『Z世代の企画屋さん』と語る未来の働き方・組織マネジメント・価値観

Z世代へのマーケティング・企画UXを専門とする「Z世代の企画屋さん」こと今瀧健登氏にお話を伺った。今瀧氏は自らもZ世代で、僕と私と株式会社CEOを務め、経営者としては”サウナ採用”などのユニークな働き方を提案している。

対談の場所は、築70年の元銭湯を改装した居酒屋<不健康ランド 背徳の美味>。「昭和レトロ」を楽しめる空間として、Z世代の人気を集めている。異なる世代の二人が価値観や働き方の変化など、幅広いテーマについて対談した。

左:今瀧健登(ゲスト)、右:藤元健太郎(聞き手)

プロフィール
今瀧健登 僕と私と株式会社 代表取締役 / 一般社団法人Z世代代表 / Z世代の企画屋
僕と私と株式会社CEO。1997年生まれ。Z世代へのマーケティング・企画UXを専門とし、メンズも通えるネイルサロン『KANGOL NAIL』、食べられるお茶『咲茶』などを企画するヒットメーカー。Z世代代表として多数のメディアに出演し、”サウナ採用”などのユニークな働き方を提案するZ世代経営者。一般社団法人Z世代の代表も務める。(Twitter:@k_hanarida)

藤元 健太郎 FPRC 主席研究員 / D4DR 代表取締役
元野村総合研究所、元青山学院大学大学院 MBA 非常勤講師、関東学院大学非常勤講師。 1993 年からインターネットによる社会変革の調査研究、イノベーションに関わる多くのコンサルティング、スタートアップを支援。

対談場所
不健康ランド 背徳の美味 https://twitter.com/fukenkouland
元銭湯酒場 東京都文京区根津 築70年の元銭湯の女湯で酒を飲むという背徳感 最高にトトノワナイ体験を コンセプトは『心の洗濯、入れる一服』

今瀧健登×藤元健太郎 対談①「Z世代の企画屋」今瀧健登さんと語る”複業”

今瀧さんの学生時代からの”複業”経験

藤元 今瀧さんは、大学在学中から現在までマルチに活躍されていますよね。まずは、今瀧さんの起業や複業のご経験についてお伺いしたいです。

今瀧 大学では家庭科を専門に学び、小学校の特別教員をしていました。在学中に「花クリエイター」として起業し、新卒で就職したのが2020年4月、ちょうどコロナが流行し始めた頃で、入社初日から急遽リモートワークになるという状況でした。そのため副業としてビジネスを立ち上げ、その後半年ほど勤めた後に会社を退職し、2020年11月に「僕と私と株式会社」として法人化。現在は自社を中心に活動しています。

藤元 マルチに活動する”複業”のライフスタイルは、今後も実践する人が増えていきそうですね。

今瀧 僕自身もそうですし、Z世代に限らず今後マルチな働き方をする人は増えていくだろうと感じています。いろいろな価値観を知ることができたり、自分の強みを活かせたりと、メリットが多いですよね。

藤元 私もコンサルティング会社の代表を務めながら、大学の非常勤講師をしたり、スタートアップの経営をしたりしています。マルチに取り組んでいることは全てビジネスにプラスになると実感しています。

Z世代は「一般論より自分論」

藤元 Z世代に関連して、最近注目しているニュースはありますか。

今瀧 位置情報を共有できるアプリ「Zenly」のサービス終了のニュースは、周囲で話題になっていました。学生時代にZenlyが流行ったときは位置情報をリアルタイムで人と共有することに抵抗感があったのですが、社会人になってからよく飲みに行く友達が使い始めたのをきっかけに、僕も使っています。位置情報がわかることで「近くに2~3人集まっているからちょっと飲みに行こうか」といったコミュニケーションが生まれるのが良いなと思っていたので、サービス終了は結構ショックでしたね。

藤元 我々の世代だと「自分の居場所が知られるのは嫌だ」などと否定的な意見を持つ人も多いですが、Z世代は情報を共有するかどうかをうまく使い分けている印象です。

今瀧 そうですね。Z世代は生き方から利用するサービスまで、膨大な選択肢から選べるという自由を実感している印象です。Zenlyのアプリをスマホに入れるか入れないかはもちろん、誰と位置情報を共有するかも自由という意識を持って使っている人が多いと思います。一般論より自分論を軸にして生きるというか。

藤元 FPRCでは「超選択肢社会」、つまり働く場所・住む場所、所属するコミュニティや家族のあり方もあらゆるものの選択肢が増える社会を未来社会のキーワードの一つとして提唱しています。選択肢の多様化はZ世代を理解するキーワードでもあるかもしれませんね。

 

Zenlyのアプリ画面
(出典:Zenly SAS プレスリリース)

Z世代にとってシェアリングは当たり前

藤元 Z世代のキーワードとして、「シェアリング」もよく挙げられますよね。

今瀧 シェアリングは僕たちZ世代にとっては当たり前のことで、上の世代から「Z世代はシェアリングエコノミーが当たり前だよね」と指摘されることで、彼らはそうではなかったことにはじめて気づくという感覚です。例えば、モバイルバッテリーはシェアサービスを使いますし、車も持たずにカーシェアリングを利用しています。Z世代がシェアリングをする理由には効率的化できるといったメリットのほかに、Z世代ではモノを所有することに伴うプライドやかっこよさのような感覚が失われていることもある気がします。

藤元 物を持ちたい、独占したいという考えが総じて上の世代のものなのかもしれませんね。

Z世代の家族コミュニティの捉え方

藤元 ここからは、2030年~2040年をターゲットとした約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」から、今瀧さんが重要だと思う項目として選んでいただいたテーマについて議論したいと思います。まずは、「家族の概念の多様化」についていかがですか。

今瀧 Z世代の特徴は、中学校と高校で家庭科が導入されていた世代で、多様な家族のあり方があるということを学んでいることです。いろいろな人がいて良いよねという考え方がベースにあって、新しい家族の形も否定せず、洗練された新しいあり方だと捉える人が多い印象です。

藤元 「コミュニティの重視」も注目する未来コンセプトとして選んでいただいています。

今瀧 Z世代はコミュニティをすごく重視します。これまでは会社が個人にとって重要なコミュニティとして機能していましたが、今は働く場所・時間が柔軟になり、所属できるコミュニティの幅が広がっています。オンラインサロンなどネット上のコミュニティも含めると、自分に合うコミュニティを探して参加できる機会がかなり増えたと感じます。

「未来コンセプトペディア」カード

コロナ期の新卒世代はオンラインで働くことが当たり前に?

藤元 「組織マネジメントの変化」についてはどうでしょうか。

今瀧 働き方の変化に伴って、組織のあり方も大きく変わります。僕と私と株式会社はコロナ禍で立ち上げたために、設立当時から全員がリモートワークで働いているんです。そのためオフラインからオンラインに切り替える際の障壁は一切なかった代わりに、オンラインからオフラインにしようとすると障壁が生まれます。一度、メンバーから「え!オフラインで集まるんですか!?」と驚きの声が出たこともあります。私自身は一度就職したこともあるので、リアルで集まるのは当たり前のことだと思っていたのですが、リモートワークが当然の環境で働き始めた人たちは「オフラインで集まってどうやって仕事するの!?」といったくらいの価値観を持っているんですね。こうした経験を経て、時代の変化に合わせて組織のあり方やマネジメント方を変えていく必要があると実感しています。

「未来コンセプトペディア」カード  

僕と私と株式会社の「社外メンター制度」

藤元 教育や学びの未来に関する複数の項目を選んでいただきました。先程のリモートワークの話を聞いて、今の若い人は従来型のOJTで背中を見て仕事を一緒にしながら学んでいくということが難しい環境にあると感じました。個人の視点からは、会社の教育をあてにせず自ら学んでいくことが大事になっていくのかなと思いますが、今瀧さんはどうお考えですか。

今瀧 実は僕と私と株式会社には教育制度が存在せず、「メンバー全員の社長化」という考え方や「社外メンター制度」などを設けています。前者は起業することで自分ごと化していろいろなことが学べるという意図で、社内から多くの企業が生まれています。後者は、各自が社外で自分が目標とする人を探して、その人を僕と私と株式会社が雇い、複業でメンターとして入ってもらう制度です。会社組織の中で人を配置しようとするときにはどうしても会社の都合が介入しますから、「上司ガチャ」と言われている現象は少なからず存在すると思います。一方で社外メンター制度はそういった偶然の要素がないのがメリットです。

藤元 メンターは自分で見つけるという点で「師匠」のような存在だなと思いました。私も師匠と弟子の時代がもう一度来るのではないかと思っています。これからは先生や上司というより、師匠を見つけることが大事になるかもしれませんね。

「未来コンセプトペディア」カード

未来の生活者の欲求

藤元 ここからは、未来の生活者の欲求について議論したいと思います。FPRCでは、未来に新たに登場するか、より多くの人が持つようになると考えられる生活者の欲求やニーズ、価値観を71項目で整理しています。今回はそこから今瀧さんが注目する項目を選んでいただきました。

「住む場所を自由に決めたい」

藤元 「住む場所を自由に決めたい」という欲求についてはいかがですか。

今瀧 僕と私と株式会社はフルリモートなので、北は北海道から南は石垣島まで、みんなバラバラの場所で働いているんです。ホテル暮らしで各地を転々としながら暮らしている人もいます。場所にとらわれないのはすごくいいことだと思います。

藤元 そうですよね。障壁になるのは子どもの教育や介護だと思いますが、義務教育からオンラインで授業が受けられるようになったり、介護も移動しながらできたりすると、みんなが住む場所を自由にできますよね。

「自分の活動時間を自由に定義したい」

今瀧 ビジネスでは、本来は個人がいかに生産性を高められるかに注力すべきだと考えていて、そうなると9時5時とかで決まった時間軸で働くということは今後は変わっていくのではないかと思います。

藤元 今の制度では、経営者は社員がどこで働いているかや残業時間を管理していないといけないことが障壁になっているので、その辺が自由になってほしいですね。

「自分に最適な他者やコミュニティなどを提案してほしい」

今瀧 TwitterとかInstagramでは、フォローのおすすめが出てきますが、それは個人ベースの提案で、コミュニティベースの提案は少ないですよね。世の中にコミュニティがたくさんあるのは知っていても、どうしても出会う機会があまりないので、増えると楽しいなと思います。

藤元 他者やコミュニティなどとのマッチングサービスが世の中にあれば、最適な友達や師匠、メンター、コミュニティと出会えます。親ガチャにしろ上司ガチャにしろ、少しつらい状況になったとしても、これがあることで心理的な不安が和らぐ人も多い気がしますね。

「黒歴史を消したい」

今瀧 黒歴史を消したいニーズは今後増えると思います。僕たちの世代は学生時代からSNSを使っていて、例えば親になって子どもがInstagramを使える年齢になったときに、子どもに「お父さんのインスタ見つけた」と言われる可能性もあります。数十年後に自分の子どもに学生時代の趣味嗜好で投稿したものが見られるのは結構リスクがあるなと思いますね。

「社会全体の共通の話題を作りたい」

今瀧 昔はテレビなどを通してたくさんの人が共通して関心を持つ話題がありましたが、今は情報収集先がたくさんあるので、共通の話題や認識が少なくなっています。登録者数が100万人を超えているYouTuberでも知らない人は多いですよね。このような時代でも、みんなで共有できる話題を作ることができれば嬉しいなと思います。

藤元 それは昭和世代としても嬉しいです。やっぱり私たちの世代は共通のテーマや話題が結構あるんです。例えば、銭湯はみんなが経験しているので風呂桶やコーヒー牛乳の話で盛り上がれて、仲良くなれたりします。今は興味関心が細分化されているなと思っていたので、やっぱり共通の話題が欲しいと聞いて嬉しいです。


FPRCでは、2030年~2040年の未来戦略を考えるための約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」を公開しています。未来創造に役立つ集合知として質を高め続けていくための共創の取り組みとして、 様々な分野の有識者の方々などにご意見をいただき、更新を行っています。

FPRCでは、未来コンセプトペディアをはじめとした弊社独自のナレッジを活用したアイディア創出ワークショップも提供しています。ご興味がございましたら、「未来創発ワークショップ」をご覧ください。

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