【未来戦略コンサルタント藤元健太郎が考える】未来の商業施設と可処分所得のシェア争い

日本社会はいよいよ人口減社会になる中で,急激な移民政策を採らない限りは一人あたりの消費額が減少していくことが確実な未来になりつつある。まさに小売り業界にとっては市場全体が縮小していく中でパイの奪い合いの戦いという未来が待っていると言えるだろう。パイの奪い合いが意味するところは顧客の可処分所得の奪い合いでもあり,当然顧客ニーズを知り,コンタクトポイントを増やし,顧客の購買意欲を生み出し,購買ニーズが発生した瞬間に可能な限り広いジャンルのサービスや商品を購買してもらえるポジションを築く必要がある。当然これまでの業態やカテゴリーに固執する必要は無く,例えば現在好調なドンキホーテが取ってきた戦略は示唆に溢れている。

もともとは安さと圧縮陳列のユニークさで発見に溢れた店内は時々訪れてみたくなるような強烈な体験価値がある店舗だった。しかし,食品とPB商品の充実により現在では定期的に買い物に行く目的買い店舗になり,顧客の訪問フリーケンシーはとても高くなった。そこから思わず買ってしまう商品によるクロスセルで客単価が上がっていく仕組みを確立している。またディスカウントストアでありながら,ブランド品やお酒などを始めとした高単価な富裕層向け商品も揃えており,富裕層の取り込みにも成功している。このように従来の業態に縛られない店舗の体験価値とマーチャンダイジングの自由さは商業施設が可処分所得所得のシェアを高める上では今後重要になるだろう。

顧客を知る

一方でLTVを上げていくためには当然顧客を知ることが大事になる。当然のように多くの商業施設はこれまでの会員カードやポイントプログラムなどを活用して顧客の来店動向や購買履歴などを分析するアプローチに注力してきているが,まだまだ顧客をランク化し,おおかまにライフスタイルを推測しているに過ぎない。顧客が地域でどんな生活をしていて,どんな生活を求めているのか?をしっかり情報銀行のように把握してどうするべきかを考えて行くべき時代に突入するだろう。例えば健康不安があるなら,それを解決するためには運動を一緒にしてくれる人を探してくれるところや,食事も提案できるようなところまで踏み込むコミュニケーションが求められる。テナントもそれぞれ顧客エンゲージメントを高めることも求めていくだろうが,やはりライフスタイル全般を受け止めるプレーヤーとしては大型商業施設か総合リテールカンパニー,Amazonのようなオンラインストアに限られてくるだろう。そうなると当然のようにカード会社やポイントプレーヤー,場合によっては通信事業者との融合なども加速することも考えられる。

地域との共創

さらにこれからの商業施設において重要なのは少子高齢化と過疎化が同時進行する日本の地域における社会課題を解決する重要なプレーヤーとしての立ち位置だ。特に施設として捉えると地域コモンズとしての役割がますます求められるようになるだろう。例えば「高齢単身世帯が惣菜やお弁当を買って自宅で一人で食べる」というスタイルを増やすことが社会のウェルビーングになるのか?という視点が重要になる。これからは地域の共同食堂を施設内に設定し,地域の独居老人が孤独を感じないでみんなで食事を楽しむ。場合によってはキッチンも併設し,購入した食材を調理して子供食堂として地域の子供達にも振る舞えるような,商業施設が「買い物の場」ではなく「地域のコモンズ」になることが社会としても求められるだろう。食堂だけでなくスポーツ施設や農園や銭湯などの温浴施設なども持つべきコモンズ施設としての候補になると考えられる。

合わせて地域の魅力を再生産し,拡大していくような役割も求められるだろう。これまでの画一的なナショナルブランドだらけの代わり映えのしないステレオタイプの商業施設から脱皮し,地域性を出すためにも地域特性を活かしたローカル性のあるパパママストアのスモールビジネスを商業施設内で創造していきやすい仕組みも必要だろう。寂れてしまった地域商店街をむしろ商業施設内で再興して取り込むようなアプローチが必要になる。それが結果としてインバウンド向けの価値創造にもなり,増加する多拠点生活者が関係人口として少しでも関わりを持ちたいと思える拠点となるのも未来の商業施設に求められるポイントだろう。

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