【イベント報告】b8taが日本に持ち込んだRaaSは定着していくのか?(5/26第47回NRLフォーラム)

5月26日、第47回目になるNext Retail Labフォーラムが開催された。

今回はゲスト講師に北川卓司 氏(ベータ・ジャパン株式会社 CEO)をお招きし、「b8taが日本に持ち込んだRaaSは定着していくのか?」をテーマにご講演いただいた。

北川卓司 氏(ベータ・ジャパン株式会社 CEO)
北川 卓司氏

2005年に独立系PR会社に入社、その後外資系IRコンサルティング会社、ウィーン(オーストリア)に本社を構えるロモグラフィー日本支社CEO(最高経営責任者)を経て、フランスEMLYON経営大学院でMBAを取得。2015年、ダイソン世界初の旗艦店「Dyson Demo表参道」をオープン、東京統括部長を歴任。 2019年末よりb8ta Japanに参画し、日本事業立ち上げに従事。

■ホスト:菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
 中見 真也 氏 神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授
 比企 宏之 氏 LINE Corporation Technical Evangelism Team マネージャー
 石郷 学 氏 株式会社team145 代表取締役
 樋口 進 氏 マーケティングシステム株式会社 DX推進コンサルタント

b8taが生まれた理由

b8taのミッションは、リテールを通じて人々に新たな発見をもたらすというものだ。小売店での販売を主目的にしているのではなく、体験・発見を生活者に楽しんでもらうことを目指している。
b8taは2015年にシリコンバレーで創業した。一号店はカリフォルニア州のパロアルトという場所で、appleストアやスタンフォード大学が近くにある。
創業者は4名いて、そのうち3名はネストの出身だ。ネストは、グーグルに買収されたスマートホームのデバイスの会社である。中でもCEOを務めていたヴィブ・ノービー氏はエンジニアの出身で、ネストのデバイスを製造していた。当時は、スマートホームがまだ新しいコンセプトで、実際にデバイスをオンラインに繋げて初めて良さが分かるプロダクトだった。商品が家電量販店の棚に箱に入ったまま並べられているのを見たノービー氏は店頭でのデモを打診したが、まだ販売の実績もないような商品を箱から開けて試してもらう場所――つまり、店頭の一番いい場所である――に置くことはできないと断られたそうだ。この体験を通して、ノービー氏は同じ課題を持っているスタートアップが多くあるはずだと考えた。そして、スタートアップの販路はオンラインが主流であった2015年、逆行するかたちでオフラインの体験型店舗を開店したのが始まりである。

アメリカで創業したb8taが、日本に参入した際に留意した点も議論になった。

比企氏(フェロー):現在の体験型店舗というスタイルは元からあったのか、北川さん独自でやってきたのか?

北川氏:什器や内装はアメリカから輸送してきたが、オペレーション面はローカライズしている。アメリカでは気になるプロダクトがあれば店員に話しかけるのが一般的だが、日本で同じ接客方針を採用すると、出会いがないまま終わってしまう。より良い体験、記憶に残る体験を提供するにはスタッフからも話しかけ、一緒に体験する仕組みを作る必要がある。

RaaSとは

b8taのビジネスモデルはRaaSと言われる。小売業よりも、決まった区画に出店してもらう不動産モデルが近い。
店内はいくつかの区画に分かれており、各区画を月額で貸し出すシステムだ。出品するブランドは商品とその情報を送る必要がある。

b8taと出品ブランド、生活者の相関図
b8taは
・接客対応
・在庫管理
・販売代行
・イベント実施
・点ニア行動データの提供
・来店客の生の声
・売上100%バック
といった内容を提供
出典:北川氏資料

これに関連して、ディスカッションでも出品について話題が出た。

中見氏(フェロー):b8taのコンセプトと、セレクトショップとの違いは何か?

北川氏:セレクトショップはバイヤーがいて、目利きで集めたものを生活者に楽しんでもらうお店。b8taはマーケティングのプラットフォームとして使ってもらいたいと考えている。スタートアップだとオンラインの出品は手軽だが、オフラインの出品はまだまだ難しい。オフラインでの接点が新宿、有楽町、渋谷、越谷レイクタウンに持てるのは良いプラットフォームだと思う。

オープンした当初は、出品している会社のブランドマネージャーやCEOが直接b8taスタッフ全員に商品の説明をしていた。しかし店舗とスタッフが増えた今は、体制を変更している。まずトレーニング担当者を決め、全ブランドのトレーニングを受けてもらう。その後、トレーニング担当者がb8taの社内システムに商品の情報をアップロードする。その中には動画やクイズ、出品会社の背景を入れており、b8taテスター(店舗スタッフ)はそれらを通して学んでいく方式だ。各店のb8taテスターがどこまで学んだかもGeneral Manager(ゼネラルマネージャー)が確認し、進捗状況に応じてスタッフを管理できるようになっている。
b8taは販売を主目的にしていないが、商品の在庫を店舗にも置いて販売自体は行っている。北川氏は「ご来店いただくお客様にベストなオファーというものを提供したいから、すぐに購入したいとおっしゃるお客様の声にもお応えしたい」と話した。

また、b8taテスターは「購入する/しない」「どこに興味を持ったか」など会話を通じて定性的なフィードバックを集めている。同時に店内の天井にある複数のカメラで、来店者の性別・年齢、どのような動きをするかという定量的なデータを取得している。このようなデータを一元で管理することができるのがb8taの強みだ。定量的なデータ、定性的なデータ、販売データの3つがb8taで集められるデータになる。
出品ブランドはこの3つのデータをマーケティングのアクティビティに活かすことが可能だ。

店内で取得可能なデータをダッシュボードで一元管理  ・定量データ
①AIカメラで店内行動を分析
②デモグラフィックカメラで性別・年齢層を分析  ・定性データ:b8taテスターが集めるフィードバック
出典:北川氏資料

一方で、定量的なデータはb8taの店舗の内装にも活かされている。来店者の店内での移動情報をもとに、どこに何を置くか、回遊率を上げられるかを試行錯誤している。一人でも多くの人に色々なものを体験してもらうため、特定の場所に人気の商品が偏ることがないようにしている。

「売らない店」の増加

販売を主目的としない店舗は増加してきている。今やb8taに出資しているマルイグループだけでなく、大丸、そごう・西武、高島屋などが続々と「売らない店」をオープンしている。「売らない店」というカテゴリーが認知され同じような店舗が増えたのは、b8taのモデルが上手くいっていると見られていることの証左ではないかと、北川氏は手応えを感じているようだ。

「売らない店」に注目が集まっている理由には、3つポイントがあると北川氏は分析する。

1つ目は、実店舗の存在価値である。コロナ禍の前から問われてきたが、さらにその流れが加速している。ECでの売上が上がっていく中で店舗の存在意義を関係者は考えてきたが、そこでb8taのモデルが注目を集めた。

2つ目は、従来のモデルからの転換を迫られつつある百貨店の新たな収益モデル・商業施設の中のコンテンツとして認識されたことだ。

そして3つ目は行動分析・店内で起きていることの可視化である。北川氏はかつて家電ブランドに在籍していたそうだが、家電量販店の店内で起きていることがブランド側には不明瞭であることを課題に感じたという。このような課題に対して、b8taが店内の行動を可視化できることは大きい。

日本にはRaaSが定着するか

北川氏は、RaaSは日本で定着すると考えている。その理由は2つある。

1つはオンラインとオフラインの融合が進むと、b8taのようなモデルが浸透する可能性が高いことだ。ただ、北川氏はRaaSもカテゴリーによって細分化するのではないかと分析している。例えばb8taのように体験と発見に重きを置くと、雑多なものを並べるかたちになる。しかし多種多様なプロダクトを置いている店舗に対して、来店者に「○○の店だ」という認識を持ってもらうことはできない。同じ体験型店舗でも、アパレルやコスメなど、カテゴリーを限定する方が店舗と顧客の双方にとってメリットがあるため、今後増えていくと北川氏は予測する。

2つ目の理由は、個人情報と取得データの紐付けだ。ただし、これはRaaSが定着するための次のチャレンジでもある。
店内でのデータは取れるが、それをどう使えるかが新たな問いになっている。個人情報の取り扱いには慎重でなければならない中で、どのようにしてオンラインとオフラインを紐づけていくのかが重要である。つまり、会員の来店時店舗に、予めオンラインで獲得していた情報とどのように紐づけて、個人に合ったサービスを提供するかということだ。
例えば、何回目の来店か、前回購入した商品は何かなどが分かれば、より深い体験を提供できるだろう。そのようにサービスをブラッシュアップできれば、b8taとしても、また全体としても、RaaSは定着するであろうと北川氏は話す。

北川氏も、まだ知らないものをたまたま見て興味を持ってもらうためにはどうすればよいか、どのような体験を提供できるか、日々新しい訴求方法を探っているそうだ。
コロナ禍によってオンラインでの買い物をする人は著しく増えたが、2年経ち、街の人出は戻ってきたようにも感じられる。実店舗での買い物も今後また増えていくだろう。店舗で手にとって体験することで記憶に残り、オンライン上で商品を見るよりも購入に至る可能性が上がるという生活者も少なくないのではないだろうか。顧客にとっても実店舗での買い物は、「イメージと違った」という失敗を避けやすいというメリットがある。これからの実店舗の役割は、販売そのものではなく、b8taのような出会い・体験・実感にますます重点が置かれることだろう。

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

D4DRは、イベントの企画・運営などのトータルサポートサービスも提供しております。

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