IQからEQへ、さらにCQとPQが仕事と人を引寄せる:田代英治[opinion]

「タレント(優秀な人材)は雇用ではなく活用する時代になった」田代コンサルティングの田代英治氏は、「SHRM2014」の中で発表されたこの言葉を、これからの雇用の象徴的な言葉として引用する。SHRM2014はアメリカで開催される人事系のコンファレンスだ。2050年には「正規雇用」と、独立して活躍する「フリーエージェント」の比率は、56:44になるという数字も出されていた。田代氏はこれがもっと前倒しで実現してもおかしくないと指摘する。

すでに「44」側の働き方をしている田代氏。大手海運会社から独立して10年間、主に大企業のクライアントを中心に人事全般のコンサルティングをてがけている。自身の専門性を活かし、複数の企業と契約して業務を請け負う、インディペンデント・コントラクター(IC)という働き方だ。

田代氏は大手海運会社時代、やりがいのあった営業部から人事部へ異動。その直後は人事という仕事に関心が持てなかったという。しかし勉強を重ねるうち、その面白さに開眼する。さらなる異動により職種が変わるのを嫌った田代氏は、社会保険労務士の資格を取得。そして人事系のICとして独立した。

企業にとってICを活用する最大のメリットは、その経験と費用である。大企業の人事部がぶつかる壁を乗り越えてきた田代氏は、経験の中から課題に対して最適な解決の道を一緒に探ることができる。また、フットワーク良くフレキシブルな対応が可能な田代氏の場合、その提示する正当なコンサルティング費用も大手のコンサルティングファームと比べ、より抑えた額となる。クライアントにとっては願ってもないベストパートナーである。独立時のクライアントは前職の海運会社1社のみというスタートだったが、いまでは20社と契約。そのほとんどが大企業だという。

そして順調に10年目の区切りをむかえた2015年、田代氏は大学院へ通うことを考えはじめる。

ところがそのタイミングで、前職である大手海運会社から連絡が入る。これまでの契約からさらに一歩踏み込んで、その会社の人事部に深く関わってほしいというオファーだった。人事部が事務局となっている全社プロジェクトである組織風土改革の推進者が必要になったのだ。

田代氏が退職した後もローテーションによる人事異動は続いており、この時、人事部に同世代の“人事のプロ”がいない状態だった。人事部門は誰でもできると考えられがちだが、人事制度設計など会社の戦略と密接に関わる、高い専門性を要する仕事である。

リソースをとられるこのオファーに最初は躊躇した田代氏。しかし最終的に、大学院ではなく依頼された仕事を選ぶ。独立の際に仕事を発注してくれた前の会社への恩返しになると考えたからである。そして、深く関わるからには、自分の後任として人事のプロを育てようと決意した。

昨今、知能指数「IQ」よりも、心の知能指数「EQ」の重要性が指摘される。さらにトーマス・フリードマンは「SHRM2014」で、IQよりもCQとPQが大事だとも述べた。好奇心(Curiosity)のCと情熱(Passion)のPである。

大学院への道も検討した田代氏はいま、次の世代の育成に熱意を持って取り組もうとしている。10年足らずで20社ものクライアントを獲得するに至った要因に、田代氏のCQ・PQの高さがあることは疑いもない事実だろう。そのような人物が次世代にどのような刺激を与え、彼らがどのように触発され、どのような新しい動きが生まれていくのだろうか。

“何をするか”以上に、“ 誰をパートナーに選ぶか”ということが重視されていく中で「あなたと一緒に働きたい」と思われるために、肩書きは関係ない。そのことは、組織の中にいても外に飛び出して独立しても、今後ますます重要になってくるにちがいない。パートナーとして相手の気持ちを受け止め、バランスを取っていけること。そして、自分自身のビジョンを明確に描き、好奇心と情熱をもって実行できること。そのような人は、どんな働き方を選択しても、仕事と人を引き寄せることができる。

田代氏がたどってきた独立への道と、再び企業の中で貢献しようとする姿に、これからのクリエイティブな働き方が見えてくる。

画像: 田代英治

                      田代英治

プロフィール

田代英治 田代コンサルティング 代表
人事労務分野に強く、社会保険労務士をはじめとしてDCプランナー1級やビジネスキャリア制度人事分野・労務分野の資格を取得。独立後は、引き続き前職である海運会社の人事部の業務の一部を請け負いつつ、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。著書に「なぜか会社も社員も気がつかない新しい働き方 人材開発会議」(企業年金研究所、2007 年)がある。人事労務雑誌「労務事情」(産労総合研究所)連載「元・人事労務屋の企業訪問~人事労務の現場で得た最新情報を発信~」など多くの執筆実績がある。
元インディペンデント・コントラクター協会 理事長

The following two tabs change content below.

Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。

記事タグ