パンデミック後の近未来シナリオを考える(第二回)

【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一

アフターコロナ時代のビジネス戦略 -未来シナリオ-

D4DR FPRC(フューチャーパースペクティブ・リサーチセンター)

上席研究員 坂野泰士

私たちFPRCメンバーが「消費トレンド総覧2030」で提示した変化や兆しは、傾向はそのままであるものの、今回のパンデミックでさらに加速されることになりそうだ。COVID-19を経験した視点から今後の変化を補足的に展望してみたいと思う。先立って公開した藤元による“4つのY”からの考察に加えて、既に現れている、あるいはこれから表出するであろう現象について考えてみたい。

まず、今回のパンデミックを契機としてどのような変化や現象が予想されるかを概観したチャートを作成してみた。参考になれば幸いだ。

2020を境に起こる断層的変化の概念 変化シナリオ

2020年を境に起きる価値観の変化
2020年を境に起きる社会事象の変化

相互依存的で不可分な世界

今回のCOVID-19による世界規模でのパンデミックは、私たちの住む世界が思っていた以上に強い連続性の中にあることを示した。“対岸の火事”としてすませるにはあまりに、も人的にも経済的にも、貿易面にでもそれぞれの国や企業が相互依存的な状態にあることが明らかになった。

ウィルスがもたらした全世界的なパニック状態

活発な人的な行き来が、またたく間に世界へのウィルスの拡大をもたらした。それ以上に速度とインパクトを持って広がったのが、情報とそれに伴う感情の伝播ではないだろうか。世界が同じ情報を取り、同じ感情を持ち、世界中の人々が感覚的に共振する。今回の様な規模で世界中の人々が自分ごととして感情や情緒を共有することは、人類にとっても初めてのこととなる。

かつて無い規模の感情の共振が生み出すものは何か

人間は理性的である前に感情に支配される生き物でもある。マーケティング効果の多くが心理学的な作用で説明できることが示すように、今回の変化が消費行動や政治的なコンセンサス形成にも多大な影響をおよぼすことは容易に想像できる。

例えば、アメリカ心理学者MarkSchallerにより提示されている「Behavioral Immune System」という概念がある。ある集団が今回の様な疫学的な危機に際して、異質なものを無意識的に排除しようとしたり、同調圧力的な動きを強めたりといった、免疫反応的な行動をすることが示されている。このように、私たちは今回のような外的な脅威に対して、1つの生き物のように集団全体が反応してしまう。

今回の危機は世界にとって断層的・不連続的な変化を生む

今回のパンデミックが免疫反応的なことだけでなく、世界と日本の価値観や産業、社会に大きな変化を生むことは確実だろう。すでに進んでいた変化は大きく加速し、状況や価値観の急展開は全く不連続的な変化を作り出すことになる。

平凡な日常の希少さへの気付き

非常時を体験した人たちは、実は脆弱だった平凡な日常の価値に気づく。コミュニケーションが制限される中で、人との関わりが自分の気持ちを支えていたことを自覚する。情報過多が急激に進む中で、モノ中心の消費がコトや体験中心のものへと進んできたが、今回を契機に日常や人と関係性に重きを置く価値基準への転換はさらに大きく進展するのだろう。

差別化からリアルな充足感へ提供価値軸がシフトする

多くの人たちが今回の騒動の中で、平凡な日常が実は心理的な健康に重要であり、脆弱な基盤の上にあることを実感した。日常の中で得られる、小さな幸福感や充足感、手触りの感じられる体験や心の動きが価値あることとして再認識される機会となった。これまで長らくブランディングやマーケティングの中核にあった、他に対する過剰さを競う差別化戦略は、急激にその有効性を減じることになりそうだ。人々の心理的・情緒的とリアルに結びつく小さな充足感や幸福感を提供することこの方が、大きく華美な物語で人々を魅了しようとするブランドやサービスより多くの人に魅力的に受け入れられるのではないだろうか。

継続する不確実性と不安感の中で生き続ける

ウィルスの騒ぎがピークアウトしたといっても、この問題から私たちが開放されるのはずっと後のことになるだろう。喉元すぎれば忘れてしまう私たちの便利な特性も、ウィルスには通用しない。世界・社会全体が共有する雰囲気は、サブリミナルなレベルから社会の動向を左右する。社会の通奏低音の存在と特性をどう捉えるか、どう変わったのかを認識しておくことが今必要なのだろう。

企業経営も大きな転換点を迎える

二度の大戦を終えた後、世界は比較的連続的な変化の中でその形を変えてきた。言い換えれば比較的将来予測の立てやすい状態の中で、経営を行うことができた。旧来の意識や条件が通用しない不連続な変化の中、企業がどのように経営をするか。その判断の拠り所や経営の目標をどのように置くべきか、根本から考え直す必要が生まれている。

日本の役割が問われる時が来る(日本のオポチュニティ)

パンデミックの中でも日本は独特な立ち位置に居る。他国と比較して大幅に少ない感染者数であり、非常事態宣言の後でも、欧米諸国と比較してその受けたインパクトは軽い。感染拡大の速度が鈍り、各国の産業が動き始めた時に、日本の世界的におけるプレゼンスはおそらく高まるだろう。その時に日本は世界に何を提示・提供でるのだろうか。国、企業各レベルで戦略的に今から取り組んでおきたい。

世界では電子政府化、データ管理化が一挙に進展する

今回、多くの国々で、疫学的な施策、非接触での情報伝達や手続きにおける電子政府、電子サービス的な手段の有効性が実感された。従来から提起されていたプライバシー問題や管理社会化といった懸念は、逼迫したニーズの前ではその力を弱め、効率的・効果的な社会マネジメント手法が多くの国で開発・実装されていく。中国の様な共産・社会主義国では国家主導で、西側の諸国ではITプラットフォーマー等の民間主導でかつて無いほどの速度感で事は進むはずだ。

日本の出遅れが懸念される

より過酷な体験をした国々での急激な電子政府化、データ管理化の流れに対して日本が遅れを取ることは十分に予想できる。国民のデジタルID化、行政手続きの電子化、各省庁、サービス間のシステム・データ連携の遅れ等々、旧来の体制と意識に根ざした強固なしくみと慣習が変革の抵抗とはならないか。社会制度やシステムの不連続、かつ急激な変化に日本は出遅れないためにはどうするべきか、早急に真剣な議論を始めるべきと考える。


D4DRでは、今回の新型コロナウイルス流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を連載していきます。旅行・観光、小売、不動産、スマートシティ、エンタメなど、アフターコロナに向けて不可逆な変化が起こると見られる業界について取り上げます。

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坂野 泰士

D4DR FPRC(フューチャーパースペクティブ・リサーチセンター) 上席研究員

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