コロナ禍で苦境のエンタメ業界が求められる変革(第十四回)


【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
連載一


アフターコロナ時代のビジネス戦略 -エンタメ①舞台・スポーツ-

新型コロナウイルス(COVID-19)が脅威となっているこの数カ月間で、リアルの集客に依存してきた業界は新たなビジネス形態の模索を余儀なくされている。足元ではイベント開催などの制限も徐々に緩和されつつあり、7月10日からは目安を定めた全4段階のうち「ステップ3」に移行して、大規模イベントも人数制限に従って開催が可能になると目されている。しかし夏の甲子園大会の中止や、カナダのサーカス劇団、シルク・ドゥ・ソレイユの破産申請といったニュースが連日報道されていることは、エンタメ業界も岐路に差し掛かっていることを物語っている。
ぴあ総研が5月末に発表したデータによると、2020年2月~5月の期間で中止・延期となった公演と試合の総数は約20万本、のべ1億人以上に影響が及び、損失額は3000億円をゆうに越える。
(参考URL:https://corporate.pia.jp/news/detail_covid-19_damage200529.html
従来のモデルが必ずしも盤石ではないという事実に直面した今、我々は、今後も未知のウイルスや未曾有の災害といった危機が襲うことを前提とした意思決定をしなければならなくなっている。
本記事では、アフターコロナ時代の劇場型エンターテインメントはどうあるべきか、これまでのデジタル施策の変遷を振り返りながら考察する。

これまでエンタメ業界が取ってきたデジタル化への対応

21世紀に入り情報化社会が進んだことで、もともとリアルで集客することを目的として発展してきたエンタメ関連ビジネスも、例に洩れずデジタル化への対応を迫られるようになった。
物販をECで行うイベントが増えたり、公演や試合を配信によって見られるサービスが登場したりするのはもちろんのこと、スポーツにおけるパブリックビューイング(以下PV)・観劇におけるライブビューイング(以下LV)という形態も一般化した。これにより、ファンは地理的条件などのハードルを下げた状態でリアルタイムにパフォーマンスを大勢で楽しむことができ、興行側は本来の会場の定員を超えて集客できるという、ライブと配信の中間にあたるサービスのマネタイズが実証されることとなった。
世界的なパンデミックという非常事態を通して、人々の心には「不特定多数が密集する場所へ出かけること」のリスクが強く植え付けられた。「不要不急」とされたエンタメに対する価値観が変化しつつあるこのタイミングにこそ、新たなビジネスチャンスが眠っていると言える。

劇場型エンタメが提供してきた体験価値とは

リアルタイムでの体験を前提とした場合、本来の会場に足を運ぶのと遠隔で見るのとで、観客あるいは興行主にとってのメリット・デメリットはなにか、考えられる要素を書き出してみた。

オフラインとオンラインのメリット・デメリット

アフターコロナ時代のエンタメ関連ビジネスを考えるにあたっては、上記のような価値をこれまでと違うどのような形で提供していくかが、新しい体験価値提供へとつながることになるだろう。
現時点では無観客の会場で行ったパフォーマンスを配信する形式が多く採用されているが、そこにもポテンシャルがあると証明されたことは僥倖だろう。例として、渋谷パルコが休業期間を経て営業を再開する前日に行った「ReOPEN前夜祭」では、YouTubeを通して約20万人もの人数にリーチして大きな宣伝効果を得た。また、話題となったサザンオールスターズの無観客ライブの視聴チケット購入者は約18万人、その売上額を試算したところ6億円以上にものぼるだけでなく、購入者の家族や友人を含め実際に視聴した人数は50万人とも推計されている。リアルに頼ることのできない状況が今後も起こることを想定して、また多様なニーズに応えるためにも、このような複数のチャネルを模索して確立していくフェーズに今こそ入っていかなければならない。
テクノロジーの進化によって解決できそうな点もいくつか見当たる。VRのデバイスがもっと手軽に入手したり体験できたりするようになって普及すれば、オンラインで視聴する際の視座が一通りである問題は解消されるであろうし、俳優や選手が遠隔で視聴している観客の反応をダイレクトに感じられるシステムも必要である。
余談だが、テクノロジーで改善できるのは観客の体験だけではない。選手の練習や試合での動きを解析して上達をサポートするスポーツテックにも様々なスタートアップなどが参入している。おそらく舞台稽古でも応用できるであろう。パフォーマンス向上に活かせる技術開発の動向も要注目である。

アフターコロナ時代のエンタメは、リアルとデジタルの二元論から脱却を

前述の通り、アフターコロナ時代には公演や試合を誰にどの手段で見せるかというサービス設計が鍵となる。まさに「現地に足を運びたい層」「配信で楽しみたい層」などの多様なニーズに応えていくフレキシビリティである。これまでリアルありきだったコト消費をデジタル上でもシームレスに体験できるように、リアルかバーチャルかといった二元論ではなく、全体最適の視点で捉える必要がある。
当然ながら、そのためのプラットフォームの整備も急務だ。例えば株式会社ネクステージは、小劇場のサブスク演劇動画配信サービス「観劇三昧」で新たにライブ配信サービスを開始すると発表した。劇団やスポーツチームの大きさに関わらずファンとの接点を継続的に持つことができるという意味でも、このようなサービスはより豊かな文化を形成する礎になると思われる。
そういったプラットフォームの別の役割として、音楽におけるSpotifyのように、視聴履歴やチケット購入履歴に基づいた「おすすめ」をたどって新しい出会いが気軽に体験できたとしたら、それも新たな価値となるだろう。そうして蓄積されるユーザーのデータも多方面へのビジネスに活かすことができる。
またプラットフォームに限らず、各劇団や興行主やスポーツチームにおいても観客とのエンゲージメントを強化しLTVを最大化することを意識した施策がますます重要になる。そういう意味でも、上記のようなデータは活用できる。エンタメに特化した情報銀行のようなビジネスもあってもよいかもしれない。

さらに、そのようなオンラインサービスの充実に伴って、不動産としての劇場、競技場、ライブ会場などの価値も再考の必要が出てくるだろう。固定された場所ではなく、コンテンツや発信の仕方によって広さや設備も柔軟に選択できたほうがよい。
また、演劇に関して言えば、舞台作品に付随する脚本や演出ノウハウといった資産を可視化し、定量的に評価できるシステムが導入できれば、それらを活かした新たなビジネスモデルも生まれるだろう。そうすることによって、従来のシステムでは埋もれかねなかった良質な舞台を積極的に保存することもできる。

舞台やスポーツといった分野でも、リアルに頼らないモデルの確立は「アフターデジタル時代」に向けてゆるやかに進みつつあったが、コロナ禍でプライオリティが一気に上がることとなった。レガシー的なシステムのスクラップ・アンド・ビルドは多数のプレイヤーが絡んで難しい部分もあるだろうが、まだまだ予断を許さないこの状況では、業界全体を巻き込んで変革を進める以外に選択肢はないのではないだろうか。


次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマはエンタメ②ゲーム、7/15(水)更新予定です。



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