飲食店・外食産業の新たな形(第二十一回)


【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一

アフターコロナ時代のビジネス戦略 -外食業界

外食産業はコロナの影響を最も受けた業界の一つであろう。2020/4/7に国は7都府県を対象とし、緊急事態宣言を発令した。夜間外出自粛の観点から飲食店の営業は午前5時から午後8時までの時短営業の要請がなされ、様々な飲食店で売上が大幅に減少する結果に至った。緊急事態宣言解除後も、企業のテレワーク推進等の影響を受け、飲食店利用率は大幅に減少している。
日本フードサービス協会によると、4月の全店売上高はファミレスが59%減、居酒屋は91%減だった。現在は4月に比べるとある程度回復しているものの、資金的に余裕のない個人経営飲食手だけではなく、複数の大手外食チェーンが不採算店舗の閉店を決めるなど、厳しい状況はまだまだ継続することが予測される。

コロナで生活者の価値観や意識が変化していく中で、飲食店・外食産業も生活者のニーズに合わせて変わっていく必要がある。飲食店が今後どのように変わっていくべきかを3つのキーワードから考える。

店舗の変動費化

従来、飲食店が利益を高めるために取り組んでいたことは、変動費をいかに抑えるかが中心であったのではないだろうか。 しかし、今回のコロナで多くの飲食店が閉店せざるを得なくなってしまった原因は、「売上が立たないのにも関わらず、家賃やリース料などの固定費がかさんでしまった」ことにあるだろう。今後もコロナのようなパンデミックが起こる可能性は十分考えられる中で、リスク回避として固定費であった家賃を変動費化(つまり、売上の変動により費用も変動させる)させる必要があるのではないだろうか。

実は既にコロナ流行以前から、間借り営業や飲食店営業許可所得済みレンタルスペースなどある程度「家賃の変動費化」に対応している店舗も実際にある。
スペースマーケット社が運営するレンタルスペースを簡単に貸し借りできるサービス「スペースマーケット」 には、飲食店営業許可済みレンタルスペースが約30ほど登録されている。(※そのスペースを使って飲食店を営業してよいかはホスト次第であり、必ずしも営業していいとは限らない。)
スペースマーケット社が今後、飲食店営業に特化した店舗の貸し借りに力を入れるかは不明であるが、飲食店営業に特化したスペースのマッチングプラットフォームが誕生するであろう。
そのような仕組みができると、当然今回のコロナのような生活者が巣ごもりしてしまような状況においても「営業しない」と決断すれば固定費はかからない。また次のキーワード「フードデリバリー」でも触れるが、シェアリングキッチンを活用すれば、対面での飲食店を非営業にしても利益を得ることはできる。
人とのコミュニケーションなどを大事にしながら料理を提供したい、と考えている飲食店営業者は一定数いるのではないか、と私は考えているが、このように店舗を変動費化させることによって、リスクを回避しつつ飲食店を営業することができるはずだ。

フードデリバリー

コロナ禍において、出前館やUber Eatsなどフードデリバリーの利用者数は大きく増加した。MMD研究所とコロプラが共同で行った調査「2020年インターネットでのフードデリバリーサービスに関する調査」によると、緊急事態宣言発令後に飲食店のデリバリーを利用した生活者は64.1%を占める。(N=457)
また、1年以内のインターネットでのフードデリバリーサービス利用は前年の29.9%(N=1,253)に比べ、16.5ポイント増の46.4%(N=984)であったことからもフードデリバリーサービスの利用者が大きく増えたことがわかる。

では、飲食店側のデリバリーサービスの対応はどうか。
以下は、フードデリバリーサービス国内最大手「出前館」の加盟店舗数の推移である。
緊急事態宣言発令前と比べ、ほぼ倍増していることがわかる。私は数年前、アルバイトで出前館デリバリー業務を行っていた経験があるのだが、緊急事態宣言前は大手チェーン店が多く加盟している印象であった。加盟店倍増の背景には、もともとこだわりや品質維持、手数料率の観点からデリバリーに懐疑的であった個人経営店もしくは小規模チェーン店が、コロナ禍で売上をたてるために苦肉の策として利用したのではないかと考える。

withコロナを考えると、今後もフードデリバリーサービスの利用者・加盟店は増えることが予測され、プロが作った料理を自宅で手軽に食べることが当たり前になるだろう。
そして、このようなデリバリーサービスの普及を背景に新しい飲食店の形として、 実際の店舗を持たず、シェアキッチンなどで調理を行い、デリバリーを中心に営業するレストラン「ゴーストレストラン」 が広がりつつある。今後もデリバリーのさらなる普及・進化に伴いゴーストレストランは増加することが予測される。既存の飲食店のホール業務がほとんど不必要になるため、極端なことを言うと「美味しい料理を作れる人」と「上手くマーケティングできる人」さえいれば繁盛させることができ、初期費用もそこまでかからないことから参入しやすい環境になるのではないだろうか。

店舗で重要になる体験価値

上で述べたように、フードデリバリーやゴーストレストランがより普及すると、安くて美味しい料理は自宅でもどこでも食べることができるようになる。そのような時代において、生活者が飲食店に求める価値は「安くて美味しい料理」ではなく、「その場でしかできない体験」である。今後、飲食店において重要になるであろう3つの価値を以下に挙げる。

場・体験の共有

高級イタリアンや高級寿司などをイメージするとわかりやすいだろう。大人デートで高級レストランは人気であるが、それはただ美味しい料理を食べにいっているわけではなく、カップルで共有するその場の雰囲気や景色も目的の一つであろう。
上記は「デート」というシーンを切り取ったが、他にも飲食店を利用する様々なシーンが考えられる。例えば、「家族での楽しいひととき」といったシーンもあるだろう。株式会社串カツ田中が展開する「串カツ田中」は早くから全面禁煙化に取り組み、親子で作ることができる「手作りたこ焼きセット」や器に入った具材を自分で混ぜて作る「田中のおにぎり」、ソフトクリームを自分で作れる「ソフトクリームチャレンジ」などを店舗内メニューとして提供している。

非日常体験・エンタメ型

先ほど例に出した高級レストランは、非日常体験型の飲食店ともいえるであろう。自宅で手軽に美味しい料理を食べることができるからこそ、外食時には自宅では絶対に体験できない非日常体験へのニーズが高まるのではないだろうか。
特に、エンタメ×非日常体験型飲食店は、今後飲食店の一つの形となるのではないかと推測する。
店内に釣堀があり、そこで自分で釣った魚をその場で調理してもらい食べる「釣船茶屋ざうお」や、監獄という普通の人ならば絶対に体験することのない異次元空間で飲食することができる「監獄レストラン ザ・ロックアップ」、VR技術・プロジェクションマッピング・音楽などによって空間全体が演出されたフロアを移動しながら食×アートの融合を体験できる「TREE by NAKED 」など、既に尖ったエンタメ×非日常体験型の飲食店はいくつか存在し、注目を集めている。

コミュニケーション・コミュニティ

例えば面白い店主と会話のできる飲食店やママと会話のできるスナックなど、店主・店員と気兼ねなく話すこと、また店主・店員に限らず常連同士で話すことも「その場でしかできない体験」であろう。コミュニケーションを取ることは人間の根源的な欲求であり、「そこの店に行けば、誰かと気兼ねなく話すことができる」ことは今後の飲食店において重要になるだろう。スナックや行きつけの店だけでなく、テクノロジーを駆使し、コミュニケーション体験を提供する飲食店もある。それが、遠隔地にいるスタッフの表情やポーズを読み取ったアバターと会話することのできる居酒屋「AVASTAND」である。今後はこのようなアバターを活用した飲食店や、AR・VRを活用し新たなコミュニケーション体験を提供する飲食店が必要になるだろう。

また、飲食店で食事をしながら「そこにいる人全員で同じ目的やコンセプトをもって何かを行う」コミュニティ飲食店も新たな飲食店の形の一つになるでだろう。従来は「店員」と「お客さま」にはっきり分かれていたが、 クラウドファンディングや投げ銭などの応援経済が流行しつつあることを考えると、 店員とお客様の垣根がなくなり、「関わりたい生活者全員で飲食店を作り上げる」という価値が重要になるはずだ。

コミュニティ飲食店「6curryKITCHEN」

上で述べたように、飲食店は新たな形に変わっていくであろう。本記事では主に飲食店に絞って論じたが、変わるべきは飲食店だけではなく、食に関する様々な業種のプレイヤーも、アフターコロナ時代の生活者の外食ニーズに応じて変わる必要がある。また現状は食のバリューチェーンに入っていない異業種プレイヤーにも新規参入のチャンスは大いにあるであろう。


次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「メディア」、9/2更新予定です。


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Sho Sato

Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。

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