【イベント報告】進化し続ける、洋服との最適な出会い・感動の出会い(第6回NRLフォーラム)

2017年7月27日、D4DRが企画・運営に関わっている「Next Retail Lab(ネクストリテールラボ)」フォーラムの第6回が開催されました。

今回の講演者は、株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEOの天沼聰さんです。『週刊東洋経済』の「すごいベンチャー100」にも選ばれた注目のサービスを解説いただき、ファッションレンタルサービスの利用状況から、レンタル・サブスクリプション・モデルやシェアリング・エコノミーまで視野を広げて考えました。

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「国内最大級」ファッションレンタルプラットフォームの立ち上げ

エアークローゼットは、国内最大級のファッションレンタルプラットフォームを運営しています。

「国内最大級」をうたうのはすごく簡単です。我々が日本で最初に始めたからです。これまでウェディングドレスなどのレンタルが主流だったものを、我々は日本で初めて、普段着に特化してレンタルしています。

画像: 「国内最大級」ファッションレンタルプラットフォームの立ち上げ

エアークローゼットを立ち上げたきっかけの一つは、もともとITが大好きで、インターネットを最大限活用するビジネスがしたかったからです。もう一つは、インターネットが好きだからこそ、シェアリング・エコノミーという概念がすごく好きで、その概念が入ったビジネスがしたかった。

そして、人々のライフスタイルを支援したい。その中心となる衣食住のどこかの領域でトライしたいと考えて、一緒に起業したアビームコンサルティング出身の二人とディスカッションしました。近年、女性の働く環境の変化、子育てママの環境変化が大きくなり、服を選ぶ時間がなくなってきている。その時代とともに変わる環境の変化に新しい価値を求められるのではないかと思い、起業に至りました。

スタイリストが送る、感動する洋服との出会い

会員はオンラインで住所など必要事項のほか、好きな洋服やスタイル、サイズ、ファッションの悩みも併せて登録していただきます。

数日後、我々のスタイリストが洋服を3着選定して、ご自宅に郵送します。それを好きなだけ楽しんでいただいて、気に入ったらそのまま購入できます。そうでないものは返送用伝票でそのままお返しいただくと、数日後にまた別のボックスが届く。ボックスがお客さまと我々の間を行き来するサービスになっています。

具体的なユーザーの層は、年齢の平均が30代半ばぐらいです。働いている方が9割以上。お子さんがいらっしゃる方が4割以上。忙しい女性が、生活のなかでファッションをあきらめるのではなく、出会いを楽しむサービスとして活用いただいています。

そのため、オフィスカジュアルやママ会で着ていけるような、コンサバファッションスタイルのものをお届けしています。大きな目的は、これまでにない感動する洋服との出会い体験を、女性のライフスタイルのなかに作っていくことです。

資金は事業シナジーが多い会社から

経営の仕方は、調達した資金を主に我々のサービスの成長に投下して、事業成長スピードを保つかたちで行っています。

寺田倉庫さんには過去2度、資金を入れていただいています。単なる資本提携にとどまらず、倉庫のオペレーションの部分で業務提携をしていて、我々の倉庫内の改善などを見ていただいています。

ホワイト急便さんには、我々の洋服のメンテナンスも必要になってくるので、専用倉庫の中にエアークローゼット室を作っていただいています。その担当が受付をしてクリーニングに回して、次に貸し出しができるようにメンテナンスをするところを見ていただいています。

加えて、我々は月額制のサービスなので、クレディセゾンさんにも資本提携いただいて、ポイントの連携やマーケティングのサポートをしていただいています。

VC(ベンチャーキャピタル)からは唯一、日本最大のVCであるJAFCOさんに資金を入れていただいています。事業計画や戦略部分、特に数字の部分の確からしさを見ていただいています。

金融系VCから資金を集めることをメインとするのではなく、事業シナジーが多い会社から入れているのが、立ち上げの資金調達の特徴的なところです。

ブランド各社と消費者との架け橋として

業界に対してどんな思いで我々がサービスをしているか。

一つは、ブランドさまにとっては新規顧客開拓、ブランド認知向上に寄与したい。消費者さまには、新しく出会うブランドの洋服をスタイリストが選んで届けているので、業界の架け橋になっていきたい。

洋服との感動する出会い、ワクワクする出会いを作りたいという思いは、まさにここにあります。いろいろなブランド。いろいろなスタイリストのセンス。実は似合うかもしれない、着たことがない色味。そんな洋服との出会いの場に、エアークローゼットがなっていけたらと思っています。

もう一つ、注力しているものとして、レンタルで借り放題・月額制にした狙いの一つでもあるのですが、お客さまに貸し出した洋服と、お客さまが着用した結果を、すべて電子データで定性、定量の両面で蓄積しています。それを我々がビッグデータとして活用することが狙いです。人工知能の会社数社とお話をしていて、一人一人の趣味・趣向を人工知能が把握して、次の提案の質を高めるところに活用することにも取り組んでいます。

「最適な出会い」のために

私が講演などで直接お話しする際に明確にお伝えしているのは、我々がサービス価値として何を捉えているかということです。

今、情報や物がどんどん増え続けている世の中に対して、我々は時間が限られています。その差に生まれてくる必要なものは、「最適な出会い」だと考えています。

たとえば、GoogleもFacebookも、情報との最適な出会いを私たちに提供しているからこそ、サービス品質を高く評価されている。我々は同じように、ファッションとの最適な出会いを届けていくのが、我々の価値になるだろうと考えています。

そのために我々が大切にしている要素が、二つあります。一つは、キュレーション。第三者がお薦めする要素を中に入れている。もう一つは、セレンディピティ。感動体験です。

共感から展開

事業展開では、三つの成長戦略を捉えています。

一つは、我々はアパレルだけに注力していますが、アクセサリーを一緒に入れることで、ファッションとの出会いという体験価値を広げていく。

もう一つはレディースだけではなく、メンズ、シニア、キッズ、マタニティなど、ほかの領域に広げていく。

最後に、アジア・東南アジアが中心になると思っていますが、海外展開をして、同じようにビジネスを広げていく。

サービスを開始して2年半ですが、広告宣伝費をかけてお客さまを集めてきていません。どちらかというと、共感の声で広まってきました。月額サブスクリプションのサービスなので、利用しているお客さまがご友人に伝えたりする広がり方も、一つの特徴と考えています。

感動を、データと仮説から

エアークローゼットという会社は、サービスを介してお客さまを満足させることに、あまり興味を持っていません。お客さまを“感動”させるサービスを作る組織であるべきだと考えています。

感動していただくためには、ただお客さまに聞くのではなく、お客さまが気づいていない潜在的な部分を含めて我々が理解をして、新しい機能や新しい施策を打っていく必要があると考えています。これがいちばん楽しめるポイントです。

技術的に我々が注力しているのは、BI(Business Intelligence)ツールのDomoです。スタートアップで導入しているのは、Wantedly、Kaizen Platformと我々ぐらいで、わずかです。事業に対するデータを分かりやすいグラフに可視化できるサービスです。常時、今のビジネスの数字がどういう数字なのかを把握していて、データドリブンで事業をやっています。

ただ、いちばん気をつけなければいけないのは、組織がデータを見ることを目的に動くようになってしまう可能性がある。このカードを新しく作ったり、もしくは施策を検討するとき、PDCAサイクルを回そうと思ったときに、データを見て何かを生み出すのではなく、日々の業務や生活の中でお客さまに対して改善できる仮説ありきで、ビジネスを回していくようにしています。

完成しない。進化し続ける。

ウォルト・ディズニーが、「人間にクリエイティビティがある限り、ディズニーランドは完成しない」という言葉を残しています。私たちも完成はしないで、サービスも組織も進化し続ける思いでやっていきたい。

あくまでもレンタルサービスをすることが目的ではなく、手段の一つとして、これまでにない感動する洋服との出会いを作っていく。そのためには、レンタルもあれば、将来的にはVRやほかの技術も使った出会い体験も出てくるのではないか。

半歩先のライフスタイルを思い描きながら、洋服との出会い体験を数多く生んでいけるサービスになっていきたいと思っています。

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画像1: 完成しない。進化し続ける。

講演後、フェローとのディスカッションでは、バイヤー中心から顧客中心の視点への転換とそれを具体化するビジネスモデルに対して、「顧客がこのサービスを利用することによってできる時短のレベルがすごい」「スタイリストの提案型にしたのがすごい」「スタイリストは販売率より貸出率によって評価される、すなわちチャレンジが評価されるのはよい」「コマースを科学する人が初めて出てきた」など、たくさんの賞賛がありました。スタイリストについての討論も多く、天沼さんはスタイリストの新しい働き方や雇用を作っていくことや、今後もライバルへの対応などよりも自身の事業成長に注力していくことなどを語りました。

会場からの質問は、スタイリストやバイヤーの数をはじめ、突っ込んだ質問まで途切れることなく続き、非常に熱い議論になりました。過去最大の質問数に、コーディネーターの藤元はそれだけバリューチェーンの変革を起こしていると確信したとコメントし、会場も納得の2時間となりました。

画像2: 完成しない。進化し続ける。

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