【イベント報告】三越伊勢丹のDX戦略と具体的取り組み(4/28第46回NRLフォーラム)

4月28日、第46回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はゲスト講師に北川竜也 氏(株式会社三越伊勢丹営業本部オンラインストアグループ長)をお招きし、「三越伊勢丹のDX戦略と具体的取り組み」をテーマにご講演いただいた。

北川 竜也 氏

大学卒業後、国連の活動を支援するNGOで国際法廷の設立等のプロジェクトにアシスタントとして従事。
日本帰国後、企業風土改革を行う株式会社スコラ・コンサルトにて、プロセスデザイナーとして大企業を中心とする組織活性化に携わった後、創業まもないクオンタムリープ株式会社に参画。
大企業の新事業創出支援やベンチャー企業支援の場作り等の事業を担当。
クオンタムリープ株式会社を退社後、アレックス株式会社の創業に参画。
会社の運営と合わせ、日本のハイクオリティな商品を世界に向けて紹介、販売するクロスボーダーEコマース事業の立ち上げ、運営を行う。
その後、2013年に三越伊勢丹に入社。
入社後は、WEB企画担当、特命担当秘書、デジタル化推進担当、新規事業の統括・企画・開発・管理を歴任。現在はMIオンラインを中心とするEC全般、新規事業の運営を担当。

■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
 中見 真也 氏 神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授
 川連 一豊 氏 JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事
 村山 らむね 氏 有限会社スタイルビズ 代表取締役
 樋口 進 氏 マーケティングシステム株式会社 DX推進コンサルタント

コロナ禍の環境の変化

2020年度は新型コロナウイルスの流行で三越伊勢丹は大変な打撃を受けた。2020年最初に店舗を2ヶ月間休業していたため来店生活者数が減少し、店舗が休業している間はオンラインショッピングで対応したものの、生活者当時は店頭の商品をECの倉庫に移すフローがなく機会損失も起こしており、非常に苦しい状況だった。再開後も緊急事態宣言などの発令が相次ぎ、厳しい状況が続いた。

しかしECの売上は2019年度の200億円から2020年度には315億円へと拡大しており、アプリのダウンロード数も伸びている。外食や旅行に行けない状況が続き、生活者がエンターテイメント性の高い娯楽に消費できない分、ショッピングが非日常の役割を持ち、かつ消費するならより良いものを買いたいという生活者のニーズが売上を伸ばしていると北川氏は分析している。将来に向けてデジタルでの接点が増え、ビジネス上さらに重要なインフラになると認識しているとのこと。

出典:北川氏資料

これに関連して、ディスカッションで顧客データについて話題が出た。

藤元(モデレーター):顧客データの量が膨大になりやすく管理が難しい業界だと思うが、そのマネジメントはどう考えている?

北川氏:データを何に使うかを定義する重要性が増している。例えば外商のニーズに対して、担当者が一人で対応するよりも、得意不得意に応じて、様々な担当者の力をクラウド的に共有できたほうがよい。お客様の幅広いニーズにお応えする為、個人情報に紐づくデータに注意しながら、うまくデータを活用していきたい。

この2年間で分かったことを一言でまとめると「本質は変わらないが、常識や習慣はきっかけで簡単に変わる」ことだという。生活者がハレの日(より美味しいものが食べたい、あるいは大切な人と大切な時間を過ごしたいなど)を求める本質は変わらない。ただ、例えば必要なものがあれば店頭に行くという習慣も、外出を控えてECを利用するという習慣に簡単に入れ替わる。その変化のスピードは、予想している範囲以上に早いと北川氏は話す。

三越伊勢丹のDX戦略の考え方

三越伊勢丹は、DXをCX(コーポレートトランスフォーメション)と捉えている。三越伊勢丹が築き上げた価値をベースに市場の普遍的なニーズをとらえ、それらを商品・サービスとして生活者に提供するための仕組みを作り、仕組みを支えるビジネスモデルや仕事のやり方を変化させ続けることとしている。デジタルツールの導入にとどまらない、ビジネスに関わる全体を巻き込んで起こす変化である。

その上で三越伊勢丹のDX戦略の3つのポイントを挙げている。

一つは自社の業態自社の特性を改めて明文化すること。二つ目は自社の特性・強みをベースにして顧客への提供価値を再定義すること。そして三つ目は、価値提供を成り立たせる抜本的な仕事のやり方を変更すること。これら三つのポイントによって、得意領域である店舗、人、商品で圧倒的にレバレッジを効かせられるデジタルサービスを提供し、リアルでもオンラインでも同じように顧客の期待に応えられる状態にするためにDXに取り組んでいる。やるべきことはたくさんあるが、その中で優先順位をつける際に三越伊勢丹の強みに依拠するべく、議論を重ねて施策に落とし込んでいると北川氏は説明する。

百貨店事業における取り組み

生活者のニーズに応えていくために、三越伊勢丹は前述のように現在大きく改革を行っている。講演では、百貨店事業における取り組みと新しい顧客体験を提供する取り組みの二つを紹介していただいた。

百貨店事業での取り組みの一つがECサイトの統合・三越伊勢丹アプリのリニューアルだ。
三越と伊勢丹が会社を合併した際に「Mオンライン」「Iオンライン」と別々のECサイトを持っていた。これらの統合によって、伊勢丹の商品提案力と三越のおもてなしの融合がオンライン上でも可能になった。

出典:北川氏資料

新しい顧客体験を提供する取り組みにはメタバース「REV WORLDS(レヴワールズ)」もある。これは2021年の3月にローンチした仮想世界における新たなビジネスだ。

VRを活用したスマートフォン向けアプリで新宿東口の街の一部エリアと伊勢丹新宿店を再現しており、アバターを操作しながら会話を楽しんだり、バーチャル伊勢丹新宿店内で商品を購入したりすることが可能だ。直近では仮想世界の中に作っている建物の空間を使って、ファッションショーを行った。

出典:北川氏資料

DXを支える体制

社内体制の改革もDXには欠かせない。三越伊勢丹では多くの事業を展開しているため、開発にスクラム体制を導入している。新しい買い物体験の共創を目的とするアイムデジタルラボと、システム子会社や本社の情報システム部門、営業現場、事業運営チームなどが一体のチームとなって開発を進めている。

出典:北川氏資料

また、スピード感を持って顧客体験を向上するために「超高速PDCA」、つまり商品担当と営業担当など現場メンバーがビジネス課題・顧客課題を集め、EC運営チームとシステムチームが連携して即時アクションできる体制も構築している。

百貨店ならではの付加価値の追求

北川氏はディスカッションの中で、百貨店の特性・強みを活かして変化していく必要があると話し、その例としてサロン・デュ・ショコラを挙げた。サロン・デュ・ショコラで購入されるチョコレートは食べるためだけではなく、多くのチョコレートファン同士のコミュニケーションツールにもなっており、チョコレートファンのコミュニティは広く、そして深い。

ファン層を捉えるにあたって意識していることとは、という点も議論になった。

村山氏(フェロー):百貨店はその業態上、40代以上の世代にフィットしているため、若年層に当事者意識を持ってもらうのは難しいと感じている。

北川氏:確かに10~20代をターゲットにした施策は取っていないが、年代で区切っているわけではなく、上質な商品や安心感などの体験価値を重視していることが理由。年代を問わずに、例えば最近の例ではサウナやキャンプといったファン層が幅広いゾーンをしっかり捉えようとしている。

今回の講演で、北川氏は自社の強みを知りどう活かしていくかがDXの根底にあることを強調した。定石通りにデジタルツールを導入するだけではなく、自社の持つ強みを活かしながら、足りていない点を補い、より良くするためにデジタルを活用していく必要があると締めくくった。

ディスカッションでは他にも、SNSにおけるエンゲージメントの重要性やエッジの立った人財活用についても話が広がった。
百貨店にしか提供できない付加価値も「本質は変わらないが、常識や習慣はきっかけで変わる」の例に漏れず、逆に捉えれば時代によって手法やツールが変わっても本質は変わらないということでもある。リアルとバーチャルの融合が進む最中にある今、いかに本質を見て戦略を検討できるかということがあらゆる業界が問われている。

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

D4DRでは、イベントの企画・運営などのトータルサポートサービスも提供しております。

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