コロナ禍からの「グリーン・リカバリー」で重要性を増すSDGsの視点(第二十回)


アフターコロナ時代のビジネス戦略 -SDGs-

近年、SDGsという言葉をビジネスの文脈で多く目にするようになった。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月の国連サミットで採択された国際的な目標である。貧困・飢餓の撲滅、教育や医療の普及などに関する17のゴールと169のターゲットからなり、2015年から2030年までの間に達成することが目指されている。SDGsのゴールとターゲットは、「だれ一人取り残さない(No One Left Behind)」というコンセプトのもと、持続可能性にまつわる環境、経済、社会の課題を包括的に取り扱っている。

SDGsとビジネスの結びつきは、「持続可能な環境や社会は経済活動にとって不可欠である」という認識の広がりを背景に、ESG投資の拡大や、SDGsを戦略に取り入れる企業の増加という形でますます深まっている。

本記事では、ビジネスにおいて重要性を増しているSDGsについて、新型コロナウイルスの流行を機に起きた、企業活動に影響を与える可能性のある動きを紹介する。

新型コロナの影響がSDGsの達成を阻む

新型コロナウイルスのパンデミックは、環境、経済、社会の3つの側面全てに大きな影響を与えている。大気汚染の改善や、世界的な貧困の悪化など、SDGsに関連するさまざまな事象が報じられている。まずは、SDGsが環境、経済、社会の側面を統合して持続可能な開発を目指していることを念頭におき、パンデミックがそれぞれの側面に与えている影響について見ていく。

環境

世界各地の都市でロックダウンが始まった今年3月以降、経済が停止したことに伴い、大気汚染やCO2の排出量などに一時的に大幅な改善が見られた。

大気汚染の改善については、「インドで数十年ぶりに、街からヒマラヤ山脈が見えるようになった 」というニュースを思い出す人も多いだろう。日本でも移動や経済活動の自粛によって、3~5月は過去5年に比べて大気汚染が少なくなっていたという。また、世界のCO2の排出量は、4月には昨年と比べ17%の大幅な減少が記録された。しかし、このような改善はあくまで一時的なものに過ぎず、気候変動を防止する効果はほとんどないという見方が主流だ。 (参照:「今年3〜5月の空気はキレイだった 要因の一つに経済活動の縮小か」)

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また、使い捨てのマスクなどが海に流れ込み、ごみ問題を悪化させているというニュースもあった。海洋環境については、経済活動が停滞している影響で、パトロールが不十分になったり、観光ガイドが漁業に転向せざるを得なくなったりして、密猟が増加していることも指摘されている。(参照:「海環境のマスクごみ汚染広がる コロナ後に問われる各国の対策」)

このように、環境領域では、一部の指標が一時的に改善している一方、経済や社会状況の変化に伴って起きている事象が環境に悪影響を及ぼしている。

経済・社会

パンデミックが経済・社会領域にもたらす悪影響は深刻だ。貧困に関しては、国連が、コロナウイルスの感染拡大の影響で、1日1ドル90セント未満で暮らす極度の貧困層の割合が過去20年間で初めて上昇するという見通しを発表した。新興国や先進国でも、貧困層が多く住む地区で感染が広がりやすいことや、経済縮小の影響を受けやすいことなどが問題となっている。このように、パンデミック前から存在していた格差が深刻な形で顕在化していることが指摘されている。 (参照:「新型コロナで世界の貧困率上昇 SDGs達成は困難に 国連」「ブラジルの新型コロナ感染者、200万人突破-地方の貧困地域で拡大」「COVID-19は「SDGsが問いかける経営の未来」へのWake-Up Call」)

コロナ禍からの復興において持続可能性を重視する動き

上記のように、パンデミックは経済・社会領域に大きなダメージを与えており、危機からの回復は困難なものになると予想される。そして、今後の回復に向けた取組に関して、ビジネスとSDGsの関連を考える上で注視すべき動きがある。それは、「グリーン・リカバリー」や「より良い経済復興(Build Back Better)」といったキーワードで語られる、持続可能性に重視した復旧を目指すものである。

そのような動きは欧州が中心となって推進しているが、欧州が主導して多くの国際的なルールを策定してきたこと(参照:「新型コロナでSDGsの盛り上がりはどうなる?」)や、日本国内の市場が欧米市場の潮流を追いかけるという説を踏まえると、日本の市場にも影響があると考え、注視していく必要があるだろう。

「グリーン・リカバリー」と「よりよい経済復興」

「グリーン・リカバリー」とは、コロナ禍からの復旧で経済政策を優先させるのではなく、気候変動対策や生態系の保全といった環境領域の取り組みも同時に加速させるという考え方である。

「より良い経済復興(Build Back Better)」も、復興を単なる経済の回復にせず、より持続可能性の高い社会を目指すためのキーワードとして用いられている。国連は各国政府に対して、パンデミックを「より持続可能でレジリエント(強靭な)かつ包摂的な社会を作り上げる」機会として活用するよう呼び掛けている。(参照:「気候変動とCOVID-19:国連、各国に「より良い復興」を求める」)

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このような考え方は、欧州を中心として国や国際機関の政策にも取り入れられている。EUが7月の首脳会議で合意した92兆円にのぼる復興基金は、環境分野とデジタル分野を重視していることが注目を集めている。復興基金を含む中期予算案は、30%を気候変動対策に充てる。根底には、コロナ禍をきっかけに、エネルギーを大量に消費する経済から、リサイクルやシェアリングエコノミーによる持続可能な経済への転換を実現したい考えがあるという。(参照:「気候変動に30% EU、92兆円の復興基金合意」)

国単位では、オーストラリアで、政府による航空会社への融資の際に、CO2の削減など気候変動対策の取組を行うことが条件とされた。カナダ政府も、サステナビリティの取組を条件とする企業への融資プログラムを発表している。(参照: 「オーストリア航空、725億円の金融支援 政府やルフトハンザから」 「カナダ政府、企業融資の条件にサステナビリティへの取り組みを求めるプログラムを発表 」)

SDGsとESG投資

また、「SDGs、試される企業 コロナ禍でマネーの選別加速 」によると、ESG投資とSDGsの結びつきも強まってきているという。記事では、オランダの運用会社による企業のSDGs実現に対する貢献度を評価する枠組みや、国連開発計画(UNDP)による投資や事業がSDGsに寄与するかどうかを認証する取組などが紹介されている。コロナ禍で環境問題・社会問題への投資家の関心が高まり、環境金融の拡大が加速すると予測される。

長期的視点の重要性

アフターコロナのビジネスでは、経営に利益第一ではない長期的視点が求められるようになる(詳しくはこちら:「【イベント報告】6/23「アフターコロナ時代の近未来シナリオを描く」」)。「グリーン・リカバリー」のような国際的な潮流を考慮すると、長期的視点において、SDGsをはじめとする持続可能性の観点はますます重要になっていくと考えられる。ルール策定など国際的な動きも注視しつつ、SDGsの視点をどうビジネスに取り入れていくかを検討していくことが求められるだろう。


次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「飲食」、8/26(水)更新予定です。


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