世界のCOVID-19対策  
~FPRC Fortnight Feature(FFF)20年4月下旬号~

毎月2回、FPRC研究員が国内外のニュースを取り上げ、独自の目線で読み解く「FPRC Fortnight Feature(FFF)」。2020年4月下旬号として、医療分野でのAI・ビッグデータ活用、自動宅配サービス、スマートシティ構想などに関するトピックスをお届けいたします。

AI

4/24「AI顔認識技術を活用した体温測定システムを文部科学省に導入」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000054735.html
4/30「総務省、AI顔認識を活用した体温測定システムを導入–来省者の体温異常を検知」
https://japan.zdnet.com/article/35153177/
AI顔認証技術を使った非接触の体温測定装置は、世界各地でCOVID-19対策に活用されている。また、イベント会場、保育園など様々な場所での使用を想定した製品が次々と登場しており、感染拡大防止に貢献することが期待される。

4/24「Israel is using AI to flag high-risk covid-19 patients」
https://www.technologyreview.com/2020/04/24/1000543/israel-ai-prediction-medical-testing-data-high-risk-covid-19-patients/
イスラエルでは、COVID-19の合併症リスクがある人の特定や、必要となる治療レベルの判断にAIが活用されている。このAIは、過去27年の数百万にのぼるデータからインフルエンザの高リスク者を特定する既存のシステムがもとになっているという。イスラエルでは、1990年代半ばから個人の医療情報が「電子健康情報システム(EHR)」に蓄積されており、データを集約的に管理することで活用を容易にする仕組みが整えられてきた1。そのような長年の取組がCOVID-19対策におけるAI活用を可能にしており、記事においても、医療データが複数の医療システムに分散して保管されている米国に同じシステムを展開することは容易ではないと指摘されている。日本は現在、医療データの集積・活用のためのプラットフォームが整備されつつある段階にあり2、今後も環境整備を推進していくことが必要である。

4/16「NBA and Microsoft plan personalized, AI-powered game streaming」
https://www.engadget.com/nba-microsoft-ai-game-streaming-193552938.html
AIでスポーツ観戦も変わるかもしれない。NBAで、機械学習とAIを使ってファンの好みに合わせてパーソナライズされた試合放送を配信する計画が進んでいるそうだ。NBAは、試合映像のリプレイや過去の試合映像のライブラリなどが閲覧できるサブスクリプションサービスを2018年から提供している。試合のAIによるパーソナライズはそのようなサービスと連携して展開される予定であるという。

VR・AR

4/21「Doctors and nurses are using VR to learn skills to treat coronavirus patients」
https://edition.cnn.com/2020/04/21/tech/vr-training-coronavirus/index.html
アメリカでは、医師や看護師がCOVID-19患者に対応するための訓練が、VRを使って行われている。COVID-19の感染が拡大する以前から医療機関や教育機関に導入されており、VRによる訓練はけがの減少などに効果があるという研究結果もあるという。医療分野は早期にVRを導入してきた業界の一つであり、それが非常時に効果を発揮しているといえる。

4/28「コロナで無観客も来場者1万人 VRでeスポーツイベントを開催」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00376/
リアルイベントが開催できない状況にある中、仮想空間でイベントを行っている事例がある。この記事では、3月に東京渋谷で開催されたeスポーツイベント「RAGE」が紹介されている。通常は会場でのリアルイベントと動画配信サイトでのライブ配信を行っているが、今回はVRシステムで無観客の試合を配信した。

4/23「住宅展示場の閉鎖相次ぐ 積水ハウス、紙製VRゴーグル配布しバーチャル内覧会」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2004/23/news051.html
4/20「住宅探しに“コロナの風”、「バーチャル展示場」の開設相次ぐ」
https://newswitch.jp/p/21934
住宅展示場も、COVID-19の感染拡大防止のため休業を余儀なくされている施設の一つである。積水ハウスは希望者にVRゴーグルを無料配布し、自宅からモデルルームを内覧できるキャンペーンを行った。また、複数の企業がウェブ上に「バーチャル展示場」を開設しているという。

エネルギー・資源

4/15「テキサス州の生産制限案に一部シェール事業者が反発、掘削停止を警告」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-15/Q8T4KRDWLU6N01
4/27「世界の原油在庫「あと2カ月で満杯」の衝撃。グーグルら135億円投資のベンチャー、貯蔵タンクの衛星画像を解析」
https://www.businessinsider.jp/post-211812
コロナによる需要減で、記録的な原油安が続いている。米国シェール関連企業の採算が合わず、破綻する企業も出始めた。シェールガス産業の中心地であるテキサス州では、強制力のある生産制限を導入するべきかどうかが検討されていた。(5/5には生産制限に関する採択は見送られた3。)

学習・教育

4/14「インパクトでか! 子供に英語を教えるソーシャルロボット「EMYS」」
https://www.gizmodo.jp/2020/04/emys.html
4/28「中国、先生はロボット 子供の質問に自動で回答」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58441980U0A420C2FFE000/
子どもの第二言語学習のためのロボットが登場している。英語を教えるロボット「EMYS」は、3~9歳の子どもが言葉や歌に合わせて身体を動かしながら英語を学習できるように設計されている。瞬きをしながら子どもの様子を目で追いかけ、子どもが触れたことをタッチセンサーで感知して反応する。中国では、教育ロボットの市場規模が拡大している。記事では悟宝(woobo)社が発売している、未就学児向けのぬいぐるみ型バイリンガルロボットが紹介されている。ロボットは子どもの質問に英語と中国語で答えることができ、コミュニケーションを取りながらレッスンができる仕組みになっているという。これらのような双方向のコミュニケーションが可能なソーシャルロボットは、子どもの関心を惹くことで効果的な学習を可能にする。日本でも、2020年から小学校での英語授業が必修化するなど英語学習の低年齢化が進んでおり、こういった子ども向けのソーシャルロボットの需要が高まるかもしれない。

4/27「「スキルは新しい通貨」になる? 教育の常識をブロックチェーン&データサイエンスで変える「ラーニング・エコノミー」」
https://amp.review/2020/04/27/learning-economy/
ビッグデータとAIを教育・学習に活用する興味深い事例も登場している。米国のNPO「ラーニング・エコノミー」は、個人が政府や企業にデータを提供する代わりに、無償で学習する機会を得られる取組を行っているという。個人が提供する学習やキャリアに関する情報はブロックチェーンで管理され、AIによる個別のキャリアに関するアドバイスも受けられる。ラーニング・エコノミーは、SDGsの教育に関するターゲットである「すべての人のための質の高い教育」と「働きがいのある人間らしい仕事」を達成することを目指しているそうだ。

モビリティ

4/30「Why robots aren’t delivering your groceries during the pandemic」
https://edition.cnn.com/2020/04/30/tech/robots-covid-19-deliveries/index.html
4/28「米運送大手UPSと薬局チェーンCVSが処方薬をドローン配達、フロリダ州の高齢者地区で」
https://jp.techcrunch.com/2020/04/28/2020-04-27-ups-and-cvs-will-offer-prescription-drug-delivery-to-florida-community-via-drone/
以前から人手不足が深刻化していた宅配業界4だが、COVID-19流行に伴うEC需要の増加が追い打ちをかけている。ドローンやロボット、自動運転などを活用した宅配の無人化は、人手不足の解消に貢献できるとかねてより期待されてきた。しかし、自動宅配サービスが実用化されている事例はまだごく一部である。1つ目の記事は、「ロボットはなぜパンデミック下で食料品を配達していないか」を、技術やコスト面から解説している。記事によると、ロボットはまだ完全に自律して動くことの安全性が証明されていないことを指摘しているという。そのため、ロボットが配達を行う際には人が監視する必要があり、ロボット配送サービスには多くの人件費がかかるのが現状だそうだ。
自動宅配の普及にはまだ時間がかかりそうだが、実用化が進んでいる事例もある。米国では、運送大手のUPSと薬局チェーンのCVSが、ドローンを使った処方薬の配達を開始するという。使用されるMatternet(マターネット)社のドローンは2.3kgの貨物を約20km運ぶことができるそうで、すでに医療用品の配達で実用化されている。

都市

4/22「東京都心「大丸有MaaS」が始動へ 世界初デジタル都市計画の全貌」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00375/?i_cid=nbpnxr_top_new
2020年3月、東京都千代田区の大手町、丸の内、有楽町地区のスマートシティ構想が発表された。記事では、世界各地で推進されているスマートシティ計画を、中国やシンガポールの「行政主導型」、ゼロベースで開発を行う「新市街地型」、既存の都市をデジタル化する「既成市街地型」に分類している。「大丸有スマートシティビジョン」は「既成市街地型」の構想としては世界初の規模であるという。

4/14「東富士、品川エリアでのスマートシティ実現に向けトヨタとNTTが業務資本提携に合意」
https://dime.jp/genre/893983/
トヨタとNTTが、スマートシティビジネスの事業化に向けて業務資本提携を締結した。両社はスマートシティ実現の基盤となる「スマートシティプラットフォーム」を構築し、先行ケースとしてトヨタが2021年から建設予定の静岡県裾野市の実証都市「Woven City」と、東京都港区の品川駅前エリアで実装する計画であるという。

4/13「テンセントが湖北省への投資計画を発表、スマートシティ化に向け武漢市と協力」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cd37516f88695d44c707e4a615a57a278b0bd50a
4/16「コロナが中国のスマートシティ実装を加速化、人類は労働から解放される?」
https://www.zaikei.co.jp/article/20200416/562529.html
4月7日、中国テンセントが湖北省への投資計画を発表し、行政、教育、モビリティ、AI,セキュリティなどの分野で武漢市のスマートシティ化を進めることを発表した。テンセントは以前から長沙市などのスマートシティ化に取り組んでおり、2019年7月には、住民向けや観光客向けのサービスを提供できるスマートシティ用クラウドの新ブランド「WeCity未来城市」を発表している5。2つ目の記事によると、武漢市では既に遠隔医療や無人車両による食料配達、AIによる感染者接触確認アプリなどが導入されているそうだ。これらのシステムが迅速に導入された背景の一つに、武漢市では早くから5G通信インフラの整備が進んでいたことがあるという。

COVID-19流行が続く中、医療分野ではビッグデータやAI、VRを対策に活用する取り組みが報じられている。アメリカの医療機関でのVRトレーニングと、イスラエルの医療ビッグデータ活用の事例では、いずれもパンデミック以前から技術の導入やデータ活用の環境整備が行われてきたことが現在の取組を可能にしている。武漢市の急速なスマートシティ化の背景にも、通信環境が整備されていたことがある。COVID-19流行が様々な分野でのテクノロジー活用が進む契機になるという期待もあるが、中長期的な視点での環境整備が必要な場合も多い。日本でも進んでいる医療データの利活用基盤の整備や、スマートシティ構想の行方に注目していきたい。

今回の新型コロナウイルス流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を連載しています。ぜひ「こちら」もご確認ください。