イーロン・マスクに学ぶ 10年先を見据えたバックキャスティング視点での事業戦略【第5回FPRCフォーラム 前編】

2022年6月1日、D4DR社のシンクタンク FPRCは、『消費トレンド2040市場予測』の刊行を記念し、ゲストにnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏、日経クロストレンド発行人の杉本昭彦氏を迎え、第5回FPRCフォーラム「Z世代の先を読む15の未来市場と生活者トレンド」をオンラインイベントとして開催した。

前編では、D4DR/FPRCの藤元と坂野より、企業の事業戦略に関して

  1. 変化が見通せない現状、10年先を見据えたバックキャスティング視点での事業戦略が重要
  2. 大企業の新規事業はジャストアイデアをたくさん出すことからではなく、まずは攻めるターゲットや市場のシナリオイメージの具現化と共有が重要
  3. この先の変化によっては既存の市場と違う方向から脅威がもたらされるかもしれず、市場を俯瞰して見る必要がある(→イーロン・マスクの取組を参考)

の3点をポイントとしてプレゼンテーションを行った。本記事ではその内容を抜粋して紹介する。(※ゲスト・登壇者のプロフィールはこちら

後編では、ゲストを交えて「1. 未来の生活者トレンド」「2. ゲストが注目する未来市場」「3. 未来洞察の力を身につけるにはどうすればよいか」の3つのテーマについてディスカッションを行った。

 

1. バックキャスティング視点での事業戦略の重要性

藤元は、10年先の市場の構造変化を見据えて事業戦略を考える必要があるということの具体例として、「着うた」市場の変化を例に挙げた。

Appleが初代iPhoneを発表した2007年当時、着うた市場は拡大を続けており、2009年にピークを迎えた。しかし、10年後の2017年には、iモード対応機種の出荷が終了し、前年

2016年には着うたの配信が終了した。このように、ある時点では好調でも10年単位で見ると急激に縮小してしまう市場は多く、現在はドローンや自動運転、ロボットといった様々な技術が着うた市場に対するスマートフォンのような立場にあると藤元は指摘する。

一方で、Netflixの歴史を見ると、10年先を見据えて事業戦略を展開してきたことがわかる。1997年に無店舗のオンラインDVDレンタルサービスとしてスタートし、2~3年後にはサブスクリプションサービスやレコメンド機能を導入、2007年にストリーミング配信に事業を転換した。Netflixは、DVDレンタルサービスを提供していた時期から、10年後のテクノロジーやブロードバンドの普及といった環境の変化を見据えて価値づくりを行ってきたのである。

トヨタが静岡県裾野市に建設中の「Woven City(ウーブン・シティ)」は、まさにそういったバックキャスティング視点で作られていると藤元は話す。10年後にはモビリティが変化して全く違う世界になるということを前提に、街づくりをしているのだ。

(出典:TOYOTA ニュースリリース

2022年4月に道路交通法が改正され、電動キックボードなどの「特定小型原動機付自転車」が車道では時速20km、歩道では時速6kmで走行することができるようになった。歩道を走る自動宅配ロボットも、これまでは時速4kmまでしか認められていなかったが、時速6kmまで出せるようになった。このような法整備により、パーソナルモビリティが街中を走り回る時代のベースができたと言えるだろう。

トヨタのウーブン・シティでは、「低速で走行するパーソナルモビリティと歩行者が混在する道」を含む4種類の道路を作る計画が発表されている。これは、パーソナルモビリティが普及する未来を想定している。

 

2. 市場のシナリオイメージの具現化のために:15の新・消費市場

FPRCでは、バックキャスティングで事業戦略を考える参考とするため、2030~2040年に向けて登場する象徴的な新しい15の消費市場を定義し、その市場がどのような技術により新たな商品・サービスとして出現するかを捉えることで、未来シナリオを予測している。

参加者に15市場のうち気になる市場の投票を行った結果、「自己表現市場」に最も票が集まった。

 

3. イーロン・マスクから学ぶ未来市場の俯瞰

前半の最後には、D4DR/FPRCの坂野より、独自の将来ビジョンに基づきバックキャスティングで事業を組み立てているイーロン・マスクのビジネス展開について紹介した。

イーロン・マスクのビジネスチェーンについて詳しく知ることができる
「ONEチャート」セッションについてはこちら

 

坂野は、イーロン・マスクの事業の新たな価値提案とテクノロジーの進化が結びついて急激に市場が変わるタイミングで、既存ビジネスや市場の多くが破壊的な影響を受ける可能性があると指摘する。影響を受ける市場はエネルギー、住宅設備、モビリティ、通信・データマネジメント、リテールなど多岐にわたる。

 

イーロン・マスクが最初に手掛けた事業は、「SpaceX(スペースX」)」である。彼は人類の地球外移住を可能にしようというビジョンのもと、従来の形の宇宙事業では難しいだろうということでロケット開発をはじめたという。そこから派生して、現在はSpaceXのロケットで通信衛星を打ち上げる「Starlink(スターリンク)」や、BMI(Brain Machine Interface)を開発する「Neuralink(ニューラリンク)」、テスラのEV・仮想発電所事業、チューブの中を高速移動する「Hyperloop(ハイパーループ)」事業などが展開されている。

 

このような一連のビジネスは、「完全に持続可能なエネルギー・エコシステムの構築」を目的としているが、背景にはイーロン・マスクの「人類の持続可能性を高める」という目標があるのではないかと坂野は指摘する。彼は他との差別化ではない、高い視座からのバックキャスティング思考で、いつ何をすべきかというタイムスケジュールを組んで実現に向けて動いていると考えられる。

 


後編では、ゲストを交えて「1. 未来の生活者トレンド」「2. ゲストが注目する未来市場」「3. 未来洞察の力を身につけるにはどうすればよいか」の3つのテーマについてディスカッションを行った。


記事タグ