【イベント報告】メタバースとリテールの未来(7/20第49回NRLフォーラム)

7月20日、第49回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はパネリストとしてNRL理事の林直孝氏(J.フロント リテイリング株式会社 執行役常務 グループデジタル統括部長)、NRLフェローでもある徳力基彦氏(note株式会社  noteプロデューサー/ブロガー)、仲田朝彦氏(株式会社三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 レヴワールズ マネージャー)、池内 光(株式会社ビームス取締役 株式会社ビームスクリエイティブ代表取締役社長)をお招きし、「メタバースとリテールの未来」をテーマに、日本におけるメタバースのビジネスチャンスについてディスカッションした。

林 直孝 氏

パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web 事業を行うグループ企業の株式会社パルコ・シテイ(現株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。2013年に新設された「WEBコミユニケーション部」にてPARCO のデジタルマーケティング及びオムニチャネ化を推進。2017年より「グループCIT戦略室」にて、ショツピングセンターのDX (デジタルトランスフオーメーション)を具現化するため『デジタルSC(ショツピングセンター)プラットフォーム』戦略の推進を担当。2022年3月より現職。

徳力 基彦 氏

TTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任。現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。

仲田 朝彦 氏

早稲田大学政治経済学部経済学科卒。2008年に株式会社伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。紳士服担当として店頭・バイヤー業務を経験。2019年に社内起業制度を活用し、アバターへのファッション価値やライフスタイルを提案する「仮想店舗とデジタルウエア事業」のトライアルの実施。2021年より仮想都市プラットフォーム事業にて「REV WORLDS」事業を運営。

池内 光 氏

1971年生まれ。大学卒業後、電通に入社。23年間の在籍期間、キャリアの前半は営業職、後半はクリエイティブ部署においてプロジェクトをつかさどるプロデューサーとして、大小さまざまな企画を手掛けた。2018年4月、ビームスへ入社し、社長室室長に。20年5月、ビームスクリエイティブ代表取締役社長に就任。

■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)

メタバースは日本では流行らない?

2021年10月、Facebook, Inc.がMeta Platforms, Incと社名を変更し、メタバースに年間100億ドルを投資すると話題になった。

海外では、ゲーム業界に限らず、ファッション業界、教育業界などさまざまな業界に広がり、メタバース空間を活用した数多くのサービスが発表されている。しかし日本では、メタバースを活用したサービスや事例は少なく、日本ではメタバースは流行らないのではないかという声もある。本当に日本でメタバースは流行らないのか?

日本国内で、先進的にメタバースの活用に取り組んでいる方々から日本独自のメタバースの問題点とビジネスチャンスについてお聞きした。

メタバース先進国と日本の違い

メタバース普及における日本の課題は、VRゴーグルやパソコンの普及率の低さだ。総務省の「通信利用動向調査」によると、2021年のスマートフォンの世帯における普及率は88.6%だ。パソコンの世帯における普及率は69.8%とスマートフォンに比べて低い。日本のスマートフォンの普及率は高いが、Metaが考えているようなパソコンとVRゴーグルで体験するメタバースはスマートフォンで体験することは難しい。

徳力氏は「PCの普及率の低さがネックである。日本はスマホメタバースから始まるだろう」と指摘した。

日本ではスマートフォンによるメタバースの普及が予測されるが、メタバースの入口となる端末がメタバース先進国と違うため、先進国の事例をそのまま模倣しても日本で成功することはできないことが考えられる。

一方で日本独自の利点がある。それはおもてなしの接客が優れていることだ。メタバースが日本で普及した際、日本の接客サービスが海外よりも優れているため、海外のお客様が日本のサービスを受けたいという需要が高まることが予想できる。

ディスカッションでも以下のような議論になった。

林氏:海外から日本に期待されているのは漫画やアニメなどのコンテンツ。しかし、漫画やアニメといった知的財産は消費されて、終わってしまう。むしろ、メタバースが盛り上がったときにどこの国よりも、楽しい、居心地がいい、おもてなしといったサービスが日本の強みであり、メタバース活用においても大事になると考える。

仲田氏:日本人のおもてなし力、対応力、接客力は世界トップクラス。百貨店で先輩の接客している姿を見て、尊敬する。

つまり日本ではメタバースの入り口となる端末が課題となっているが、メタバースが普及したとき日本の小売業は海外のお客さんを取り込む戦略を視野に入れることでビジネスチャンスがあることがわかった。

小売業界のメタバース活用の成功を握る3つのカギ

現実の店舗を仮想空間で再現するだけで、成功するわけではない。メタバースだからこそ生まれる欲求や特性を理解し、メタバースを活用することが、成功する鍵となる。

商品に対する売り手の愛

メタバース空間で訴求する欲求は、マズローの欲求5段階説でいうと、社会的欲求以上になる。なぜなら、メタバース空間はコミュニティの形成が最も重要な要素となるためだ。

林氏:ワールドカップやハロウィンなどが開催されると渋谷で同じような趣味嗜好の人たちが集まる。このイメージが1番近いと思う。コミュニティに参加している証、連帯感を表現しようとすると、 1番わかりやすいのは、視覚的に表現することだ。ファッションはコミュニティの一員であることを簡単に示すことができる一要素となる。

また、承認欲求を満たすために、生活者は服を購入することもあるが、これはメタバース空間でも同様であると、徳力氏と藤元は議論した。

例えば、フォートナイトというオンラインゲームは無料で遊ぶことができる。課金の要素があるのはゲームの進行にまったく関係のないアバターにスキン(キャラクターの見た目を変えるコスチューム)である。リアルではファッションに興味がない人が友達に自慢したいという欲求からゲーム上ではアバターのスキンに課金するといった話がある。

仲田氏曰く、「アバターの服をなぜ買うのと聞かれるが、LINEのスタンプを買うことと同じだ。インターネット上でも、 人とのコミュニケーションが生まれると、やっぱり自分らしさを伝えたいと思ったり、TPOが存在していたりする」とのことだ。 

アバターのファッションはただ着飾るのではなく、生活者の社会的欲求以上の欲求が求められることも成功のポイントになるようだ。

ターゲット層は若者だけじゃない

メタバースのターゲット層といえば若者が思い浮かぶが、70代以上の高齢者層もターゲットになる。

仲田氏によると、メタバースのアプリを展開してから、70代80代の方からも問い合わせがくるそうだ。孫とコミュニケーションが目的でメタバースを利用したいと思うからだ。また、もし孫にアバターの服をおねだりされたら、買ってあげたいと思う祖父母もいるという。自分のアバターを着飾りたいと思う生活者だけをターゲットにするのではなく、購入するまでのプロセスに関わる生活者もターゲットになり得る。

購入までの体験に付加価値を与えることで、ターゲットとして考えられていなかった新しい層を獲得することができるだろう。

必須機能はコミュニケーションが取れること

メタバースでの小売業の展開において、現状のECサイトと大きく変化する点は、お客様と一対一で密にコミュニケーションを取ることが可能な点だ。現状のECサイトでは対応できない、リアルと同じような体験を提供することができる。

その点についてディスカッションで出た意見を抜粋する。

仲田氏:おそらくメタバースは一人で使わない方がいいサービスの象徴だろう。昔、おじいちゃんにメタバースで買ってもらったなと思い出すといった想像をしている。

池内氏:バーチャルだからECに近いと思っていたが、リアルの店舗に近い。ただリアルコミュニケーションと違い、アバターを着ていることで匿名性があるため、本音を聞き出しやすい。

リアル店舗ともECサイトとも異なるお客様とのコミュニケーションが可能になり、生活者のインサイトが理解しやすいメタバース空間では、お客様とのコミュニケーションの場を構築することが、小売業がメタバースを活用して成功するための大きなポイントとなる。

国内のメタバース取り組み事例

ここでは、実際に日本で行われているメタバースを紹介する。

「REV WORLDS」

三越伊勢丹が2021年3月にローンチしたREV WORLDSだ。

VRを活用したスマートフォン向けアプリで仮想空間の中に三越伊勢丹を再現している。そのため、商品を買いに行くにもメタバース内で歩く必要がある。仮想空間の三越伊勢丹はオンラインストアから厳選された商品が並んでおり、オンライン上で誰かとコミュニケーションを取りながら買い物ができるようになっている。

出典:仲田氏資料

「BEAMS」

ビームスは、メタバースで開催される「バーチャルマーケット」に2020年よりバーチャル店舗を出店している。リアル店舗を模しながらも現実にとらわれない独自の空間づくりやコーナー展開をしている。2021年はPUI PUIモルカーのアバターに加え、リアル商品と連動したオリジナルアバターも販売した。ビームスの目標は、バーチャル空間でセレクトショップならではの存在意義を示していくことだ。

「バーチャル秋葉原」

JR東日本は、jeki、HIKKYとともに、「Virtual AKIBA World」を展開している。現実の秋葉原駅およびその周辺エリアを再現したJR東日本オリジナルのバーチャル空間が広がっている。山手線31番目の駅としてJR東日本は謳っている。

リアルさながらに再現された駅空間で、アバター同士でコミュニケーションを取ること可能だ。

まとめ

日本で小売業界がメタバースへ参入するのは難しいと思われがちだが、メタバース普及後におけるビジネスチャンスは十分にあることがわかる。メタバースが普及することで小売業が提供できる体験価値がより幅広くなるからだ。

国内では、同じオンライン上でもECサイトを見るよりメタバースで接客を受けることで付加価値が高まり、生活者が購入に至る可能性が上がるだろう。また、現在のオンラインショップは探しているものをすぐ見つけられることに強みがあるが、メタバースにはリアル店舗の強みであるセレンディピティ(偶然の出会い)がある。つまり生活者にECサイトよりも多くの自社の商品を買ってもらえる可能性がある。そして、世界トップクラスである日本の接客サービスによって、海外からの顧客も見込めるなど、これからの小売業においては、メタバースを活用することを前提とした考え方が必要になる。メタバースの登場によって、顧客との接点は増加していくと考えられる。今後、生活者に対して、ブランド独自の出会いと接客による体験価値を提供できるかが重要になるだろう。

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

D4DRは、イベントの企画・運営などのトータルサポートサービスも提供しております。

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