Apple -製造業で有り続けるか未来のサービス業になるか-(藤元健太郎)

日本以外で売れなくなったiPhone

Appleが先日発表した決算が13年ぶりの減収減益となり話題になっている。稼ぎ頭のiPhoneの売上が日本だけは伸びているが中国で26%減と大幅に落ち込んだのを始め,米国でも10%減で,iPhoneだけでなくiPadもMacも落ちているというここ最近ではかなり厳しい状況だ。

iPhoneはデバイスとしてはジョブズの死去とともに発表されたiPhone4sあたりでほぼ完成系という感じであり,その後は画面の大型化,カメラの高性能化やTouchID,NFC機能の搭載などマイナーチェンジを繰り返している感は否めない。ずっとMacを使い続けて来た私としてもスピンドラーやアメリオの時代の冬の時代の製品を知っているだけに心配な兆候だ。

アップルの「幸せすぎる黄金時代」は終わった

とにかく数を売り続けなければいけない製造業のモデル

ご存じの通り,Appleが世界一の時価総額をつけたのは高い利益率をほこるiPhoneのハードウェア販売の成功が理由であることは間違いない。なのでハードウェアの売上が落ち込めば当然のように業績は悪くなる。同じく時代の寵児とされたカメラ機器ベンチャーのGoProは他のカメラメーカーが似たようなハードウェアを出して来たため,あっというまに売上が落ち込んでいる。

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売り続けなければ行けない製造業モデルは成熟化した先進国ではそもそも厳しいモデルだ。落ち込んだと言っても相当な数のiPhoneを売り続けている。日本の携帯電話メーカーが束になってもかなわない数だ。それでも成長し続けなければいけないところが製造業の厳しいモデルだ。新興国があると言っても低コストな製品で戦わなければいけないし,地球上ではいよいよアフリカ大陸が成熟するまでの寿命のモデルだ。こういう時代の製造業は最近新しいタイプのヘアードライヤーで挑戦しているダイソンのように常にイノベーションを起こし続けなければいけない。AppleもIBMのPCに対するMacでイノベーションを起こしたがその後停滞,ジョブズ復帰後にiPod,iPhoneなどの連続したイノベーションが今のAppleを築いたが,製造業のモデルとしてはまた停滞期を迎えている。

ヘアードライヤー|Dysonスーパーソニック

ハードを売る補助のまま来てしまったiTunesというプラットフォーム

iPodが登場した時,ウォークマンに勝利した理由のひとつとしてあげられたのが音楽プラットフォームiTunesの存在である。確かに当時は幅広い音楽レーベルを集め一曲99セントで販売するというモデルとの組み合わせは新しい時代の製造業のビジネスモデルを見せてくれた。しかし,あれからもう15年。相変わらずiTunesはハードウェアの販売を助けるための存在を越えてない。利用者にとって自分に心地よい体験を与えてくれるアプリケーションの方がハードウェアよりも価値が高くなっている。

最近話題になっている以下の記事にもあるように,Appleが提供するAppleMusicは頭を抱えるような問題をはらんでいる。私の利用しているiTunesMatchも色々厳しいサービスだが,いまやiTunes全体何かをする時にどうしてよいかわからないアプリケーションだ。かつてUI/UXの神様の会社のように言われて来たAppleのサービスを使って使いやすいと思う人が今どれくらいいるだろうか。次々と機能を追加してきたiTunesはもはやマイクロソフトの悪口を言えないくらいひどいインターフェイスだと言うしかない。最近の若者がGoogleやAmazonのサービスの方がはるかに使いやすいと感じていても不思議では無い。実際iPhoneを使っている人達でAppleが提供しているアプリをよりはほとんどの人が他社のアプリを利用している時間の方が長いだろう。iPhoneの上で価値を感じているのはLINEやfacebookやゲーム,Instaなどの写真アプリということだ。iPhoneを使っていてAppleを感じることはどんどん減っている。写真撮影の性能がかろうじて優位性を保っているがかつてハードからOS,アプリケーションまで一体で設計された美しさという世界も無くなりつつあるのだろうか。比較対象がもっとひどいWindowsやAndroidだから助かっていただけなのかも知れない。

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次の成長シナリオは?

今Appleは膨大な世界中の顧客達に再び驚きを与えるのか,素晴らしい価値を与えるのか次のシナリオを示す分水嶺にいると言える。
決算ではサービス部門は20%の伸びを示して60億ドルと全体の売上の10%を越えている。まだまだ伸びる領域だ。顧客価値を活かして販売に依存する製造業モデルから顧客の可処分所得の中からAppleへの支払いシェアを増やすサービス業モデルへのシフトが戦略的なシナリオとしては望ましいと個人的には考える。

1)VR/ARで新しいデバイスを出し,iTunesでソフトを売る

このまま今の延長線で生き長らえるならばデバイスが重要になるVR/AR領域でAppleらしい画期的な商品を出すしか無い。iTunesもアプリのカテゴリーを増やすだけなのでそのまま行ける。GoogleもfacebookもMicrosoftもすでに手がけているがAppleは2018年ぐらいに発表と噂されており出遅れ感が心配だ。

2)ロボットか車を売る

あくまで製造業としてさらなる新世界でイノベーションを起こすなら名前的にもぴったりなiRobot社をあたりを買収するか電気自動車会社を買収してiCar出すかあたりだろう。世界中にまた売りまくるのだ。

3)ApplePayからの金融ビジネス

サービス業への転換のひとつのシナリオが金融業だ。小売りの世界はAmazonががっちり支配しているが,FinTechはまだこれからの戦場だ。日本ではこれからだがApplePayはまだまだ色々な可能性があるし,クレジットカード会社を買収するくらいのことがあってもよいかもだ。siriがカード会社のサービスセンターになって色々チケット取ってくれると嬉しい。決済だけでなく,保険や証券などもまだまだ再設計すると面白いかもしれない。

4)iTunesを全面刷新した新しいサービスプラットフォームを構築する

個人的に一番望むのはiTunesというiPodのためのプラットフォームを一度捨てて,iLifeというソフトウェア群につけた名前を冠した本当のサービスプラットフォームを構築して欲しい。これからサービスを始める世の中の多くのビジネスが登録できる本当の意味でのクールなマッチングプラットフォームに是非挑戦して欲しい。iLifeの上で地球上の誰もが簡単にビジネスを始めることができるような世界。シェアリングエコノミーの世界観も是非実現して欲しい。

Appleは新しいオフィスを建設中だ。巨大なUFOのようなこのオフィスを巨大な墓場にしないためになんとか頑張って欲しいのが1991年からのAppleユーザーとしての願いだ。

建設中のアップル新本社をドローンで見る

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Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。

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