今こそ見直されるべき農業ビジネスの可能性(第十一回)


【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一


アフターコロナ時代のビジネス戦略 -農業-

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、約2ヶ月間の外出自粛により、自宅で過ごし3食とも自炊をしていた人も少なくないであろう。

本稿では食の根幹を成す農業の現状と、アフターコロナ時代における新たな農業ビジネスについて考察する。

コロナ下の農業の現状

日本の農業は、大きく分けて「生活必需品農産物―例えば米、野菜、一般小売向けの牛、豚、鶏肉など―の生産農家」と「輸出も含め、嗜好品的農産物―例えば神戸牛などのブランド肉、マスカットアレキサンドリアなどの贈答用フルーツなど―の生産農家」に分かれる。なお、フルーツ狩りや観光牧場を生業としている農家は、観光業として分類し本稿での記載は割愛する。

個人で経営している必需品生産農家は、今回のコロナでの影響をあまり受けていないとされている。

反面、農業を法人として比較的大規模に行っている農業法人は、4月1日の時点での回答であるが、2割以上の減収と回答している法人が14%存在し、2割まではいかないが減収を見込んでいる法人が49%と何かしらの影響があると回答した法人は63%にも及んでいる(以下グラフ参照 )。

日本政策金融公庫の調査より、D4DR作成

農業の場合は、当たり前であるが生き物が相手であるためテレワークが不可な業種である。個人事業農家の場合は、ほとんどが自宅に農地が隣接しているため外出自粛の影響をあまり受けなかったようであるが、農業法人の場合は、いわゆる「農産物生産会社」であるため、社員(勤務者)の通勤自粛なども影響し、生育や収穫に影響が出ているようだ。

需要面では、牛乳など学校給食に直結するような農家は影響があったとされている反面、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品のマーケットでの品薄感は続いている。

また飲食店で利用されていた農産物に関しては、飲食店の需要は減少したが、その分家庭用での需要が増加し、JAの納入先調整などもあり、大きな混乱は起きていない。

生活必需品生産農家は、一部では影響が懸念されているが、大きな混乱は起きていないと言える。

しかし「嗜好品的農産物生産農家」は、大きな影響を受けている(または今後受けると予測されている)。

もうすでに大きな影響を受けているのは、神戸牛や松坂牛などの高級国産和牛市場である。(他の嗜好品的農産物も影響を受けなかったわけではないが、コロナの流行が「旬」や「需要の最多期(例:イチゴ=12月が最多期)」を外したため和牛市場ほどの影響は受けていないようである)日本国内の飲食店の運営自粛により、食材の需要が急激に落ち込み、海外向け輸出に関しても経済状況などから大きな落ち込みを見せている。

令和2年4月の黒毛和種の枝肉相場は1,714円/kgと昨年同月比で70.8%にまで下がっており(参照:農畜産業振興機構「毎日の市況情報」令和2年4月、黒毛和種、去勢、A4、東京・大阪加重平均)、生産現場に深刻な影響をもたらしている。

一時、政府与党でささやかれ、マスコミを中心に揶揄された「和牛クーポン」政策は、実は笑い事ではなく、実際に生産農家の窮状を救うための苦肉の策であったようである。しかし実現しなかったこともあり、「経営を継続できない和牛農家」が多く表れると予測できる。

農産物は、収穫までにタイムラグがある。現在の状況から判断し、今後の需要を予測し育成に取り掛かるため、嗜好品的農産物の減産や高級品から中級品以下への生産調整要請が相次いでいる。

代表例は、テレビのニュースなどにも取り上げられた岡山県の「贈答用大房マスカット」の高級品から中級品への要請であろう。

大房マスカットは輸出向けに人気が高く、2019年度は生産量の3分の1を香港や台湾などに輸出したが、全農おかやま園芸振興課は「輸出国の経済状況はもちろん、運送便の減少や運賃の値上げなどで先行きが見通せない。国内の贈答用も他の産業の状況次第で不安定」(参照:日本農業新聞)とし、全農おかやまが毎月農家向けに出版している情報誌にも「ストップ!大房化!」と題した啓発記事(花の長さをカットし大房をやめることを推奨)を掲載している。

同様の生産調整の依頼が宮崎のマンゴーや山形のサクランボなどの高級フルーツでも行われており、今後も他の農産物にも波及すると予想される。

アフターコロナの農業とは ~農業をビッグビジネスチャンスへ~

必需品農産物

前述では必需品農産物は大きな影響は現状は無いとした。今後はどうであろうか?

日本の食料自給率は平成30年度のカロリーベースで37%(参照:農林水産省)である。つまり、63%は外国に頼っている。農産物の直接の輸入はもちろん、肥料や飼料など間接的輸入も極めて多い。

農産物も工業製品同様、グローバルなサプライチェーンにより支えられていたのである。

コロナにより各国が「自国主義」傾向が強くなると、最初に守るものは「食料」である。我が国の場合は、自国で賄える食料は4割もない。これは国民の我慢だけで耐えられる数値ではない。

したがって、自給率を上げる努力をする必要がある。考えられる方法は次の3つである。

1:農産物はもちろん、肥料・飼料などの間接財も含めた国産化

近代以前の農業は、循環式農業であった。これは、都市で排出される残渣が近隣農家の農産物の肥料となり収穫物が都市に流入するといったものである(完全国産化)。

この方式をAIやICTの活用による作業の自動化・省力化、ビッグデータ活用、ドローンなどの最新運輸方法など現在の知識・見識・技術を組み合わせたスマート循環農業に昇華させることである(江戸時代の農業を現代の英知で甦らせる「超江戸時代農法」)。

2:農業の会社化

スマート循環農業は大規模、大資本であればより効率的に行える。効率的に行うことができれば、生産コストも下がり、今後再び海外の安価な農産物がコロナを乗り越えて輸入されたと仮定しても、価格面で十分競争が可能となる。そのためには現在の農業法人よりも大規模な法人組織の参入を阻害しないことである。

3:農業のスマート化

パソナなど一部の企業が実験的に行っているが、農産物のスマート生産化(必要なときに必要な分だけ、テクノロジーを活用して生産する)を本格的に推し進める必要がある。前述のスマート循環農業が可能となれば機械化を含む省力化が可能となり、今回のコロナ禍ではできなかった農業のリモートワークも可能となるであろう。

この3点の実現は、食料自給率の確保ばかりではなく、農業就労者の高齢化問題にも踏み込めるのである。

嗜好品農産物

嗜好品農産物は和牛や高級フルーツなどのブランド品に大きな影響が出ている。今後どうするべきであろうか?

今後一切、高級品を作らないというわけにはいかないので、今後は販売チャネルの多様化、生産コストの削減などの効率化も必要となろう。和牛などブランド維持のために「鑑札」制度を導入し販売チャネルを絞ってきたが、今回のようなことが起こると、それが仇になる可能性が高い。

そこで、販売チャネルの多様化が必要となるが、ブランドの陳腐化も避ける必要がある。このバランスを戦略的に取らなければならない。

また、職人気質で手間暇かけて生産することが良いことだという風潮を否定するわけではないが、効率化することにより内部留保も生まれ、万が一の時のセーフティーネットにもなる。そのためにも必需品農産物に記載した3つの方法を高級農産物の分野においても取り入れてもよいのではないだろうか。

実際に鹿児島県肝付町では、農業法人である株式会社ファームノートと株式会社NTTドコモが提携し、若手肉用牛農家へのスマート機器導入およびデータの収集・分析の支援を開始している。このような例もあるので、スマート農業を全国的に広めるような旗振りを政府・行政には期待したい。


次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「ウェルネス」、6/24(水)更新予定です。



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