森ビル 杉山央氏×未来の街【前編】 「チームラボボーダレス」仕掛け人が考える、未来の街のデジタルとリアルの関係性


2020年7月現在、世界の多くの都市は、新型コロナウイルス流行の影響を受けている。人の移動・交流が活発化したことのリスクが露呈した一方で、スマートフォンによる感染者の追跡など、デジタル化した都市のウイルス対策が注目を集めている。パンデミックに直面した都市のあり方やこれからの街づくり、そして都市のデジタル化の潮流をどう考えれば良いだろうか。

未来の都市・街づくりをテーマに、「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス )」で企画運営室長を務めた森ビル株式会社の杉山央氏と、FPRC研究員の藤元、早川(プロフィールはこちら)が対談を行った。

前後編でお送りする対談の前編では、リアルならではの体験の価値を追求したデジタルアートミュージアムの成功と、不要な移動がなくなる時代のデジタルとリアルの関係性について語った。

後編はこちら「【後編】 アフターコロナの街における、コミュニティ・公共空間とモビリティの可能性

杉山氏の自己紹介

杉山:
「街を楽しくしたい、もっと街で遊びたい。」という気持ちで、当時、六本木ヒルズが着工したばかりの森ビルに入社しました。タウンマネジメント事業部、都市開発事業本部を経て、六本木ヒルズでのアートイベント等や展覧会を企画する仕事をやってきました。この経験を生かし2018年に世界最大級のデジタルアートミュージアム「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」の企画を行いました。オープンまでには色々な苦労はありましたが、想像を超える反響がありました。開業一年間で、160ヵ国以上から約230万人を動員し、東京の新名所と呼ばれるような施設となりました。現在は、新設された「新領域企画部」という部署で、これからつくる新たな「街」のプランニングをしています。

デジタルアート ミュージアムの成功

藤元:
やはり最初の話題はお台場のデジタルアート ミュージアムですね。デジタルには「いつでも、どこでも、誰とでも」を実現できる良さがありますが、デジタルアート ミュージアムでは「今だけ、ここだけ、あなただけ」という、そこを訪れてこそ体験できる価値にうまくデジタルを使っていますよね。デジタルなのにそこに行かなければならない価値を作り出しているのは、狙い通りだったのでしょうか。

杉山:
デジタルアート ミュージアムを作るときに特に意識したのは、ここに来ることでしか体験できない価値をどのように作り出すか、という点でした。映画や小説など、ストーリーが決まっているコンテンツは世の中に溢れています。同様に従来型の美術館も順路が決まっています。我々のミュージアムでは、あえて迷路のような空間を設け、地図も無くしました。少し不便な環境をつくりだすことによって、この不便さをクリアーする行為が、ひょっとしたら楽しさとして変換されるのではないかと考えたのです。

今の時代はスマホによって目的地に最短距離で行けたり、欲しいモノが瞬時に注文できるからこそ、自分で歩き回って「この先の通路を曲がると何がある」というワクワク感を生み出すようにしています。

ここでは誰一人として同じ体験はありません。自分だけのストーリーが出来上がるんです。まるで一人ひとりが物語の主人公となって、皆それぞれ違うものを見て感じて帰っていただけるようなコンテンツになっていると思います。

(Exhibition view, MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless, June 2018 – permanent, Tokyo
© teamLab)

不動産ディベロッパーの立場から考える、4つのデジタルとリアルの関係性

杉山:
コロナで世の中のデジタルシフトの流れが加速したことで、これまでの「場所を共有する時代」から、「時間を共有する時代」へ変化してきたと感じています。不要な移動はより少なくなり、本当に移動しなくてはならない、会う必要があるものについてはより価値が高まるのではないかと考えています。

リアルな場所を所有している不動産ディベロッパーとしては、4種類のデジタルとリアルの関係があると思っています。1つ目が、リアルな場所から配信をすることによって他の場所とつながるというオーソドックスな関係です。この場合、素敵な場所から配信することによって配信映像も素敵になるというように、リアルな場所の価値が配信のコンテンツの価値につながります。

2つ目が、リアルな場所をデジタルで魅力的にするという関係です。デジタルアート ミュージアムのように、リアルな場所にプロジェクションマッピングなどを導入することで豊かなものにしていこうということです。

3つ目は、デジタル上に、本物とそっくりな空間が最近できていますよね。バーチャル渋谷のように、ミラーワールドと呼ばれる場所です。そういったバーチャル上の空間に、リアルな不動産を持っている我々ディベロッパーがどう向かい合うべきなのか。例えば、バーチャルな六本木ヒルズができた場合に、リアルな六本木ヒルズを持っている自分たちの強みを生かしてビジネスができるものなのか、と考えています。

4つ目は、リアルな場所と全く紐付けられていない、メタバース的なゲームの世界のようなものです。今、オンラインゲーム上で数千万人が参加する音楽イベントも行われていますよね。都市の定義を拡張し、人が集まる空間・人と会える場所として定義すると、こういったオンライン上の空間も都市と捉えることができます。自分たち不動産ディベロッパーが、長年リアルな都市でコミュニティ作りやエリアマネジメント、タウンマネジメントで培ってきたものが、そこでも使えるのではないか、という仮説を持っているんです。

3つ目と4つ目は、不動産ディベロッパーとしてどう向き合うか、僕の中でまだ答えが出ないのですが、オンライン上の空間に対してどう取り組んだらいいかを悩みながら考えているところです。

 

デジタルアートミュージアムの、リアルな体験価値を追求するあり方は、スマートシティにおける生活者の体験について考える際のヒントを与えている。デジタル化した未来の都市では、リアルな場所を持つ不動産ディベロッパーの役割も、「デジタルシティディベロッパー」とでも呼ぶべきものへと変化するという。後編では、コミュニティや公共空間を重視する都市のあり方や、モビリティの可能性について語った。

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