【イベント報告】生成AIの現在とリテールでこれから起こること~わずか1ヶ月で起こった破壊と創生の軌跡~(6/22第58回NRLフォーラム)

6月22日、第58回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。

Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関して調査研究をしたり、マーケティング視点での提言を行ったりする任意団体である。

今回は話題の生成AIにフォーカスし、その現在地を見据えながら、リテールの未来にどのような影響を及ぼすのかを議論・考察した。講師としてTANREN株式会社 代表取締役の佐藤勝彦氏を迎え、短期間で起こった破壊と創生を踏まえて、独自の知見を共有してもらった。

佐藤勝彦氏

TANREN株式会社 代表取締役

TANREN_CEO #OODA #EdTech #HRTech #SalesTech →マルチメディア時代の赤ペン先生アプリ“TANREN” 2015/04 ローンチ。
OODA組織マネージメントと、ルーブリック評価を軸とした組織変革でIVS/Eラーニングアワード/HRアワード/グッドデザイン受賞多数。
一般社団法人プレゼンテーション協会理事。
GPT-4登場と共に、自社プロダクトTANRENの大幅仕様変更を意思決定。
近日、GPT搭載版TANRENをローンチ予定。

■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)

■ディスカッション参加フェロー:
・比企宏之氏 LINE Corporation Technical Evangelism Team マネージャー
・島袋孝一氏 J.フロントリテイリング株式会社 グループデジタル統括部デジタル推進部
・河野貴伸氏 株式会社フラクタ 代表取締役

生成AIをどう使うか

文章や画像を生成するAIは、登場からわずかな期間で、すでに様々な論点について議論されている。人間が時間をかけて行ってきた作業をあっという間に成し遂げる生成AIをどのように使うかという課題は、業種や職種にかかわらず向き合う必要があるといえるだろう。

まず佐藤氏は、講演のキーワードとして「ゴールシークプロンプト」を挙げた。これは「生成AIをどう使うか」を方向づける手法の一つであり、生成AIのポテンシャルをもっと活かすための思考フレームでもある。

今までのAIと生成AIの違い

そもそも、これまでも様々な分野で活用されてきたAIと、昨今実用化されたばかりの生成AIの違いはどこにあるのか?
フェローの比企氏は、この点について以下のように説明する。

「生成AIが登場するまでは、AIと人間の違いは、責任が取れるかどうかだと考えていた。しかし、生成AIを使いこなす佐藤氏と話してみて様々な気づきを得た。
例えば、人間の一人ひとりには限界のある知識や経験を大幅に拡張できる集合知として有用であるということ。
また、アプリの開発などで苦戦しているときに、最初から完成形を目指すのではなく、一度作ってだめだったらやり直すということをアジャイルに繰り返す方向に発想を切り替えることもできた」

生成AIの強みは、まさに何度も出力を繰り返しながら最適解に近づくことができる点にある。その最適解へとたどり着くための道筋を分かりやすい枠組みにしたものがゴールシークプロンプトである。

AIとの対話攻略法「ゴールシークプロンプト」

佐藤氏は、生成AIは全世界の知に通じているともいえる存在だが、ソースが膨大な分、その中から最適な答えを見つけ出すルートにも工夫が必要だ、と強調する。生成AIに対して曖昧なイメージを提示するだけでは、AIの出す答えにゆらぎが生じてしまう。さらに前述のとおり生成AIは、一度で最適解を導き出す検索ではなく、対話を通してゴールを追求するサービスと捉える必要がある。その対話をより良く成立させるためにゴールシークプロンプトがあるということだ。

なお、佐藤氏が紹介した以下のゴールシークプロンプトは、もともと海外のプロンプトエンジニアの間で使われていたものをもとに、林駿甫氏が日本語版として確立したものである。

ゴールシークプロンプトの概要:プロンプトに入力する内容と手順
①役割(+知識)を決める
②ゴールを決める
③手順と変数を提示する
④制約条件を決める
⑤対話を通じてゴールを確定させる

例えば、「営業で使える商品紹介のトークスクリプトがほしい」と考えた場合、以下のような内容と手順でプロンプトに入力することで、AIと予めアウトプットイメージを共有することができ、最適解を探ることが容易になる。

①役割(+知識)を決める
AIは全世界の知見を集約しており、何者にもなることができる。「あなたは一流のセールスパーソンです」といった役割を定義することで、任意の視点でのアウトプットを期待することができる。
また、「〇〇を熟知しています」といった文言を加え、特定の知識をアウトプットのベースとして指定することも可能である。

②ゴールを決める
「新商品のセールストークスクリプトを構築することがゴールです」といった要領で、自分の目的あるいは求めるアウトプットを提示する。

③手順と変数を提示する
特定の商品の特徴や最新情報を様々なWebサイトから取得した上で、それらを要約・考察したものを踏まえて文章を生成する…といった手順を示すことで、より最適解に近いアウトプットが可能になる。
変数とは、この例の場合「対象とする商品」「参照してほしいページのURL」などがそれにあたる。

④制約条件を決める
出力される文章の長さや構成などのアウトラインを決めなければ、やはりゆらぎが生じる。「AIDMAの法則の構成に従ってください」「Markdown形式で記述してください」のように、求めるアウトプットの形式などを指示することが必要である。

⑤対話を通じてゴールを確定させる
ここまでのプロンプトを受けて出力されたものに対して、フィードバックしたり指示を追加したりしながら、最適解を探っていく。

加えて佐藤氏は講演の中で、上記のようなプロンプトによる生成AIとの対話をアプリの音声入力によって実演し、生成AIによるビジネスへの影響だけでなく、生成AIそのもののインターフェースも変わる未来をも示唆した。

Generated by Microsoft Bing Image Creator

AIの躍進で相対的に可視化される、人間が行う仕事の価値とは

講演後のパネルディスカッションでは、生成AIと人間の役割や、リテールにおける活用について、様々な意見が交わされた。一部を抜粋して紹介したい。

質問:今回の講演の中でトークスクリプトを生成したが、それを用いてトークすることは人間の役割として残るか?
佐藤氏:より面白いトークを追求できる人と、AIに一任する人に二極化すると思う。熱意すらもAIによるトークに反映できるようになれば、本質を見極めてトークしたいという人だけが残り、そうでない人は何もしなくてよいと考えてしまう。
島袋氏(フェロー):トーク力はこれまで現場で重視されてきたが、その捉え方が変わる可能性がある。人事評価も今までのものではなく新しい評価基準が必要になるだろう。
藤元(モデレーター):例えばスタッフスタートを利用してスキルを開花させている店員のような人が生成AIを活用すれば、もっと強力な武器になるということでもある。
比企氏(フェロー):これまで話を聞いた中で、24年卒から採用基準を変えるという経営層がいた。例えば「この人と飲みに行くと楽しい」「この人がいるから店舗に行く」という人間性重視にするとのこと。
佐藤氏:裏を返すと、テキストに置き換えられないものの価値が増幅するということでもある。抑揚や間のとり方、所作、ノンバーバル・コミュニケーションなどから得られる体験が重要。

河野氏(フェロー):24時間365日稼働できて、1対多数で対応できるAIを見ると、コミュニケーションの総量では勝てない。そのとき、人はどこで勝負するべきか。
藤元:そういう点では、やはり最初はサポートセンターなどから置き換わっていくのだろう。
比企氏:カスタマーサクセスを目指してサポートセンターに入社した人が、AIに置き換えられて社内失業が起こった事例を聞いたことがある。
佐藤氏:捉え方によって変わるが、AIが時間や場所に縛られずに稼働できることを前提とした新しい提供価値やサービスが生まれ、新しい接客ポイントが発生する。そこでAIよりも高いレベルの接客を目指す人にとってはチャンスでもあり、悲観することではない。

AIの進化でリテールはどう変わるか

続いて、購買体験がAIによってどのように変化するかというトピックについても議論となった。

質問:現状のECは自分でカタログから選んで購入フローをこなす自動販売機のようなシステムが多いが、AIによってチャットコマースが普及し受け入れられると、今のようなECはなくなるのか。
佐藤氏:ターゲットをセグメントごとに捉えるマーケティングではどうしても取りこぼしが出るところを、AIを活用することで一人ひとり全員に向き合ったパーソナライズが実現できる。ECであれば、アクセスした瞬間に過去のデータを参照して、個人に合わせた体験を提供するようになる。
島袋氏:相手がAIだとしても、顧客がワクワクドキドキできる余白をどう作れるか、寄り道をしたくなるような遊び心のある仕組みを考えていきたい。
河野氏:現在の現実世界を模したECのような、「カゴに入れる」といった購買行動上の分かりやすさは、間にAIが入ることで不要になる。例えば「洗剤が切れそうなので買っておいて、もし安くなっているお店があったらそこを優先して」という指示で済む。だからこそ今で言うレコードのように、手間がかかっても楽しいものは残るだろうが、ほとんどはそのように視覚的なUIが不要のAIによる外商方式に変わり、AIに対応するデータを用意できないECは生き残れないのではないか。

まとめ:共生の時代に向けて

LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)によるAIの飛躍的な向上を経て、シンギュラリティはこれまで以上に接近してきたと言える。さらにAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)やASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)のビジョンも見えてきた中で、人間にはどのような姿勢・行動が求められるのか。

佐藤氏は「AIとの協働、AIがある前提でのものづくりという観点が重要だ」と語る。今回紹介してもらったゴールシークプロンプトなどはその考え方を内包しており、今後この手法自体は不要になる時代が来るとしても、「AIをどう捉え、どのようなゴールに向かって人間とどう役割分担させるか」といった根本にある視点を意識すること、それを生成AIが登場したばかりの今から身につけておくことが、来るAIとの共生時代を迎えるための下地となるだろう。

※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

D4DRは、イベントの企画・運営などのトータルサポートサービスも提供しております。

The following two tabs change content below.

関連記事

記事タグ