建設業界の市場動向 - 激変する市場と未来を拓く企業戦略

建設業界は、インフラ老朽化への対応やカーボンニュートラルへの挑戦、デジタル技術の導入加速など、未曽有の変革期を迎えています。人手不足・コスト高騰といった課題が厳しさを増す一方で、社会インフラ更新や環境型建築への需要拡大が成長を後押ししており、都市再開発やリニューアル、再生可能エネルギー分野など新市場も広がっています。これからの建設業界は、挑戦と革新を続ける企業だけが、未来を切り拓く主役となると考えられます。

本記事では、建設業界市場レポートとして、建設業界のトレンド、主要企業の業績を押さえながら、今後の成長に向けた市場認識とイノベーションへの取り組みをまとめていますので、ご参考としてください。

建設業界の市場動向

国内の建設投資額は持続的成長を維持しつつ、新たな体制構築が急務

国内建設業界は2025年度見通しで75兆円を超え、ここ数年で65兆円~70兆円規模の高水準を維持し、安定した成長傾向にあります。
市場拡大を後押しする要因として、以下例などが挙げられます。

  • 公共インフラの老朽化対応
  • データセンター・物流施設といったデジタル関連の新規投資
  • インバウンド需要の回復
  • 自然災害対策の強化
  • 環境・脱炭素関連投資
  • 都市再開発・リニューアル など

民間住宅・非住宅・公共建築や土木工事が堅調で、短期的な景気変動リスクを抱えながらも、長期的には社会インフラ更新・脱炭素関連投資・自然災害対策などが持続的成長の下支えとなっています。

こうした成長の一方で、資材価格や人件費の高騰、熟練労働者の不足、人手確保や効率化・省人化をめぐる課題も顕著になってきています。企業は資材調達の多様化や物価スライド条項の活用等によるコスト対応、あるいは品質維持や生産性向上の新たな体制構築が急務となっています。

主要建設企業の実績

スーパーゼネコン5社は売上高で明暗が分かれる

2024年度のスーパーゼネコン(鹿島建設、大林組、大成建設、清水建設、竹中工務店)の連結売上高を見ると、3社が増収、2社が減収となっています。いずれも増益ではあるものの、営業利益率は前3社が5%代、後2社が3%代となり、業績に明暗が分かれる状況となりました。
鹿島建設、大林組、大成建設が業界のトップグループを形成し、長谷工コーポレーションはマンション事業で1兆円を突破。企業ごとの事業ポートフォリオや地域展開戦略に差が出始めており、建設だけでなく不動産や海外展開、再生可能エネルギー関連事業へと裾野を広げる動きも目立ちます。

また、人的資本効率の面では、鹿島建設、大林組が生産性を牽引。各社は生産性向上とともに、従業員への処遇改善、生産年齢人口の減少を背景にした少数精鋭体制の構築も課題となっています。

建設業界のバリューチェーンとデジタル技術の活用

バリューチェーンは急速にデジタル化が進展

建設業界の価値創出プロセス(バリューチェーン)は、企画・設計から調達・施工・維持管理に至るまで、急速にデジタル化が進展しています。

特にBIM/CIM(3Dデジタルモデルの統合活用)を軸に、AIによる設計・進捗管理、ドローンやレーザースキャナによる現場測量、建設ロボット・自律移動機械による現場自動化などが拡大しています。
これにより、施工精度や安全性、生産性の向上が進むほか、省人化ロボットやウェアラブルデバイスで労働環境の改善、安全強化への取り組みも加速しています。

バックオフィス面でも電子契約や資材調達プラットフォーム、マッチングサービスなどのDXが進んでおり、全体として効率化、環境対応、品質向上が進化しています。

▼バリューチェーンにおける施工から検査段階におけるデジタル技術活用(一例)

最新技術例内容・特徴背景にある業務課題
ウェアラブルデバイスバイタルセンサー等を内蔵したヘルメットやベスト。作業員の心拍数や体温、位置情報を常時把握し、安全を管理する。•夏場の熱中症リスク
•転倒・転落事故の発見の遅れ
•危険エリアへの意図しない侵入
3Dプリンター建設特殊なモルタル等を材料に、3Dデータに基づいてロボットアームで建築物を積層造形する技術。•型枠工事のコストと工期
•曲線など複雑なデザインの実現
•建設廃棄物の削減
CO2排出量の算定資材の製造から輸送、施工、解体までの各工程で排出されるCO2を算定・可視化するシステムやサービス。•企業の脱炭素経営(SDGs)への対応
•サプライチェーン全体での環境負荷把握
•環境性能のアピールによる企業価値向上
AIによる仕上げ検査カメラで撮影した画像から、AIが壁の傷や汚れ、部材のズレといった仕上げの不具合を自動で検出する。•検査員の目視による見落としや
判断基準のバラつき
•膨大な検査時間と人件費
•検査記録の作成の手間
デジタル竣工図書BIMモデルに施工履歴、使用部材、点検情報などを紐づけ、維持管理に活用できるデジタルデータとして納品する。•大量の紙図面の保管・検索の非効率性
•維持管理段階で必要な情報が不明・散逸
•修繕時の情報不足
廃棄物トレーサビリティ電子マニフェストやブロックチェーン技術を活用し、建設廃棄物がいつ、どこで、どのように処理されたかを追跡・管理する。•不法投棄のリスクと
企業のコンプライアンス違反
•リサイクル率の向上
•廃棄物処理状況の把握の煩雑さ
IoTセンサーによる
建物モニタリング
温度、湿度、CO2濃度、人感、振動等のセンサーを建物内に多数設置し、状態を常時データとして収集・遠隔監視する。•設備の異常や劣化の早期発見
•利用状況に応じた空調・照明の最適制御
•利用者の快適性・生産性の向上

主要建設企業の業績と市場認識

大手ゼネコン5社の業績動向

スーパーゼネコン5社の2024年度連結売上高は、鹿島建設2兆9,118億円、大林組2兆6,201億円、大成建設2兆1,542億円、清水建設1兆9,444億円、竹中工務店1兆6,001億円となり、鹿島建設・大林組・大成建設が一歩抜け出しています。
連結営業利益では鹿島建設1,519億円、大林組1,434億円、大成建設1,202億円が際立った収益力を発揮しており、いずれも営業利益率5%代を確保。一方で、清水建設・竹中工務店は営業利益率が3%代であり、収益構造の強化が喫緊の課題として挙げられます。

なお、マンション特化型の長谷工コーポレーションも売上高1兆円超を達成しており、営業利益率は7.2%とスーパーゼネコン5社を上回る収益率となっています。

建設業界における今後の注目市場

今後の注目分野は「社会インフラ老朽化対策」、「脱炭素」、「グローバル展開」の3つが共通キーワードとして挙げられます。

鹿島建設のCO2吸収コンクリート『CO2-SUICOM』、大林組のCO2固定化工法『スラグフリー耐火被覆』、大成建設の木質建築技術、竹中工務店の再生エネ投資といった先進的な環境技術の展開がみられます。

高速道路リニューアルや都市の再開発をはじめとするリニューアル領域、ZEB/ZEH(省エネビル)市場、再生可能エネルギー、宇宙・海洋開発など、建設業の枠を超えた新規事業分野への参入も注目すべき取り組みです。

イノベーションへの取り組み

スーパーゼネコン各社は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)や自動化・省人化技術の導入、新規事業開拓など、イノベーションへも積極的に取り組んでいます。

企業名2024年度前半期の注目の取り組み
鹿島建設•トンネル自動化施工システム「A4CSEL」をはじめとする自動化技術や、3Dモデル自動生成、遠隔建設ロボットの開発
大林組•発破パターンAIや施工シミュレータ、自律型コンクリート打設システムなど、人手不足対応と作業効率化の最先端技術を展開
大成建設•360度カメラとAIを融合した工事進捗確認システム、超低床自律搬送ロボット、生成AIによるGMP管理ツールといったAI・ロボティクスソリューションの強化
清水建設•3Dプリント建築や建機の自動施工システムの開発、球体ドローンによる点検など、施工分野への新技術採用
竹中工務店•BIM×Drone、量子コンピューター活用による建築計画最適化、建材サーキュラーエコノミー推進など新たな領域に活動範囲を拡大

加えて、宇宙居住施設や海洋開発等の壮大な新規事業開発、DX人材育成・組織改革、サプライチェーン全体を巻き込んだCO2削減や資源循環プロジェクトも加速し、業界全体が社会課題解決型企業へと進化しつつあることが窺えます。

本記事の続きは、詳細資料「建設業界市場レポート(2024年度版) ~主要企業の市場認識とイノベーションへの取り組み」をご覧ください。

資料は以下よりダウンロードいただけます。

建設業界市場レポート(2024年度版)

■ 建設業界市場全体の動向
・市場規模、推移
・売上、人的資本効率ランキング
・事業セグメント別売上高
・バリューチェーンにおけるデジタル技術の活用

■ 企業比較:業績と市場認識
・企業基本情報
・セグメント別売上
・市場認識(リスクと機会)
・注目市場

■ 企業比較:イノベーションへの取り組み
・新規事業
・DXへの取組み
・先進技術の活用事例

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Mikio Aaskawa

マーケティングエージェンシーや制作会社にて各種リサーチ・分析業務を経験した後、2009年よりD4DRのシニアアナリストとして、データドリブンのマーケティング支援に従事。現在はプリンシパルとなりプロジェクトリーダー兼アナリストとして、顧客視点で企業のマーケティング戦略立案や課題抽出、アクションプラン立案を支援している。

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