第13回 Next Retail Labフォーラム 『和菓子を明日につなぐ ~ニーバーの祈りに学ぶ~』株式会社榮太樓總本鋪 細田治会長

産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションする、「Next Retail Lab」フォーラム。既存の所属している組織の枠を越えて、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティで、D4DRも企画・運営で関わっている。

D4DRの新人コンサルタントとして初めてセミナーに参加した。

 

第13回となる今回は、株式会社榮太樓總本鋪の細田治会長をお迎えした。

榮太樓總本鋪は今年で創業200年になる老舗。1818年と2018年の人々の価値観に大きな隔たりがある中で、次の時代を見据えて何を守るのか、変えていくのか。細田会長がどのようにお考えかをご講演いただき、講演後はD4DR代表 藤元健太郎がモデレーターを務め、Next Retail Labのフェローと議論を行う流れとなっている。

 

 


老舗の危機感

世界には200年の歴史を持つ会社が約5600社あり、その6割が日本にある。また、1000年以上は12社あり、そのうち9社が日本の会社ということだ。

その理由として細田会長は、日本は同族経営で理念がぶれないことを挙げている。つまりは、価値観の伝承が老舗では行われていると言える。

しかし、これからの若い世代は単なる伝統文化だけに納得しない。

細田会長は、老舗の価値観の伝承が途絶えることに危機を感じており、そのために何をすべきかを常に考えている。

 

 

お菓子の背景ストーリーを伝える難しさ

榮太樓總本鋪の代表商品に大福があるが、コンビニで販売されている和菓子は1/3の価格で売られている。しかし、榮太樓總本鋪の大福が3倍おいしいということではない、と細田会長。

それでも榮太樓總本鋪の大福を手に取ってもらうために、お菓子の背景にあるストーリー、いわれをお客様に伝えることが重要になってくる。

 

出典:榮太樓總本鋪

 

例えば「柏餅」。柏は新芽が出ないと古い葉が落ちないので、「跡継ぎが途絶えない」「子孫繁栄」に結びつき、端午の節供の縁起の良い食べ物とされるようになった。

このようなストーリーを知ることで、それを意識して、楽しく食べることができる。この楽しさが「おいしさ」につながる。

しかし昨今、そのストーリーの価値が伝わらなくなってきた難しさに直面している。

 

 

ニーバーの祈り

「神よ、

変えられないことを静かに受容する慎みを、

変えるべきことを変えていく勇気を、

そしてこの二つを見分ける知恵を、

私たちにお与えください」

Reinhold Niebuhr 1892-1971)

出典:http://www.edit.ne.jp/~ham/yomoyama/niebuhr.html

 

細田会長は青山学院在学中に出合ったこの言葉を念頭に置いて、経営をしているという。

「老舗として作り続けるべきものは作り続ける。しかし、それが今の世代に全く評価されなくなったら、勇気をもって変える」

 

新しい世代に向けた商品作り「からだにえいたろう」「あめやえいたろう」

勇気をもった変革の取り組み例として、「からだにえいたろう」「あめやえいたろう」の紹介がされた。

 

「からだにえいたろう」はシニアに寄り添った低糖質の商品。ネーミングはこれでよいのかと迷う気持ちはあったが、社員の「面白いから笑ってもらえて、注目される」との言葉に動かされ、決断をしたそうだ。

出典:からだにえいたろうHP

 

「あめやえいたろう」は若い世代への取り組みとしてスタートしたが、女性商品開発チームと意見が合わず、細田会長は一度発売を反対。商品カタログにすでに載ってしまったということでしぶしぶ販売をしたところ、予想を超える大ヒットに。当初は若い男性のホワイトデー需要を想定していたが、若い女性を中心に火が付いた。

その経験から、自分には女性の求めているものが何かわかっていないことに気づき、反対したことを謝罪し、商品開発を任せることにした。

出典:あめやえいたろうHP

 

現在は女性役員も2名誕生し、若い人、特に女性の気持ちを汲み取る体制に変更したという。

 

社是「味は親切にあり」に込められた意味

細田会長は「味は親切にあり」の意図するところを、次のように話してくれた。

 

「次の工程への優しい気遣いを大事にすることが、

最終的にお客様に味として伝わるのではないかと信じています」

工場でお菓子を製造する際に、常に次の工程を考える気遣いが、味につながる「親切」だという。

 

参加者は皆、最後まで集中して聴講し、充実の1時間となった。

 


講演後はフェローからの質問や討論、会場の参加者からも多く質問が飛び交った。

榮太樓総本舗と他社のコラボレーションでは「獺祭」の例、インバウンドの考え方、小豆や黒糖が高騰する中どのように原料を確保しているか、経営の財務的なものなど、質問・討論が多岐に及んだ。

 

WEBの仕事をしているフェローからは、ITは歴史が浅く、商品がストーリーになることがないので、社員が商品に誇りを持つためにどう伝えたらいいか、と質問があった。

細田会長は「伝えることが自分の役目」と認識していて、実例などを交えて、とにかく話しかける努力をしているそう。そして自分の代わりに伝えてくれる世代を育てることを意識していると答えていた。

 

別のフェローからは、理屈で商品を選ぶことが難しい時代になってきている、との意見が上がった。

なぜなら「人の気持ち」「思いやり」は抽象的に感じるが、時代が変わっても商品を手に取る「人間」は情緒的。商品を選ぶときの気持ち、時代が変わっても変えてはいけないことも、情緒的なものだと気づかされる。そういう事柄を解き明かして変えていくことが、ものづくりの商いの根っこにあることを、再認識したと感慨深げに述べていた。

他のフェローや会場の参加者からも、この意見に同意するようにうなずく様子が見られた。

 

女性フェローからは、あめやえいたろうのエピソードに対して、自分が間違えていたことを認められる経営者は素晴らしく、こういうことが行われて初めて日本の企業が変わってくるのだと思う、と感動の声もあがった。

 

 

最後に細田会長から、リップグロスのような容器に入った あめやえいたろう「みつ(苺、あまおう)」が配られると、会場で「おいしい」「かわいい」と賛美の声があがった。

榮太樓總本鋪が培ってきたお菓子作りへの強い信念、思いやり、優しさの詰まった味で、心からおいしいと感じた瞬間だった。

今回、細田会長のお話を聞き、日本でなぜ老舗が多く存在しているのか分かった気がした。

 

・日本人が長年大切にしてきたもの、考えを伝承していくこと。

・時代の変化に合わせ、多様化する価値観に寄り添うこと。

・製品に「親切」を込めるというアナログで情緒的な考え方を大切にし、顧客にアプローチをすること。

 

スマートフォンの普及などにより、急速にデジタル化、IoT化する現代において、つながりの希薄化を懸念する声も聞かれる。

しかし、ビジネスは常に顧客主体であるべきだ。あくまでデジタルは、アナログのリアルなつながりを助ける「ツール」であることを、忘れてはいけないと改めて感じた。

 

D4DRのコンサルタントとしてクライアントに提案をする際も、本日学び、感じたことを念頭に置き、お客様に価値を提供したい。

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