザというインターフェイスしかない時代は、いわゆる囲い込み合戦が繰り広げられていた。対して、Web3は解放合戦になるのではないか。対立するのではなく、全体がプラットフォームとしてうまく機能していくことで、そこにネットワーク効果が生まれるのではと感じている。きょうの話を聞き、気付きを得た点だ。

パネルディスカッションの内容をまとめたグラレコ

まとめ

Web3・メタバース・NFTなど、新しいテクノロジーが注目を集め、ビジネスシーンでもさまざまな取り組みが始まっている。しかし、画期的で新しいサービスを提供できる可能性を秘める一方で、人々に必要とされ、価値を提供できるまでにはさまざまな課題がある。テクノロジーの進化とともに、時代にあった利用シーンを創造し、より豊かな社会につなげることができるのか、今後の動向が注目される。

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

D4DRは、イベントの企画・運営などのトータルサポートサービスも提供しております。

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