未来の都市におけるアーバンファーミングの可能性
【FPRC未来コンセプト対談 Vol.1】

未来のスマートシティと聞くと、自動運転やAIといった近未来的なテクノロジーのイメージを持つ人も多いだろう。しかし、「持続可能な食と農を、楽しく社会実装する」ことを目指し、IoTやAIなどのテクノロジーを使ったアーバンファーミング(都市農園)事業grow」を手がけるPLANTIOは、農と食、人と人との交流を軸とした異なる方法で都市にアプローチしようとしている。PLANTIO代表の芹澤孝悦氏に、2030年~2040年をターゲットとした約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」を手がかりとし、サーキュラー・エコノミーや江戸時代の暮らしをキーワードに都市や農の未来について伺った。

PLANTIOの世界初の定額制「都市型シェアファーム」サスティナパーク 恵比寿プライム
(D4DR撮影)

食と農をハブとしたコミュニティ形成の可能性

藤元(聞き手):

現在のスマートシティや都市の未来に関しては、自動運転などテクノロジー寄りの議論が多いですが、PLANTIOは、人間の有機的な生活に植物や野菜の栽培が入っていくという、新しいアプローチをしていますよね。芹澤さんが未来の都市について考えていることをお伺いしたいです。

芹澤氏:

スマートシティや都市のDXの文脈でも、テクノロジーはハードウェアであくまでツールの一つで、大事なのはソフトウェア、つまり中身です。そして、古くて少し懐かしいような、同時に新しい未来に鍵があると思っています。

PLANTIOの事業は、持続可能な食と農を社会実装しようとしています。私の理想像は、かつての日本のような、食と農を核とした小さなコミュニティがたくさん形成され、可視化されている社会です。江戸時代にはスモールコミュニティが至るところに存在していて、例えば山を越えて二つ向こうの集落には誰が居てどんなことをしているか、何を育てているか、といったことはお互いにわからなかったんですね。それが、テクノロジーがあれば可視化できるので、みんなが野菜を栽培していいタイミングで食べに行ったりして分かち合うこともできます。

藤元:

コミュニティに関して、私も江戸時代について研究をしていますが、江戸時代には銭湯の2階が、地域の人が集まるコミュニティスペースになっていたことを思い起こしました。今、都市にはそういったスペースがあまりなく、都市農園はご飯を作って食べたり収穫祭をしたりといった形で、地域のコミュニティの拠点になる可能性があるのではないかと思います。

ゲスト: 芹澤 孝悦 氏
エンターテインメント系コンテンツプロデューサーを経て、日本で初めて“プランター”という和製英語を発案・開発し世に広めた家業であるセロン工業へ。2015年、元祖プランターを再定義・再発明すべくプランティオ株式会社を創業。しかし祖父の発明の本質は高性能なプランターを開発した事ではなくアグリカルチャーに触れる機会を創出した事と捉え2020年“grow”ブランドを発足、食と農の民主化を目指す。

聞き手:藤元 健太郎
FPRC 主席研究員、D4DR 代表取締役。元野村総合研究所、元青山学院大学大学院 MBA 非常勤講師、関東学院大学非常勤講師。 1993 年からインターネットによる社会変革の調査研究、イノベーションに関わる多くのコンサルティング、スタートアップを支援。現在「超江戸社会」を提唱。

芹澤氏:

そうですね。現代のコミュニティスペースのあり方はどこか少し画一的だなと感じています。コミュニティは、「コミュニティスペースなので使ってください」という形ではなく、畑仕事のついで、銭湯に行ったついでに話をするとか、何かの傍らに発生するもので、場の設計も、本来はそのようなデザインであるべきだと思っています。現代は、食べる行為と育てる行為が分断されてしまっていることで、本来起こりうるはずのコミュニケーションや人との交流のチャンスが失われてしまっている。だから、みんなで育てて食べるということをもう一度見つめ直すことは非常に重要だと思います。

藤元:

約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」から、芹澤さんが重要だと考えるキーワードの一つとして「シェアリング志向」を選んでいただいていますが、コミュニティはシェアリングとも関係しますよね。

「未来コンセプトペディア」関連項目

芹澤氏:

そうですね。最近はシェアリング志向が定着してきていますが、日本にはもともと、江戸時代から続く、もったいない精神のもとでモノを長く使ってシェアする文化があり、馴染みがある人も多いでしょう。

PLANTIOの領域でいうと、野菜栽培、つまり私達にとって最も大切な食を大切な人たちとシェアするというのは、さまざまなものの中でも大事な価値観のうちの一つだと思うんですよね。そういったことを復興させていくことで、モノを持たない価値観の広がりも相まって、在りし日のカルチャーへの原点回帰が進むのではないでしょうか。

アーバンファーミング(都市農園)とサーキュラー・エコノミー

藤元:

江戸時代を手がかりに、「サーキュラー・エコノミー」について伺いたいと思います。江戸時代には、商人が暮らす長屋の大家が、住民の糞尿を農家に売って収入を得ることで、家賃を下げることができていました。循環型社会であると同時に、商人の所得水準が低くても豊かに暮らせる非常に良い仕組みだと思うのですが、現代の都市でも野菜を育てることで、食の一部を賄えたり生ゴミを堆肥に活用できたりといった、サーキュラー・エコノミーや自給自足的な生活が広がるといったことがあるのでしょうか。

芹澤氏:

江戸時代は自分たちが食べるものは自分たちで担保しようという社会で、その上で必要であれば長屋で傘を貼ったりしてお金を稼いでいましたよね。一方で現代は資本主義経済が行き過ぎてお金ありきの社会デザインです。資源が全てお金化され、本来循環していたものが回ってこない。そこでリソースを手に入れるためにどんどんお金が必要となり、競争になってしまっています。でもこれからは、必要最低限のものにだけリソースを割いて何とか生きていくという社会デザインへの原点回帰が起きる気がしています。

藤元:

そういう意味では、SDGsが提唱されるずっと前から日本ではサーキュラーな生活が営まれていて、工業化社会を経て一度忘れられてしまいましたが、もう一度そこを取り戻せばいいと自信を持てるという気もしますね。

芹澤氏:

SDGsは、17項目のうち9項目が人類の食糧生産に関するものです。それは「農」が「農業」化し、「畜産」が「畜産業」化するという産業構造化による弊害が問題となっているとも言えるので、本来の農的な活動や食料生産・調達システムに戻すことで、課題は解消していくのではないでしょうか。

都市で自分たちで野菜を育てるアーバンファーミングは、中央集権的な野菜栽培から脱却し、最低限の食べるものはみんなで担保していくことにつながります。グローバルでは、フード・グリーンインフラと呼ばれる仕組みを、電気・ガス・水道に次ぐベーシックなインフラとして国を挙げて進めようという動きも出てきています。日本でもそういった取組が始まるといいですよね。

SDGs17項目(出典:国際連合広報センターのウェブサイト

食に関するグローバルなリスクと自給自足

藤元:

国内の農業に関わる人口は高齢化して減っていきますし、一方で海外から食料をたくさん輸入すると、水資源が枯渇しているところから水をたくさん使ってしまうことになるといった問題や、世界的なタンパク質不足、「プロテインクライシスの問題もあります。未来には食に関するリスクが色々あると思いますが、これからは自給自足が必然になっていくのでしょうか。

芹澤氏:

現在、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、各国が自国の食料の確保を優先し、輸出が止まる状況が起きています。そのような環境で、日本は2021年時点で農家さんの就業人口は130万人を切り、減少スピードは、一度農業崩壊を経験したイギリスの2倍です。一人の農家さんが支えないといけない国民の数は、限界値に達しているんです。グローバルではアーバンファーミングが急加速し、自分たちで育てた野菜を週に一食でも二食でも食べようという活動が広がっていますが、その背景には食料自給率の問題や、食肉となる牛や豚一頭あたりを育てるのに必要な水の量が多いといった環境負荷の問題があります。日本にもグローバルな危機のしわ寄せは来るので、我々PLANTIOとしては、楽しいことが持続可能であることのキーワードなので、持続可能な食と農を楽しく社会実装していきたいと思っています。

藤元:

できることから少しずつ、ということですよね。私も今家のベランダでリーフレタスを育てていて、昨日もサンドイッチにして食べました。朝自分で採りたてのレタスを食べられることは豊かだなと感じます。そのように一部でも良いから食生活に自分が育てたものが入ってくるのは良いことですね。

芹澤氏:

工業的でも無機質でもない、有機的であることは豊かだと感じるポイントです。そういった要素をどんどんライフスタイルに取り入れてもらいたいですね。

PLANTIOの技術は、気候危機による人類の火星移住も見据えている

藤元:

最後に、「未来コンセプトペディア」から重要と考える項目として選んでいただいた「個人向けAIエージェント」と「世界的な気候変動リスクの増大」についてお伺いしたいと思います。

芹澤氏

2つの観点から、AIエージェントとそれに用いるデータの取得が重要だと考えています。PLANTIOでは、農家さんではなく、一般の方々の野菜栽培からデータを取って学習しようとしています。それによって、それぞれの野菜がどのような気候や土壌で育つかといったデータがモニタリングできるので、桜前線のようにどの野菜がいつどこでなら育つ、ということが見えてきます。

そして、「クライメイト・クロック」によると、気候危機が後戻りできなくなるまでに残された時間はすでに5~7.5年を切っています。この間に地球の気候のデータを記録して保管しておくことは、そのデータを室内栽培や地球外で利用するためにも非常に重要です。

PLANTIOでは今の地球のデータをしっかり取得し保管することで、気候危機に対応したいと考えています。PLANTIOの中長期ロードマップには、「インドアファーミング」という屋内で栽培ができる技術を盛り込んでいます。地球がダメになってしまったとしても、我々は室内で育てる技術に転化し、食料の担保を実現したいと考えています。

気候が現時点ですでにかなりおかしくなってきていることは、日々植物と対峙している人はよくわかっています。将来は、地球外で食物を育てて生きていくことも必要になるかもしれません。正常な地球の気候を、データを基に屋内でも再現できれば、火星や月でも植物が育つわけですよね。そこにPLANTIOの技術が使えるはずだと思っています。


FPRCでは、2030年~2040年の未来戦略を考えるための4つのカテゴリに整理した約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」を公開している。未来創造に役立つ集合知として質を高め続けていくための共創の取り組みとして、 様々な分野の有識者の方々などにご意見をいただき、更新を行っている。

芹澤氏が注目する「未来コンセプト」はこちら
気候変動が深刻化する中で重要となる、屋内で野菜を栽培する「インドアファーミング」や、地球の気候のデータを保存し火星や月で活用する未来などについて伺った。

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