【FPRC鼎談】ニューノーマル時代の「本質を問う力」(中編)


本シリーズでは、ニューノーマル時代に重要となる「問題設定力」を、FPRC研究員による議論をもとに考察する。前編では、「自身の働き方」の変化を前提に、場所にとらわれずパフォーマンスを発揮する/してもらうために業務の根本的な見直しや本質的にどのような仕事を行うべきかを見定めることが必要ではないか、と述べた。

「問題設定力」について中編の本記事で取り扱う観点は「社外に向けて果たすべき役割」である。前編で触れた働き方にとらわれずにパフォーマンスを追求することの重要性に続いて、顧客に対してどのような価値を提供するかも、近年の社会情勢の変化の中で見極めなければならない問題の一つである。そしてその価値の提供にどのように寄与するかという問題が、後編の「知的労働者の役割」につながる。

選ばれるための強みは「選ばなくていい」こと

突然だが、餃子への支出金額日本一、と聞いてどの町を思い浮かべるだろうか。総務省の家計調査によると、緊急事態宣言の期間を含む2020年1~6月のデータでは、宇都宮市でも浜松市でもなく宮崎市が1位となったのだ。

画像引用元:https://note.com/ch1cala/n/nd1135926ffc0

なお、総務省の家計調査において「ぎょうざ」への支出には、外食あるいは飲食店の提供するテイクアウトでの消費や冷凍食品のぎょうざが含まれていない。つまり、スーパーやコンビニ、テイクアウト専門店で「生あるいは調理済みのぎょうざ」を購入した金額によるランキングとなる。

以上より、宮崎市の特徴は、同じく餃子消費量の多い町として有名な宇都宮市や浜松市に比べて、外食よりも「家で食べる餃子」の消費量が多いことにあり、それがコロナ禍でより顕著にランキングに表れたのである。

そして、宮崎市民に惣菜としての餃子を定着させた立役者として、餃子テイクアウト専門店「ぎょうざのまるおか」の存在が挙げられる。家での食事を選択する際に、他にも選択肢があるにもかかわらず「今日は手軽な餃子にしよう」と思わせる、いわばマクドナルドのような安定感のある立ち位置は、今回のような非常時には特に強力な武器となる。

坂野:

ブランドへの期待というよりは、既に分かっている安心感から「これでもいいか」という動機かもしれないが、そのボリュームが大きいことが今の消費の特徴。

藤元:

情報洪水の影響もあり、例えばUberEATSでいろんな商品が並んでいても、デジタルで美味しさを訴求することには限界がある。その中で、味もコスパも分かっている商品しか「選ばなくていい」ことが強みなのだと思う。

早川:

ステイホームが定着して、家族が家にいる状況で、毎日料理を作るのは無理がある。「週末のランチくらいマクドナルドでいいか」の心理なのだろう。

Photo by Yusuf Evli on Unsplash

顧客への価値提供を考える上での参考事例として、亀戸にある弁当店「キッチンDIVE」の戦略も示唆に富んでいる。
2018年からの取り組みとして、店内をライブカメラで撮影・配信し、在庫状況などがリアルタイムで確認できるようになった。また、他のSNSも活用して、近隣だけでなく遠方にもリーチを増やし、「在庫があるなら買いに行こう」と行動させることに成功しているのである。同時に、万引き防止や売上の透明化にも寄与している。

坂野:

情報の非対称性がここ数年メディアによって解消されつつあったところにコロナ禍があり、新しい情報の非対称性が起こっていると感じる。

藤元:

このようにライブカメラを設置するだけのDX施策であれば、個人営業のお店にもすぐできる。カメラにAIなどを内蔵すればもっといろんな情報が分かるようになるし、これからのビジネスチャンスのヒントになっている。トイレットペーパーやマスクの品切れの件も、「今どこで買えるか」という情報がすぐに手に入らなかったために起こったことを考えると、こうしたトレーサビリティの重要性がよく分かる。

これらの例からも、ニューノーマル時代に向けて「確実に手軽で味がわかっている」「確実に在庫がある」などの価値を確立する必要が増していることが分かる。

ニューノーマル時代の消費傾向はどのように変化するか

FPRCでは、プレ・コロナからウィズ・コロナを経て、今後どのように消費傾向が変化するかの仮説を、欲求の各段階をもとに以下のように立てた。

生活者意識の変化仮説

プレ・コロナでは、SNSの発達に伴って、自己顕示や社会承認・自己実現といった高次の欲求を意識する生活者が増え、それを満たすサービスに注目が集まることが多かった。
そこへ未知のウイルス感染症が流行したことにより、2020年はそのほとんどを安心・安全といったより低次な欲求を意識して過ごすこととなった。

それでは、2021年以降のポスト・コロナ、すなわちニューノーマル時代にはどうなるのか。
2020年11月現在、GoToキャンペーンなどの後押しもあり、コロナ禍では「不要不急」とされた情愛・情緒に対する欲求もある程度復活しつつある。ウイルスへの対策がある程度分かってきた以上、その対策つまり安心安全への欲求は残りつつも、情緒充足の欲求は引き続き回復が見込める。

藤元:

消費の方向が変わっている。自分のための消費が減って、誰かのための消費が増えていくと思われる。例えば自分の食欲を満たすだけでなく、飲食店や農家を助けることを考えて消費するなど、応援経済に代表されるように、欲の概念が変わっている。

普遍的な価値を創出するための「問題設定力」

ニューノーマル時代の消費の傾向をつかみ、本質的な価値を提供するにも、本シリーズのテーマである問題設定力が鍵となる。

早川:

例えば林業では「作業を合理化するためには高性能の機械が必要だから、それが通れる道を作ろう」というセオリーがあるが、そもそも10年に一度しか使わない道を作らなくても作業できるソリューションが必要なのではないか。大型機械のためだけの林道整備事業にお金を投じるよりも、本質的なR&Dに投資したほうがいい。

藤元:

当たり前、常識と思われていても発想を変えればよい。観光業では泊食分離が注目されている。旅館から食事を切り離すことで、周辺のお店に行くなどの選択肢が一気に広がる。旅館を定義し直すように、そもそも必要なのかを考え直さないといけない業界がたくさんある。

業界を問わず、既に確立されているセオリーでも、まず前提を疑い、真に解決しなければならない問題を見つけ出す。その思考が、新しい価値創出への第一歩となるのであろう。

早川:

フードコートで、ブザー形式をなくしてサーブ式にするとテーブルの回転率が劇的に改善したという話もある。目先のウェイターの人件費を削るのではなく、むしろフルサービス型にすることが真の売上向上策だったということ。なお、洗い物もセンター化している。

藤元:

キッチンの話では、各家庭でも必須かどうか問い直すべきかもしれない。地域のセントラルキッチンができて各家庭からはなくなり、なおかつ料理をする場だけでなくコミュニティになる可能性もある。そのように常識を覆す問題設定ができれば、イノベーションにつながるはずだ。

サービスが顧客の問題を解決することであるならば、その問題の本質を見定めることで、ビジネスチャンスが発掘される。昨今の様々な要因によって急激に変化する社会の価値観の中で、何が求められるかを考える上でも「問題設定力」は必須と言え、またそれを解決するために自分に何ができるかを、続く後編で述べる知的労働者の役割と合わせて考えなければならない。


【FPRC鼎談】ニューノーマル時代の「本質を問う力」(後編)は、11月下旬に公開予定です。

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