座談会:コンサルタントというキャリアの虚実〜単に頭がいいだけの人と、社会を変える人との分かれ目とは?(第4回)

第4回 多くの人が「40歳を過ぎたら転職先がない」という道を選んでいる

35歳までに外へ出る

伊藤:事業会社がCXOサポート的なポジションの人を採用しようとする場合、35歳~40歳くらいのコンサルタント経験者がターゲットになります。一般的にコンサルタントが事業会社に転職するのは35歳前までという考え方もあるようです。

森:確かに遅くとも40歳までに芽が出ないと厳しいですよね。

藤元:60歳になった時のコンサルタントは、どのような選択肢があると思いますか。

森:コンサルタントのスキルを、これまで経験のない業界で活かしてみてはどうでしょうか。フィーが合わなくても、まずは一緒に仕事をしてみる。行政や政治などもいいですね。先日の大阪市長選挙では、ボランティアで大手コンサルティングファーム出身者が何人もサポートしていました。

藤元:行政や政治は、世の中を変えることに自分の力を使う先のひとつとして、やりがいがある分野ですね。

メーカーの40歳、コンサルティングファームの40歳

伊藤:今までコンサルタントのキャリアにフォーカスして話してきました。転職市場全体を見た時には、40歳の場合、一般事業会社の人よりコンサルティングファーム在籍者のほうが募集ポジションは多いですね。年収にこだわり過ぎない、という条件はありますが。

過去にあった大手電機メーカーのリストラ時と同様に、これからも早期退職したメーカーの人達の転職の相談が増えると思います。しかし40代の方は、同年代のコンサルタントほど、転職先の選択肢がないのが現状です。大手企業になればなるほど、その会社でのみ有効なスキルが多く、スキルの汎用性という意味において市場から評価を受けないことがあるためです。

一方、コンサルティングファームの40歳は同業含めて転職先は数多くあります。これは常に顧客・市場に対してどのような価値を提供できるか?を実践し続けているからですね。コンサルティングファームでももちろん社内政治はありますが、最終的には「お客さんに認められてナンボ」の世界ですから。そこに、この仕事の醍醐味があるともいえますね。

藤元:そのような話を聞くと、事業会社の人もコンサルタント的な働き方をしたほうがよさそうですね。知識を高め、人脈を広げ、必要に応じてすぐに企業間のアライアンスを結ぶことができるよう、常日頃から準備をしておく。

例えばIT業界で働く人であれば、業界のシステム部長を渡り歩けるくらいになる。そうでないと、所属する事業会社の経営が悪化したときに行き場がなくなる。

我々が日本企業に提案する時よく言われる言葉があります。
「上司がわかるように(易しく)書き直して欲しい」
本来は役職のある人が最も知識がないといけないのですが。日本企業のローテーション人事の弊害です。数年たつと別の部署へ移動するため、専門性が身につかない。アメリカのマネージャーは、必ずその分野のプロフェッショナルが担当します。

鳥山:その条件を満たすマネージャーがいる企業は、トヨタくらいしか思い浮かびませんね。

藤元:ITにしても、わからないからベンダーが提案する過剰な仕組みのものを押し付けられてしまう。ビッグデータを活用して成果を出しているある会社では、ITの専門家がマーケティングのシステムで使われている多額のシステム経費を削減しました。

マーケティング部、人事部、システム部などの部長職はローテーションで広く浅く知る仕事ではなく、専門性が求められる時代を迎えています。

世界のアンテナとなる日本のデザイン・製品力

藤元:ここで少し、将来の話をしていきたいと思うのですが、2020年のオリンピックが終わった後、日本はどうなるでしょう。

森:2020年の先ではなく、2020年の数年前から準備しておく必要があるでしょうね。日本は2020年に向けてイベントを詰め込んでいますが、2018年くらいから旧来のビジネスがくずれはじめていくと思います。

例えば、海外から日本への旅行者を目当てにしたインバウンドで商売をするのであれば、今から本気で舵をきらないといけない。人手が足りなくなることを見込んで、働き手を海外から選んで呼ぶなど。世の中はまだそういうコンセンサスがありません。

藤元:日本系の会社はグローバルからどう見られていますか。

森:金融も含めて日本のBtoCマーケットは見直されはじめています。コンシューマーのマーケットにおいて、日本で売れれば中国などアジア新興市場でも売れるという流れが見えてききたからです。そこに着目して、IDEOなど欧米のデザイン系の会社が日本に次々と支社を構えはじめていますし、外資系の会社から東京でコンサルティングマネジメントをできる人を紹介してほしいと相談されることも増えています。

鳥山:世界が、日本の物を生み出す力やデザインの力に目を向けはじめたということですね。

森:それもトップノッチ(最高級品)といったものではなく、マーケットの全体的なクオリティの高さや、消費者とのかかわりで製品を洗練させる点が評価されている。

ただ「おもてなし」を日本の専売特許のように言っていますが、このまま精神論でいくと、海外勢が形式知化して、コンセプト逆輸入・オーナー外国というケースが増えていきますよ。

藤元:すでにブルーボトルがそうですよね。日本にインスパイアされてスターバックスよりも競争力を持つカフェを作り、世界展開している。

鳥山:おもてなしという点では星野リゾートに注目しています。新しく作る都内で最も高い宿泊施設を「旅館形式」にして成功させることができれば、世界に展開していくのではないでしょうか。

画像: 世界のアンテナとなる日本のデザイン・製品力

最後の鍵は、コンサルタントもビジネスパーソンも「個」の力

森:日本ではアメリカほど人が流動化するのは難しいでしょう。ただ、日本企業はもっとコンサルタントへオープンに相談したほうが、新たな発見が多いはずです。

鳥山:異業種を経験したコンサルタントには、ある業界の当たり前が他の業界では違うということが見えてきます。立体的にものごとを分析できますからね。

森:最近、大手コンサルティングファームから「うちへ来ませんか」と声がかかるのですが、担当する産業が限定されている場合が多くて面白味に欠けると思うことがあります。

藤元:業界を決めてしまうと、他の業界の仕事ができなくなりますね。

森:業界限定のみならず、下手をすると特定のクライアントの仕事しかできなくなってしまいます。特に、総合系のコンサルティングファームは業界が縦割りになる傾向があるようです。私のところのような小さいコンサルティングファームは、企業から政府まで多様な案件に関われますし、そのほうが楽しい。クライアントは専門家であっても、コンサルタントは特定の業界が専門である必要はないと思います。

藤元:採用する側として、若手にアドバイスはありますか。

森:成長機会を求めて当社へ就職活動してくる人がいますが、それだけを求めている人はいりません。偏差値が一番高いから東京大学に行きたい、というのと一緒です。結果としてなりたい自分や、実現したいことを持った上でコンサルタントになると、世の中に影響を与えることができるのではないかと思います。

鳥山:有名なコンサルティングファームにいるとちやほやされがちですが、会社名ではなく個人が売れるように仕事をしてほしいですね。修羅場をいとわない。泥臭い仕事もいとわない。要領のいい仕事だけなんてありえません。

藤元:確かにコンサルタントをはじめとしたナレッジワーカーは、効率良く稼ぐ仕事とは違うかもしれません。

鳥山:大学で教えるために必要な資質は、好奇心や面白がるメンタリティです。実務家時代の経験はどんどん古びていきますし、経営は経営学会より現場のほうが進んでいます。大学の中ばかりにいないで、外でそれを常にウォッチしていないといけないですね。

伊藤 他にも、企業の非常勤取締役のニーズも増えてくるでしょう。

ひとつ言えるのは、コンサルタントは、志さえあれば、経験を積むほどに選択肢を広げることができる、魅力的な仕事だと思いますよ。

<第4回 了>

プロフィール

森 祐治
電通コンサルティング 取締役・シニアディレクター
国際基督教大学(ICU)教養学部卒業後、日本電信電話を経てICU大学院博士前期課程修了。同大の助手を経て、Golden Gate University, Graduate School of Technology Management(MBA)及びNew York University, Steinhardt School (Ph.D)へ奨学生として留学。早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程単位取得修了。)
米国滞在中にベンチャー創業・売却を経験。日米のマイクロソフトを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ。その後、コンテンツ投資・プロデュース、国際展開支援を行うシンクの代表に転ずる。設立したファンドの償還に伴い、電通コンサルティングに参加。クライアントサービス全体を統括している。
鳥山 正博 
立命館大学 教授
マーケティング / マーケティング・リサーチ / 商品開発 
国際基督教大学卒(1983)、ノースウェスタン大学ケロッグ校MBA (1988)、東京工業大学大学院修了、工学博士(2009)。1983より2011まで(株)野村総合研究所にて経営コンサルティングに従事。 業種は製薬・自動車・小売・メディア・エンタテインメント・通信・金融等と幅広く、マーケティング戦略・組織を中心にコンサルテーションを行う。とりわけテクノロジーベースのマーケティングイノベーションと新マーケティングリサーチインフラの構築が関心領域。マーケティングリサーチ・メディア・小売領域でビジネスモデル特許出願多数。
藤元健太郎
1993年からインターネットビジネスの研究を開始し,1994年に野村総合研究所で日本最初のサイバービジネス実験サイトであるサイバービジネスパークをトータルプロデューサーとして立ち上げた。2002年からD4DRを立ち上げ代表に就任。ITによる社会システム革新やマーケティングイノベーションに関わる多くのプロジェクトに関わる。最近では行動情報マーケティング,オムニチャネル戦略などをテーマにしたものが多い。青山学院大学大学院EMBA非常勤講師,経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員なども歴任。現在日経MJや日経電子版で奔流eビジネス,CMO戦略企画室などを連載中。
伊藤文隆 
アクシスコンサルティング株式会社 エグゼクティブコンサルタント/執行役員
製造業で営業・企画・ブランドマネジメント・事業部マネジメント等を10年経験した後、コンサルティング業界に特化した人材紹介会社の立上げに参画。アクシスコンサルティング入社後も引き続きコンサルティング業界を中心としたキャリア支援に強みを持ち、特にマネージャ~パートナークラスの転職サポート実績が豊富。過去に転職サポートした方からの求人依頼も多く、独自のネットワークを築いており、コンサルティング業界からのEXITにも強みを持つ。

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Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。

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