アフターコロナ時代の心のあり方「宗教が果たす役割とは」(第十九回)

【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一

アフターコロナ時代のビジネス戦略 -宗教-

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、パンデミックにより、私たち人類は自分の死や、大切な人を失うかもしれないという「恐怖」と直面することになった。こうした社会不安が広まると、人間は不思議と過去や歴史への関心を高め、私たち人類がこれまでどのように災禍を乗り越えてきたのか、その中に光明を見出そうとする。
「恐怖」「不安」「死生観」など人間の精神世界を支えてきたのは、古来から宗教であった。新型コロナのようなパンデミックと宗教の関係性や歴史、コロナ禍における各宗教の対応など、アフターコロナ時代の宗教の役割、そして私たちが今後、精神的にどうあるべきなのかを考察したい。

パンデミックと宗教の歴史

有史以来、人間と感染症の様々な 戦い の記録が残されている。
感染症は人間社会に大きな影響を与え、歴史の転換点となってきた。感染症によって、宗教は人間への影響力を強めたり、反対に影響や信頼が揺らいだこともあった。

大仏建造のきっかけとなった天然痘の流行

天然痘は紀元前のエジプトのミイラからも痕跡が見つかっているほど、古くから人間を苦しめた病である。日本でも奈良時代に流行し、人口の三割が死亡したとされる。
当時の聖武天皇は仏教に帰依し、東大寺盧舎那仏像の建造や、日本全国に国分寺を建立し、国の安寧と救いを求めた。

Photo by Timo Volz on Unsplash

その後、18世紀にジェンナーが最初の天然痘予防接種を発明し、WHOより天然痘の世界根絶宣言が出されたのが1980年だ。

ペスト流行がルネサンスの原動力となった

黒死病(ペスト)は14世紀にヨーロッパで大流行し、ヨーロッパ人口の3分の1もの命を奪った。貿易が盛んになったことで、病原体を持つノミが付着したネズミが、積み荷や人と共に移動し、拡散していった。その後も17世紀、19世紀にも大規模なパンデミックが発生し、多くの人を苦しめた。

Photo by Kuma Kum  on Unsplash

ペストが最初に流行した中世においては、ローマ教皇が絶対的な権力を保持していた。しかし、拡大したペストを前に、教会も教皇もあまりに無力であり、急速に大衆の支持を失い、その権威は弱まった。
また、封建社会も崩壊に向かうなど、ヨーロッパはペストによって新たな時代を向かえる。これがルネサンスである。

コロナ禍における、各宗教の動き

1か所に大勢が集まって集団礼拝を行うことが多い宗教にとって、このコロナウイルスは大きな混乱を巻き起こしている。感染拡大の防止や、ソーシャルディスタンスの確保を目的として、様々な前例のない対応が取られている。その一例を紹介したい。

ユダヤ教

ユダヤ教の聖地であるエルサレムの嘆きの壁は、ロープで仕切がされ順番に辿り着けるようになっているなど、ソーシャルディスタンスを意識した対策を行っている。ユダヤ教徒は嘆きの壁を前にして、自らの祈りや願いを書いた紙を隙間に挟んだり、手で触れたりする。そのため、壁の消毒が初めて行われたという。

Photo by Dave Herring  on Unsplash

ユダヤ教の重要な伝統祭「ペサハ」は、多くの人が集まり感染リスクが高いということで、イスラエルでは同居家族のみでペサハを行うよう、通達されたという。

※「ペサハ」
家族や親類が、ペサハの際の特別な食事を囲む重要な祭日の一つ。旧約聖書の「出エジプト」を記念している

イスラム教

イスラム教でも各地でモスクが閉鎖されるなど、影響が大きかったようだ。イスラム教徒にとってモスクで礼拝することは非常に重要である一方、感染リスクが高まるという側面もあり、困難な時をむかえている。

Photo by Haidan on Unsplash

宗教行事「ラマダーン」では、断食月明けに親戚や友人を訪ね合い一緒に食事をとるなど、感染リスクが非常に高まる。国によっては外出禁止の時間帯を設けるなど、異例の対策を取ったようだ。

※「ラマダーン」
イスラム教徒が断食を行う月。1か月間、日の出から日没まで断食を行い、私利私欲を捨て、神への献身と奉仕に没頭する

キリスト教

信仰や伝統を重んじて、多くの人が集い礼拝を行うのは、キリスト教も同じである。アメリカでは教会の近くで車内から礼拝を行う、ドライブイン礼拝なるものも登場。
今後の礼拝の形をどうしていくのかは、各宗教で共通の重要なテーマ・課題となっている。

Photo by Ágatha Depiné  on Unsplash

バチカンのフランシスコ・ローマ教皇は、復活祭での祝福メッセージを、異例となるテレビ中継で行った。従来は大聖堂のバルコニーから、広場の群衆に向かって呼び掛けを行うが、大聖堂内から全世界に向けてメッセージと祝福を送る形となった。

コロナと「死」

新型コロナウイルスにより、大切な人との別れの形にも変化がみられる。

ブラジルではコロナ感染者(感染疑惑者)の死はバイオハザードとみなされ、別れの時間はわずか10分に限定されており、通夜や別れの会など、伝統的な儀式で死者を送ることができず、遺族の悲しみは深まるばかりだ。

日本でも、コロナ感染者の遺体は病院で納体袋に入れられ、お棺は目張りされ、そのまま火葬場で荼毘に付されるケースが多いという。
志村けんさんの実兄の知之さんも、感染予防の観点からご遺体との面会がかなわず、「悔しい」と涙を流されていた姿を見て、このウイルスの無情さを感じた人も多かっただろう。

Photo by Mayron Oliveira  on Unsplash

コロナウイルスが急速に拡大し、医療崩壊に直面したイタリアの一部の病院では、助かる見込みの高い若年の患者を優先し、高齢者に安楽死の措置を取るという命の選別も行われたという。
人口呼吸器などの医療機器が不足し、次々と患者が運び込まれてくる状況下における、医師や看護師たちの心の負担を思うと、胸が痛い。

アフターコロナ時代の宗教が果たす役割とは?

新型コロナウイルスが私たちのライフスタイルに与える影響は計り知れない。
ウィズコロナの新しいライフスタイルでは、リモートワークによる家の職場化、外出自粛、他人と会う機会が減るなど、個人の孤立化が進んだ。また所得の減少により、格差も拡大するだろう。
事実、コロナによる精神不安でうつ病を発症する人も、増加しているという。

死が身近に

感染したら死ぬかもしれない、自分の大切な人が死ぬかもしれない、と新型コロナウイルスにより「死」が急に身近な存在となり、命について考える機会が増えたように思う。前述のコロナの名目による命の選別や、大切な人の葬儀ができないことなど、人間と死について考えさせられる出来事も起きている。

Photo by Hamish Weir  on Unsplash

未知のウイルスによる無慈悲な攻撃に、私たちは自分の無力さを実感する機会も増えた。自分の無力さの実感、自分に関係のある人の「死」が身近になると、多くの人は精神的なゆらぎを実感したことだろう。

ウィズコロナ時代の精神、こころのあり方

ウィズコロナのような未曽有の災禍、困難な時代を乗り越えるには、私たちはそれに負けない強靭な精神を持たなければならない。

そのためには、次のような精神、こころのあり方が求められると考えられる。


・柔軟性が高く、楽観的な思考力

トラブルや突発的、またはネガティブな変化を受け入れ、常に前向きに物事を進めていく力。過去の経験を原動力に、様々な方法を用いて対処しようとする力

・強い信念、使命感

自分の理想や目標、信念が明確。誰かのため、社会のためにそれらを達成し、利益を還元しようとする気持ちに溢れていること

・家族、他者、社会とのつながり、コミュニティへの帰属

困ったとき、不安なときに共感できる相手がいる。社会、コミュニティの一員であるという実感があり、人と人とのつながりに感謝できる環境にある

・高いモラル、倫理観

他者を尊重し、今の時代に合った行動秩序や規範を守ることができる。善悪を判断し、他者に誠意と思いやりを持ち、礼儀正しいふるまいができる


また、この災禍の時代にビジネスを行う企業としても、「4つのY」に通ずるこのような考え方を取り入れていく必要があるのではないだろうか。

コロナは人生の意味を問い直す機会である

上記の精神の充足において、宗教の果たす役割は大きいと考える。
教会などの施設を中核としたコミュニティが形成されていたり、教えや教義、教典等を通して、高いモラルや倫理観を共有し、宗教の信念は一般的に人間に強い使命感を与えてくれる。

Photo by Denys Nevozhai  on Unsplash

また宗教は、一般的にその一人一人の生き方を照らす存在である。
コロナにより自分の無力さ、弱さを実感したり、死が身近になることなど、人生における困難や苦悩、苦痛と対峙することで、人間は自らの人生・生命の意味、命を与えられた理由などを深く探求するようになる。

このような漠然とした不安、自分自身の生き方、生きる意味、あり方についての深い疑問から「生きるよすが」「生きがい」を見出す、という人生の重要なプロセスにおいて、宗教は重要な役割を果たす。
もちろん、心理学や精神医学等の学問においても、それは議論され見解が出されているが、宗教でもそれらは多く語られ、議論され、道が諭されている。

このように、自分の弱さや生命への危うさ を自覚した時、人間は自らの生きる意味を見出そうとする。すると、私たちは自分にとって「本質的に」必要/ 大事 なモノ・コトへと興味がシフトしていくだろう。
アフターコロナ時代には、このような価値観変化が起こると予想する。

コロナ禍、アフターコロナの社会においても、人々の人生を照らし、困難や苦痛に寄り添うといった、宗教が古来から担ってきた役割を、引き続き宗教には期待していきたいと、私は考えている。


次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「SDGs」、8/19(水)更新予定です。


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Yoshida

専門は卸小売り、個人のライフスタイル、宗教・哲学など人文学。未来社会の事業環境整理・ 戦略コンサルティング、スマートシティ戦略立案等のプロジェクトに関わり AI、ロボット、IoT による社会課題解決に関心を 持つ。 カワイイ白犬と一緒に暮らす、ミレニアル世代。趣味は筋トレ・山登り・座禅・華道で、剛と柔の両立を目指している

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