不可逆なアフターコロナ時代の視座“4つのY”(第一回)


【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一

アフターコロナ時代のビジネス戦略 -概論-

D4DR FPRC(フューチャーパースペクティブ・リサーチセンター)

主席研究員 藤元健太郎

新型コロナウイルスはまだまだ世界的に収まる気配を見せていない。いつか来る可能性は漠然と感じていたものの本当に来てしまったというこの感覚は、3.11の大震災の経験がまだ鮮明に脳裏に焼き付いている日本人にとってはまさにデジャブな恐怖を感じるところもある。3.11は数百年の一度の災害を前提に社会システムを作るべきかという議論を我々に突きつけたが、近年の強力な台風などの自然災害の猛威は地球環境の変化から、すでに毎年必ず起きるぐらいの前提になっている。そして今回の新型コロナもWHOのパンデミック宣言は10年ぶりと考えると実は10年に一度は必ず起きてもおかしくないということである。

我々が現在当たり前だと感じている日常は「たまたま偶然の状況が長く続いただけ」と考えるべきであり、明日からの日常は「これまでの日常とは異なる新しい日常」である。今回の新型コロナのような、地球上には恐らくありふれているが、人類にとっては未知のウイルスや菌達との共生を前提にする社会システムを我々は考え、企業活動や日々の生活を送るべきなのだろう。今回アフターコロナ時代を考える上で、 筆者は「Y」が付く4つのキーワード、「Traceability」(トレーサビリティー)、「Flexibility」(フレキシビリティー)、「Mixed Reality」(ミックスドリアリティー)、「Diversity」(ダイバーシティー)で整理してみた。

 

Traceability(トレーサビリティ)

今回感染者は罪を犯したわけではないが、社会的リスクを持った人間になってしまうことがあらためて浮き彫りになった。感染しても発症しない人も多い今回の新型コロナは感染者の隔離施策がなかなか難しい。かといって都市まるごと封鎖の過酷さも突きつけられた大きな課題だ。中国などで進んでいるような管理を厳格化した監視社会にし、全ての国民の行動を管理するような方向で考えるのもパンデミック状況では真面目に議論するべき考え方だろう。しかし、自由社会で生きている我々にとっての現実解としては、個人の行動の自由や匿名性も確保した上で情報銀行などでID化された個人の行動を保管しておき、リスクの大きさに応じて後からトレースする仕組みが必要になるだろう。

また、人間のID管理だけでなく社会のあらゆるリソースのID化も急ぐべきことが今回露呈した。マスク不足も深刻だが、在庫は十分にあるはずのトイレットペーパー騒動においては石油ショックの頃と変わらない光景に唖然とするばかりだ。現代社会のテクノロジーでは生産から在庫、流通までもっときめ細かい管理ができていておかしくないはずであるがこの有様である。今回台湾ではマスクの在庫を国が管理して配布することを行い、マスクが必要な人に行き渡らなくなることを防いだ。未曾有の危機を前に、やろうと思えばできることを本気でやらなければいけないと人類は気づかされたと言える。資本主義経済における競争だけに依存するだけでなく、非常時も見据えた非競争領域のサプライチェーンのオープンプラットフォーム構築に民間も巻き込んだ形で進めることも重要になるだろう。

また、店舗の休業補償や税制優遇などもこれまでのような紙の書類申請ベースのような手続きが煩雑なやり方ではなく、デジタルトランスフォーメーションを一気に進め稼働状況に応じたダイナミックでクイックな支援策をどんどん投入することを可能にする必然性は逼迫した課題となっている。

Flexibility(フレキシビリティ)

外出自粛による飲食店などへの打撃は深刻だ。すでに廃業するところもでてきている。いまや固定化されたビジネスモデルを多元化することもテクノロジーによって非常に簡便になりつつある中で、テイクアウトや配達などにも常日頃から対応していくリスク分散は、飲食業だけでなく天候など不安定要素がそもそも大きいビジネスでは必須になるだろう。また店舗そのもののあり方も固定で家賃がかかるようなモデルではなく、複数でシェアする店舗やポップアップの業態で固定費がかからないようにするなど、より流動性の高いモデルがこれまで以上に求められるようになるだろう。

製造業においては部品調達のサプライチェーンが固定化されるリスクが災害のたびに叫ばれるため、柔軟なサプライチェーン構築がますます進む。一方で今回シャープがマスク生産をしたり、米国では自動車会社にも人工呼吸器を生産させたりしているように、工場の生産ラインの柔軟さもとても大事になる。輸出入リスクを考えた時の食糧自給率、生活必需品や命を守る製品の国内生産戦略もあらためて国家戦略の柱になるのかもしれない。

また米国で活躍している病院船のように移動可能な病院などモビリティ性の高い施設や、非常時は隔離施設、平時はリゾート施設のような非常時を前提にしたハイブリッドな大規模収容施設なども想定しておく必要があるだろう。

我々のライフスタイルも特定の都市に定住するということがリスク(特に災害大国日本では)であり、多拠点生活を当たり前にすることでライフスタイルそのものからリスク分散をしていくということも積極的に推進していくべきなのかもしれない。

Mixed Reality(ミックスドリアリティ)

テレワークが一気に定常化し、これまで会社に来いと言っていた上司も認めざるをえない状況になり、むしろそのメリットが多数判明してしまったことは今回の危機の中での朗報かもしれない。こうしたワークスタイルの変化ももう戻れないだろう。会社に来ることが前提で、来られない人がいるからやむを得ずビデオ会議にするということではなく、ビデオ会議やオンラインコラボレーションなどのオンラインとオフラインが融合されたミックスドリアリティを前提にしたワークスタイルのあり方が進むと予想される。オンライン側はVRやARもどんどん取り入れられていくだろう.オフラインとしてのリアルなオフィスのデザインもより発想が膨らむとか癒されるとかリアル拠点としての存在価値が重視され、レイアウトも会議室中心で、ビデオミーティングしやすい個人のパーティション型スペースも増えるかもしれない。

エンターティンメント業界では動画配信ビジネスは特需が進む一方で、体験価値重視のリアルの良さをアピールしていた劇場型ビジネスも今後はオンラインによるビジネスモデル構築が一気に求められるようになる。オンライン上でもチケットを購入したり、投げ銭したりできるようなスタイルでコストがまかなえるようにし、仮にリアルが無観客でもビジネスが成り立つようなモデルへの移行が重要になる。またスポーツなどではオンラインだとしても一方的に見るだけでは無く、むしろインタラクティブに参加可能にすることで応援の様子が球場でデジタル表現されたりすることで選手達もオンラインの観客の存在を意識したプレーができるような新しいスタジアム作りも加速するかもしれない。

教育や医療の世界もグローバルではデジタルによる遠隔化が一気に進みつつあるが、ここは日本の遅れが露呈した部分でもある。教育については現実的にできるところからの対応を期待したいところだ。

Diversity(ダイバーシティ)

もし世界が画一的なモデルに統一されていると、弱点があった時にそのモデルの崩壊は全世界の崩壊に繋がる。例えばWindowsOSが壊滅するようなコンピュータウイルスが流行ったとしてもMacOSが存在することで被害は全部には及ばない。もし世界の全てのスマホやPCがWindowsOSだった時はひとつのウイルスで全てが壊滅するかもしれないのだ。単一アーキテクチャは、効率は良いが危機に弱い。社会システムにおける多様性を確保するようなオープンアーキテクチャはとても重要である。企業のサバイバル戦略としても経営戦略やビジネスモデルの多様性はとても重要になる。欧米の株主至上主義の中では批判にさらされてきた日本企業の500兆円にものぼる内部留保は、こういう危機の時には従業員を解雇することなく耐えるためには貴重になる。一方ですべて株主に吐き出してしまった筋肉質の欧米企業は金融支援が無ければ倒産する企業も多いかも知れない。非常時だけでなく日常においても相互扶助や応援経済の占める比率は確実に高まる中、市場原理による淘汰を想定している資本主義がどこまで現在のような危機体制において最適解なのかがあらためて問われるかも知れない。

人類全体でみても多様性は危機を救う。今回もBCG接種による違いなど仮説が色々でているが、日本と欧米では重篤化の違いが起きている。こうした違いが今後の人類防衛のヒントを我々に与えてくれるに違いない。多様性はまさに人類を全滅から守る大事なアーキテクチャである。

 今回の世界的な危機は過酷ではあるが、一方では新しいイノベーションのチャンスとしてデジタルトランスフォーメーションや産業構造の変革を押し進め、工業化社会や資本主義のパラダイムからの不可逆な脱却の好機と捉えるべきだろう。今後訪れる大災害や度重なるパンデミックと共存するためには、全世界で一年くらい経済が回転しなくても相互扶助やシェアリングエコノミーで最低限の人間らしい生活を誰もが送れる社会を本気で想像しなければいけないのかもしれない。そうした新しい社会のモデルをどんどんシミュレーションするためのデジタルツインもまさに注目されるテクノロジーだ。リアルな社会実験もどんどんやるべきだろう。ベーシックインカムを実験するのも良いタイミングなのかも知れない。災害大国である日本だからこそできることも含め、まさに人類の叡智を集めて様々な思考と試行をスタートするアフターコロナ時代を我々は受け入れなければいけないのだ。


D4DRでは、今回の新型コロナウイルス流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を連載していきます。旅行・観光、小売、不動産、スマートシティ、エンタメなど、アフターコロナに向けて不可逆な変化が起こると見られる業界について取り上げます。

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