【イベント報告】オムニチャネルの必然 より顧客主体のビジネスへ(第1回NRLフォーラム)

2017年1月26日、D4DRが企画・運営に関わる「Next Retail Lab(ネクストリテールラボ)」フォーラムの第1回が開催されました。

「Next Retail Lab」は、企業間の垣根や社会人と学生の垣根をなくして、フラットな状況で次世代の小売りを研究するとともに実践に移していく、シンクタンクコミュニティです。青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社(青山学院Hicon)が主催しています。

記念すべき第1回のフォーラムでは、元株式会社キタムラ執行役員でオムニチャネルを手掛けた逸見光次郎氏をお迎えし、オムニチャネルをテーマに、これからの小売流通について語っていただきました。

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なぜオムニチャネルなのか

お客さまが物を買ったり情報を見たりする環境が、スマートフォンが出てきたことで、ものすごく変わってきました。さらに、1990年代までの右肩上がり成長の時代ではないことをしっかり踏まえて、ビジネスモデルを考える必要があります。作れば売れる時代から、お客さまが選んで買う時代になったのです。

お客さまはネットでいろいろな情報を見て、賢く買い物をしているのだとよく言われますが、自分たちの環境に置き換えたときに、そんなに情報の取捨選択がうまくできているとは思えません。正しいのか間違っているのか分からない情報がありすぎて、選べなくなっているからです。

スマートフォンは、ただの道具です。お客さまと接点を持つときに、スマートフォンが使いやすい商売であればとことん使えばいいのです。スマートフォンが便利な人はスマートフォンで入るし、いまだにPCで見ている人はPCで入るでしょうし、やはり雑誌がいいよねという人は雑誌を見るでしょう。お客さまが変わったのですから、商売する側も変わらなければいけません。

またEC化率は、たとえば食品物販では2%しかなく、書籍では21%、家電では28%など、商売の部門やジャンルによって、まったく違います。

これまではマスの広告を流して、家族に対してアプローチをしていました。たくさん作れば売れていたからです。今は個人一人一人に対して、より細かくアプローチをしていかなければなりません。だから、お客さま自身のいちばん便利な接点に対応するオムニチャネル化は、必然なのです。

オムニチャネルのさまざまなモデル

では、実際はどうなっているか、まずは国内の事例を見てみます。

良品計画は、MUJI Passportを使ってもらえるようになると、お客さまの許可を取れている状態で、さまざまな顧客情報が得られます。それを経営戦略に生かすことができます。

ヨドバシカメラについては、以前は商売敵だったのでほとんど触れなかったのですが(笑)、すごい、すばらしいモデルです。お店とネットの在庫が一元管理されていて、どこに何があるかがすべて見えています。お店で売れようがネットで売れようが、会社の在庫回転率が上がっていき、利益が出るモデルです。

リンナイは、メーカーECのモデルです。お客さまとECでダイレクトに商売することによって、リンナイのガスコンロに対する要望が入り、お客さまとのコミュニケーションが深まります。売上が目的ではなくて、部品などの顧客サポートから始まって、お客さまの意見をもらうことで、新商品の開発につなげています。

パルコは、テナントショップの販売員自身がスマートフォンから商品情報をブログでアップできる「カエルパルコ」を展開しています。このサイトから物が売れたときに、ブログをアップした販売員にきちんと評価が紐付いています。

ビームスは、少しパルコに似ていますが、専門知識を持った販売員が、商品にとどまらず、スタイリングなどの情報をサイトに発信しています。

DIYツールドットコムは、ネットでパーツや工具を売るサイトです。この会社では、自分たちのショールームでDIY教室を毎日開催しています。工具を使って何をするのか、DIYの楽しさを伝えるための場所を作りながら販売しています。

OZIE(柳田織物)はワイシャツのEC販売です。この会社は、六本木にショールームがあります。お客さまは、初めての購入の時は実際に物を見ますが、見て安心した後はネットで買い続けます。OZIEが優れているのは、多品種少量生産になるワイシャツを売り切って、利益を確保するモデルを作り上げたことです。

最後に、キタムラにも触れておかないといけませんね。概して専門店は店内に入りにくい。カメラの専門店であるキタムラもそうでした。そこで、店に入りやすくするためにネットを活用し、ECは店に集客するための道具と割り切りました。お客さまの目的は、写真を撮ることです。撮影するものや使う人によって、買うカメラは変わります。ネットで物を見ても、店で専門家と相談し、確認してから買いたいのです。今では店頭受け取りが7~8割になっています。

顧客満足度を高めるために

顧客にとって便利なチャネルが成長します。スマートフォンで注文するのが楽な人もいれば、カタログで見て電話注文するほうが楽な人もいるでしょう。まさにオムニチャネルの時代です。

これからの考え方は、チャネルごとの部分最適の事業採算性ではなく、会社全体としての顧客満足を上げていく方向に行くでしょう。そのときに大事なのが、自社の専門性と顧客ニーズです。

アメリカとイギリスに見る海外の動向

アメリカは宅配がメインの国です。しかし、Amazonと競争すると価格競争になってしまうため、多くの小売は既存店舗を生かすべく、店頭受け取りを進めています。

ウォルマートは、コンビニ業態やネットスーパーなど、常に挑戦し続け、さらに新しい仕組みを作っています。

ホールフーズはECにあまり力を入れていませんが、インスタカートのような買い物代行業者に頼んで、利便性を高めています。

イギリスのアルゴスは、もともとはカタログ通販の会社です。店舗にもカタログとタブレットがあるだけで商品が並んでいませんが、レジの後ろの倉庫に何万点もの商品があります。陳列しないから、お店の中で場所を取らないのです。アルゴスは最近、セインズベリーズというスーパーに買収されました。セインズベリーズはネット化率が低く苦戦していたので、アルゴスを買うことによって、ネット化率を上げました。店舗が得意なところと、ネットや通販が得意なところが組むのは、これからも進んでいくでしょう。

イギリスでもう一つ見てきたのは、ジョンルイスです。150年近い歴史のある百貨店なのに、ネットで購入した物を店頭受け取りができるようになっています。オウンドメディアも作り、アニュアルレポートでは、ネットを使うお客さまが主軸になっていくと分析しています。3分の2の顧客がネットも店舗も使うようになっています。

これからのオムニチャネル

1.顧客理解

まずは顧客理解をしなければなりません。自分たちのお店に来ているお客さまは誰なのか、店舗もネットも含めて見ていきます。KPIは売上、利益と、Life Time Valueです。

デジタルマーケティングは、あくまでもお客さまのニーズに対する仮説の実施と検証の手段であって、目的ではありません。紙でもWebでも、お客さまの求める情報を、求めるタイミングで、求める形で届けることが大切です。

2.単品管理

商品マスターをしっかり整備することが基本です。社内の在庫はネットでも店舗でも、複数店舗があっても、ちゃんと一元管理して、お客さまに伝えることができるようにします。メーカーとのサプライ・チェーン・マネジメントを整備して、在庫で持つべきものと、取り寄せ対応するものを明確にします。

3.組織と評価

オムニチャネルの組織が顧客に対して機能しないのは、成果が評価につながらないからです。ネットから店へ送客したら、店に売上を計上するだけでなく、ネットの部隊も評価をすべきなのです。

こういったことは、現場からのボトムアップではなくて、経営戦略としてトップダウンで落とさない限り、できないのです。その上で、後は現場に任せます。

4.社外連携

将来の話としては、店舗が強い企業とネットが強い企業が相互補完連携をしていくでしょう。ネット企業がお店を作るのは大変だし、お店しかないところがいきなりネットの最新システムを入れるのは厳しいですが、相互補完できる要素があれば、一緒にやったらいい。

また、専門店同士が顧客や地域の軸で、商材を補完することもあるでしょう。たとえばカメラ屋が自社の顧客に、カメラ以外で必要な物について、地域のお店を推薦するようなことです。

ビジネスは、より顧客主体に

ネットが普及して商品情報があふれ、しかも単身世帯がどんどん増えていく中で、顧客との1 to 1の関係はより深まっていきます。そのキーになるのは、スマートフォンという道具です。

紙でも店頭でもネットでも共通化された施策とKPIが重視されます。その上で、価格競争だけではなく、その企業の強みである専門性とサポートをもって、いかにお客さまに継続的に使ってもらえるのかが大事です。

シニア接点も強化していかなければなりません。オムニチャネルというとITの話になると思っていますが、たとえばもっとコールセンターを強化するなどの話も、オムニチャネルの一つです。

ITコストが下がり、AI化が進んで、単純作業はITやAIに置き換えられて減っていきます。その代わりに、お客さまとコミュニケーションする時間が増え、接客が重要になってきます。

より顧客主体のビジネスが大事になっていきます。オムニチャネルという道具を使って顧客接点を作っていく中で、いかに継続的に利用してもらうのかが重視されると考えています。

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講演後にはD4DR代表 藤元健太郎がモデレーターを務め、二つの問いについて、Next Retail Labのフェローと議論を行いました。

「アメリカで起きているような店舗閉鎖について、日本において店舗は維持していけるだろうか」との問いに、逸見氏は「厳しい」との回答でした。働く人の減少により店が運営できない可能性が高くなるからです。拠点としての店を絞り込みながら、ネットやコールセンターのオーダーで商売を継続していくのは、来年どころではなく、今年からの課題だとの見解でした。

フェローからも、オーバーストアかつ同質化していて淘汰される、越境ECで日本の実店舗が打撃を受けるなどの指摘がありました。また、より具体的に、書店に関しては間違いなくさらに減っていくとの意見もありました。

続いて藤元から、このフォーラムでは具体的かつ前向きな提言などもやっていきたいとして、オムニ7はどうするべきなのかという問いを立てました。フェローからは、中央集権的な組織構造がもう少し緩くできたらよい、受け取った後のお客さまの行動を想定してサービスを考える、店頭受け取りをする店員のモチベーション管理を設計するなどのコメントがありました。逸見氏は、オムニ7は過渡期であることを指摘した上で、お店のオペレーションを簡単にするためにも、会員と支払いをnanacoで統合すべきとの改善策を挙げました。

第1回から活発な議論が交わされ、盛況かつ濃密な時間となりました。

(イノビート編集部)

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