【未来戦略コンサルタント藤元健太郎が考える】新しい地方金融の必要性

日本全体が右肩上がりで成長していた時代が終わり,東京などの一部の大都市を除けば,人口や税収様々な指標が縮小していく時代は地方にとってはこれまでとは異なるメカニズムで社会システムを維持していくことが必要になる。今回は地域で官民連携で新しいお金の流れを生み出した二つの事例を紹介したい。

一つ目は公民連携で街のコモンズである公衆浴場を整備して成功した事例が山口県の「長門湯本みらいプロジェクト」だ。長門湯本温泉は歴史と伝統ある温泉地だが日本中の温泉地でよく見られる,昭和の大人数の団体が宴会でやってくる時代に栄えた典型的な温泉地だった。ピークは1984年の39万人でそれ以降は年々減少していき2014年には半減し,150年続いた老舗旅館が破産する状況を迎えた。危機感を抱いた街は行政主導で日本各地で成功事例を多数生み出していた星野リゾートを誘致するが,星野リゾート側は地域全体が盛り上がらなければ成功しないと温泉地再生のマスタープランの策定を条件にした。ここから行政と民間が協働する再生プランがスタートする。

目玉は地域コモンズの象徴とも言うべき公衆浴場のリニューアルだ。かつて温泉組合が運営していた公衆浴場は行政が引き継ぎ運営していたが赤字を垂れ流す状況だった。ここを魅力的な目玉施設にリニューアルし,民間で運営していくためのプロジェクトが組成された。しかし,温泉旅館達の投資では厳しいためファイアンスの仕組みが求められ,地銀である山口銀行を中心とするプロジェクトファイナンスが組成され,なんと無担保無保証で,地域の温泉旅館のリスクを切り離すことができた。さらに入湯税を150円値上げし,エリアマネジメントの運用費も捻出することに成功した。地域で起こりがちな行政依存や民間の利害が錯綜し,何も前に進まない,お金も無いという状況を打破できたのだ。何よりも民間が新しいコモンズとしての主体を組成し,個々の利害を超えた地域価値の圧倒的向上に本気を出すことと,価値あるコモンズの創出と運営のスキームが何よりも大事だ。そして地銀も魅力的なプロジェクトであれば当然お金は出したいはずなのだ。

二つ目は豊田市で実現したSIB(ソーシャルインパクトボンド)だ。豊田市では高齢化社会における医療・介護サービスの供給不足と介護給付費の増大が大きな未来の社会課題だった。そこにSIBという官民連携のスキームを導入した。SIBは行政が社会課題を解決するために,民間から事業資金を調達し,企業やNPOが成果を出した場合にその成果に応じて報酬を後払いで支払うという仕組みだ。サービス提供事業者の選定は中間支援組織が行い,成果の評価は第三者評価機関が行うため,行政の事務負担は少なくて済むのもメリットだ。現在2万5千人の参加者が43団体の50以上のプログラムを組み介護保険給付金の10億円削減を目指してプロジェクトが推進されている。

どちらのプロジェクトも行政の役割を民間に移管する部分と,ちゃんと事業成果を出す部分が共通である。資金の出し手としての地銀もリテール金融のシェアが大幅に下がることが見えている中では新しい収益の仕組みとしてこうした試みには積極的に参加するだろうが,一方で地域や地域に魅力を感じる海外の富裕層が直接的に投資するスキームも今後は重要になるだろう。その際のインセンティブ設計も利潤だけでなく,より地域コモンズへのエンゲージメントなどWeb3のDAO的な思想を設計に盛り込んでいくことも大事になるだろう。従来の金融の枠を越えた柔軟な発想の地域金融が求められているのと,行政の前例主義や議会調整,他人事間隔などを突破する強い思いが地域を動かしていくことになるだろう。

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