プライバシー保護vs利便性―個人情報利用は進むか―

近い将来、プライバシーの概念に変化が見られ、パーソナルデータが公に公開されている状況が一般化するのではないか、とFPRCでは予測している。

すでにSNSの普及を契機に、プライバシーの概念は少しずつ変化している。FacebookやLinkedInなどの普及により、本名を用いてインターネット上でコミュニケーションをとることは、一般化した。


また、巷での監視カメラの増加も、プライバシーの概念を変えようとしている。駅や街中、コンビニなどにカメラがあふれ、人の顔や行動、人流等のデータは蓄積され、活用されている。カメラの設置により、事件の早期解決や、治安の維持に役立っており、監視カメラのない場所はむしろ危険な場所、とも言えるほどに遍在化が進行している。

プライバシー誕生の歴史

プライバシーの概念は、歴史上どのような経緯で生まれ、確立したのだろうか?

プライバシーという概念は比較的最近誕生しており、大きく取り上げられるきっかけとなったのが19世紀に発明された「写真」であった。それまで外に出回ることのなかった上流階級の密会などが写真で撮られることにより、ゴシップとして世に流布することとなった。写真を撮られた側はこれに対抗するために、撮影されない権利を訴え、こうしてプライバシーの概念は確立した。


日本においては「宴のあと」事件が有名である。元外務大臣有田八郎が三島由紀夫の小説「宴のあと」によりプライバシーが侵害されたとして、謝罪広告と損害賠償を請求した事件である。裁判により、日本では初めてプライバシーの権利が容認された。1964年のことである。

プライバシーに関連する近年の事例

プライバシーを巡って、近年問題となった事例や事件を考察してみたい。

Googleストリートビュー洗濯物事件

2012年、Googleストリートビューで自宅のベランダと洗濯物の画像が公開され、プライバシーが侵害されたとしてGoogle日本法人に対し慰謝料の支払いを求めた裁判が行われた。裁判所は「一般に,他人に知られたくない私的事項をみだりに公表されない権利・利益や私生活の平穏を享受する権利・利益については,プライバシー権として法的保護が与えられるとしながらも、本件はプライバシーの侵害には当たらないとして原告の訴えを認めなかった。

プライバシーの概念は消費者の間で拡大解釈されている傾向があり、一部の人は強い拒否反応を示すこともある。これはGoogle等がオプトアウトで個人情報を収集し、活用したことによる弊害も一因と考えられ、生活者はパーソナルデータ(個人情報)という言葉に過剰な警戒感を持つこととなった。

LGBTのアウティングを禁止する条例

2018年1月、東京都の国立市で、本人の承諾なく性的志向や性自認を第三者に暴露する「アウティング」の禁止が明記された条例が施行された。2015年1月には、国立市で一橋大学の大学院生がアウティングをきっかけに大学の建物から転落死(自死)してしまった事件が起きた。その後、深刻な被害につながる可能性があるアウティングの問題性が認知されるようになり、大学や自治体がアウティング防止の規定を含むガイドライン等を作成する動きもある。

社会は多様化が進み、プライバシーの概念もそれぞれであり、配慮が必要である。今回のような性別やセクシュアリティに関するものだけでなく、宗教、社会的出自、人種・民族・国籍、信条、年齢、職業、身体的特徴、疾病などのアウティングは、プライバシーの侵害と判断される可能性が高い。

破産者マップ事件

2019年3月、自己破産した人や企業の情報をGoogleマップで可視化した「破産者マップ」がインターネット上に公開された。官報に掲載されている破産者に関するデータを収集し転載したもので、名誉棄損であるなどとして批判を浴びて炎上し、マップを掲載したサイトは開設から4日後に閉鎖された。

破産者マップの問題は、官報に掲載(公開)されている個人情報を公開したものではあるが、情報をインターネット上に分かりやすい形で公表したことによって、不快・不安を感じる人がいたという点で倫理的に問題があったと言える。

中国におけるプライバシーの概念

中国におけるプライバシーの概念は、他国と比較するとかなり異質である。プライバシーの保護以上に、社会の安全や利便性・快適性の向上を優先する、かなり独自の価値観を持っている。
中国国内では、無数の監視カメラが設置され、共産党独裁体制強化の手段として報じられることも多い。たしかにそういった面があることも否めないが、監視カメラを用いて安全で幸福な監視社会を目指す動きであることも事実である。

また中国では、個人の信用をスコアリングする仕組みも確立していて、民間の信用スコア(ジーマ信用など)と、社会信用システム(政府のビッグデータによるもの)がある。
民間による信用スコアである「ジーマ信用」は基本的に、お金を立て替えたり貸付けて大丈夫な人かどうかを判定するのに用いられる。これは、中国では多くの人が銀行口座を持たないことが背景にある。
一方、政府の社会信用システムは借金の踏み倒しなど、犯罪者に対する社会生活の制限を目的に活用されている。ただし、中国当局に批判的な人権活動家への制限にも使われる場合もあり、問題はある。

その分、社会信用システムが構築され、犯罪や不正を未然に防ぐことも可能となっている側面もあり、中国のようないまだに暴動やテロ、子供の誘拐などの不安がぬぐいきれない国では、プライバシーよりも安全・安心・快適性が重要視されているのだろう。

日本では、中国の監視社会に対してネガティブな報道がされることが多いが、社会のデジタル化は中国の人々の生活利便性を向上し、それ以上の価値を与えている。よって、プライバシー遵守とデジタル化による利便性は、どちらを取るべきか、という議論にもなってくる。

利便性とプライバシーをいかに両立するか

今後、カメラの他に様々なIoTデバイスがわたしたちの生活に遍在化し、生活を豊かに、安全にしてくれる。一方で、IoTデバイスは私たちの様々なデータを収集している。
たとえば、スマートフォンのアプリから位置情報や趣味・嗜好情報、ウェアラブルデバイスからは心拍数、血圧、運動量など、電子マネーからは購買履歴や生活圏などの情報が収集されている。
これらのパーソナルデータは、カメラやIoTの遍在化がさらに進むことにより、収集される機会は加速度的に増えていくことが予想される。私たちはこのような社会で、どのような利便性を享受できるのだろうか?

ウェアラブルデバイスで命を救われる人が現れる

AppleWatchは心拍数、歩数、消費カロリー、運動時間などのデータを取得し、個人の健康管理に役立てるウェアラブルデバイスであるが、AppleWatchが心拍数の異常を検知してユーザーに通知したことで早期に疾病を判定し、九死に一生を得た人が次々と現れている。

いずれ、スマートフォンの使い方などをモニタリングして、脳梗塞や認知症を早期発見するような事例も出てくることが予想される。特にウェルネス・ヘルスケア領域は人々の関心も高くメリットも大きいことから、パーソナルデータを提供しても構わないという考えを持つ人が増えるのでは、と思われる。

パーソナルデータが社会の全体最適化に役立つ

パーソナルデータは、個人がメリットや便益を得られるだけでなく、社会にも良いインパクトを与えることもある。
特に日本は地震をはじめとする災害の多い土地柄で、事前にパーソナルデータを提供しておくことにより、災害時であっても細やかなサービス(個人に合った食料や備品の提供、誘導支援)が得られるようになるだろう。

また、個人の購買データ、趣味嗜好データ等のパーソナルデータを活用すれば、モノの最適な製造や販売が行われ、社会で発生する無駄やロスが大幅に削減されることが予想される。
このように、パーソナルデータを提供し活用することにより、社会全体の最適化、効率化、合理化が推進される。

 


日本人のプライバシーに関する意識は世界と比較しても特殊で、KPMGコンサルティングの調査によると、パーソナルデータを共有することに世界でも最も消極的でありながら、それを守るための自衛策を取っている割合についても最も低い、矛盾した内容だったという。


出典:https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-crossing-the-line.pdf

しかし、一昔前は電話帳(ハローページ、タウンページ)で氏名や電話番号を掲載することが普通であったなど、日本人のプライバシーに関する意識は、近年急激に変化していることも事実である。
そのため、パーソナルデータを公にすることにより、高い利便性や安全性、社会の合理化が図れることを真に理解できれば、ふたたびプライバシーの概念が急激に変化することはあり得ると予測する。



その中で私たちに求められるのは、プライバシーに関する正しい知識や自己防衛策、そして利便性とのバランスを自らでしっかり理解し、コントロールできる知識や仕組みを利用することであると考える。
しかしながら、先ほどのKPMGコンサルティングの調査結果のように、自らパーソナルデータをコントロールし、自衛する文化は、日本に根付いているとは言えない。そのため、日本国内で現在普及に向けての取り組みが行われている「情報銀行」のスキームは、日本の土壌に合っていると言える。


情報信託機能の認定に係る指針ver1.0 より
※情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

情報銀行ビジネスが軌道に乗り、各所でパーソナルデータ流通が推進された世界が実現すれば、個人の利便性が向上するだけでなく、社会の全体最適化がなされ、日本の様々な社会課題が解決していくことだろう。
情報銀行の理解が進み、パーソナルデータが適切な形で活用され、より利便性が高く、安心・安全な社会が実現していくことを望む

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Yoshida

専門は卸小売り、個人のライフスタイル、宗教・哲学など人文学。未来社会の事業環境整理・ 戦略コンサルティング、スマートシティ戦略立案等のプロジェクトに関わり AI、ロボット、IoT による社会課題解決に関心を 持つ。 カワイイ白犬と一緒に暮らす、ミレニアル世代。趣味は筋トレ・山登り・座禅・華道で、剛と柔の両立を目指している

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