座談会:コンサルタントというキャリアの虚実〜単に頭がいいだけの人と、社会を変える人との分かれ目とは?(第1回)

第1回 ITベンチャーがコンサルタントを大量採用する本当の理由

知識と経験で企業の課題を解決していくコンサルタントはナレッジワーカーの代表的な職種である。近年は、コンサルティングファーム出身のコンサルタントだけでなく、メーカーや商社などにおいて専門性を磨いた後、コンサルタントとして活躍するケースも増えてきている。企業側も成長の加速のために、コンサルタントの知見を取り入れることに対して以前よりも積極的になっている。

活躍するコンサルタントはどのようなステップでキャリアを積んでいるのか、採用ニーズのトレンドは何か、給料等の具体的な話しも含めて4名で座談会を行った。メンバーはコンサルタントの最前線にいる電通コンサルティング 取締役シニア・ディレクター 森佑治氏、野村総研を経て立命館大学の教授をつとめる鳥山正博氏、コンサルタントをはじめとしたキャリアコンサルティングをてがける伊藤文隆氏、ナレッジワーカーラボ首席研究員であるコンサルタントのD4DR 藤元健太郎がモデレーターをつとめた。(全4回)

優秀な人材を活用する近道

藤元:日本でもコンサルタントという職種が増えてきているように思いますが、社会的に重要性が増してきていると思いますか。

鳥山:日本も増えてはいますが、アメリカのほうが数は圧倒的に多いですね。アメリカでは、日本では内製化したがる企業のプランニングの部分、企画や戦略をコンサルタントに依頼することが一般的だからでしょう。

立命館大学 教授 鳥山正博

藤元:アメリカのコンサルタントの働き方は主に2種類あります。ひとつは、コンサルティングファームに所属するコンサルタント。もうひとつはインディペンデント・コントラクターという独立系で、企業からプロジェクトを委託され、場合によってはその会社の名刺を持って動きます。アメリカは両方とも数多く存在します。

森:また、アメリカでは活躍する分野も幅広いですよね。以前インディペンデントのサイエンティストという人に会ったことがあります。彼はR&Dのコンサルタントをしていました。

電通コンサルティング 森 祐治

藤元:アメリカがプランニングを積極的にコンサルティングに外注する背景には、その部分をになう人材を採用・教育するより、コンサルタントに依頼するほうがコストは安いからでしょうか。

鳥山:確かに優秀な人を雇用することは、一般の会社では給料面から見て難しいという背景はあります。また、ゼロから育てても辞められてしまったらコストが無駄になります。すでに知識や経験のある人を、必要な時に市場で調達しても効果はかわらないとアメリカの多くの企業は考えるのです。

そして、アメリカでは経営者の流動性が高いので、一緒にコンサルタントも移動します。新しく移った会社でも戦略を実行してくれるコンサルタントが必要だからです。

鳥山:日本のコンサルタントの状況をキャリアコンサルタントの立場からどのように見ていますか。

伊藤:ひと言でコンサルタントと言っても、実は少し得意分野が異なります。日本でイメージするコンサルタントは経営戦略を得意とする人ですが、BPRの業務を得意とするアウトソーサー的なコンサルタントもいて、その数もかなり多い。

森:確かに、日本はIT出身のコンサルタントが多く、業務改善をしてコストダウンをするタイプのコンサルタントの比重が高いですね。

アクシスコンサルティング 伊藤文隆

ベンチャーがコンサルタントを採用する訳とは?

藤元:今は、どのような場面でコンサルタントが活躍していますか。

森:日本企業では消費材や自動車、オーナー系企業など、海外で闘うことを宿命づけられたところはコンサルティング・ファーム出身者を積極期に採用しています。日本国内だけを見ている会社で、コンサルタントをその能力を活かす形で採用しているところは、あまりないですね。

鳥山:引き抜こうとしても、給料が高過ぎて難しい。

藤元:成長するITベンチャーには、コンサルタント経験者が重宝されている感じがします。

伊藤:おっしゃるとおり、成長ステージに入ったインターネット系を中心とするITベンチャーには、コンサルタントのニーズが高い。特に、初期にイメージしていた経営計画よりも急成長した会社に必要とされています。コンサルタント経験者を採用して、組織整備を進めていくので、この場合はBPRが得意な人が適していますね。

藤元:ITベンチャーに採用されたコンサルタントは活躍していますか。

伊藤:全てが上手くいっているとは限りません。トップや経営層がコンサルティングファーム出身者の企業はコンサルタントの採用・活用が上手ですね。某大手インターネット企業もコンサルタント経験者をしっかり活用しています。そのあたりを意識して見きわめていくと活躍の場を広げていくことができるのではないでしょうか。

森:コンサルタントを使いこなせないITベンチャーの経営者も多いですよね。けんか別れしてしまう。

伊藤:最近のトレンドとして、ITベンチャーはコンサルティングファームの第二新卒を希望する会社が増えているんですよ。年収500~600万円程度で、頭の回転が速く、がむしゃらに働くストレス耐性のある人。

ディーフォーディーアール 藤元健太郎

藤元:確かに自社で新卒採用の手間とコストを考えると、間違いなく優秀で社会人としての教育もされている魅力的な人材を効率的に確保できそうですね。

鳥山:有名大学の学生は、新卒の時にベンチャーに関心を持たなくても、2~3年仕事をするとその魅力が見えてくるのでしょう。
<第1回 了>

 

プロフィール

森 祐治
電通コンサルティング 取締役・シニアディレクター
国際基督教大学(ICU)教養学部卒業後、日本電信電話を経てICU大学院博士前期課程修了。同大の助手を経て、Golden Gate University, Graduate School of Technology Management(MBA)及びNew York University, Steinhardt School (Ph.D)へ奨学生として留学。早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程単位取得修了。)
米国滞在中にベンチャー創業・売却を経験。日米のマイクロソフトを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ。その後、コンテンツ投資・プロデュース、国際展開支援を行うシンクの代表に転ずる。設立したファンドの償還に伴い、電通コンサルティングに参加。クライアントサービス全体を統括している。


鳥山 正博 
立命館大学 教授
マーケティング / マーケティング・リサーチ / 商品開発 
国際基督教大学卒(1983)、ノースウェスタン大学ケロッグ校MBA (1988)、東京工業大学大学院修了、工学博士(2009)。1983より2011まで(株)野村総合研究所にて経営コンサルティングに従事。 業種は製薬・自動車・小売・メディア・エンタテインメント・通信・金融等と幅広く、マーケティング戦略・組織を中心にコンサルテーションを行う。とりわけテクノロジーベースのマーケティングイノベーションと新マーケティングリサーチインフラの構築が関心領域。マーケティングリサーチ・メディア・小売領域でビジネスモデル特許出願多数。


藤元健太郎
ディーフォーディーアール 代表取締役
1993年からインターネットビジネスの研究を開始し,1994年に野村総合研究所で日本最初のサイバービジネス実験サイトであるサイバービジネスパークをトータルプロデューサーとして立ち上げた。2002年からD4DRを立ち上げ代表に就任。ITによる社会システム革新やマーケティングイノベーションに関わる多くのプロジェクトに関わる。最近では行動情報マーケティング,オムニチャネル戦略などをテーマにしたものが多い。青山学院大学大学院EMBA非常勤講師,経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員なども歴任。現在日経MJや日経電子版で奔流eビジネス,CMO戦略企画室などを連載中。


伊藤文隆 
アクシスコンサルティング株式会社 エグゼクティブコンサルタント/執行役員
製造業で営業・企画・ブランドマネジメント・事業部マネジメント等を10年経験した後、コンサルティング業界に特化した人材紹介会社の立上げに参画。アクシスコンサルティング入社後も引き続きコンサルティング業界を中心としたキャリア支援に強みを持ち、特にマネージャ~パートナークラスの転職サポート実績が豊富。過去に転職サポートした方からの求人依頼も多く、独自のネットワークを築いており、コンサルティング業界からのEXITにも強みを持つ。

記事タグ