【イベント報告】「どうなる日本のMaaS―都市イノベーションの観点から考える―」


2021年5月18日、 D4DR社のシンクタンク Future Perspective Research Center(FPRC)主催のオンラインイベントを開催した。 ゲストには『MaaSが都市を変える』著者の牧村和彦氏を迎え 、 「どうなる日本のMaaS―都市イノベーションの観点から考える―」をテーマに議論を行った。本記事では、その内容を抜粋して報告する。

自動車会社は4つのビジネスモデルを並行して進める時代

まずは藤元から、都市における移動を考える上で象徴的な事例として トヨタが静岡県裾野市に建設中の「Woven City」の取り組みを紹介し(「なぜ今、トヨタが「街」を創るのか、あらためて考える」Newsweek) 、自動車会社は以下の4つのビジネスモデルを並行して進める必要があるという問題提起を行った。

  1. 自動車を買ってもらう
    →T型フォードからのモデル
  2. 自動車をリースやレンタル、シェアしてもらう
    →金融ビジネスでもある
  3. 移動に支払うコストの何割かを提供してもらう
    →MaaS(定額移動の時代)
  4. 移動を伴う新しいサービスの提供可能性を探る
    →移動することの付加価値を提供するため、顧客とつながることができるのか

また、MaaSを進める鍵となるデータについて、ソウル市の事例を紹介した。(詳しくは、JIPDEC主催によるスマートシティ研究会のレポート「デジタルツインとスマートシティ」へ)

MaaSが都市を変える

次に、牧村氏のプレゼンテーションでは、コロナ禍のMaaS戦略のポイントや、持続可能な新モビリティ社会の実現に必要なポイントについて、お話いただいた。ここでは、一部内容を紹介する。

牧村氏著書『MaaSが都市を変える

コロナ禍のMaaS戦略

コロナ禍では、各国でマイカー、自転車、公共交通のバランスに配慮した、安心・安全な移動を支援するDXが加速しているという。事例として、公共交通の定額料金を下げることで利用者数を回復した台湾の「高雄MaaS」や、市長がいち早く「ストリートスペース・プラン」を発表し、24時間バス専用レーンを設置したロンドンの事例が紹介された。

高雄市の通勤通学最大50%オフの告知(高雄市政府交通局

持続可能な新モビリティ社会の実現に必要なポイント

また、MaaSのトライアルが進む中で見えてきた、持続可能なMaaSの実現のための以下の6つのポイントについてもお話いただいた。

  • 地域のビジョンを共有:今後のスマートシティとの関係に留意
  • 人財の育成(行政、民間それぞれに):持続可能な地域のプラットフォームづくり
  • 地域主導による普及:「モビリティ・マネジメント」×「地産地消(データ、技術、エネルギー他)」
  • 長期間の実証の繰り返し:社会受容性の醸成
  • データ活用と共有(EBPMによる都市経営へ):官民連携
  • リアルな空間の価値を向上:グリーン成長戦略と連動

都市・建築の視点から見たMaaS

FPRC上席研究員 早川のプレゼンテーションでは、都市計画やオープンデータの観点から日本のMaaSについて考察した。

ウォーカブルな都市空間へ

現在の都市計画の流れは、歩行者中心の街づくりへと変わってきているという。国交省の都市再生方針も「ウォーカブルなまちなか」の形成を掲げ、歩行者利便増進道路(ほこみち)制度も実施されている。自治体レベルの都市計画にも反映され、大阪市の御堂筋ビジョンは、段階的に車道を減らし歩行者専用道路に変更することを目指している。

「御堂筋将来ビジョン」より(大阪市

神戸市の三宮駅でも、高架下のリニューアルでウォーカブルな空間が設けられ、テラス席の設置など積極的に利用されている。 MaaSの大きな流れの中で、都市空間における徒歩が見直されているという。

MaaSを活用するためのオープンデータ

自治体でのMaaS実証時に、地域での観光などの際に目的地となるデータベースを構築し、オープン化した事例を題材に、オープンデータについても話題が及んだ。目的地データベースは、住所や営業時間といった情報をデジタル上に整備し、観光系のウェブや自治体のウェブと連携することを想定している。 VRなどで街の3Dデータをインターネットベースで閲覧できるデジタルツイン技術が使えるようになれば、都市や建物のデータと連動することも考えられる。

ディスカッション

ディスカッションでは、①MaaS事業の都市タイプ別展開、②自動運転で街はどう変わるか、③日本でMaaSを普及させるためにはどうすればよいか、の3つのテーマについて議論した。

①MaaS事業の都市タイプ別(都市、観光地、地方)展開 

藤元:

都市や観光地、観光地以外の地方など、都市タイプによって移動の効率化のニーズは異なると思いますが、牧村先生はどうお考えですか。

牧村氏:

地方では、MaaSの実現の前にまずは交通の足を確保することが必要です。そこでは、タクシーがバス化して、バスがタクシーのようになるというような既存の手段を跨ぐ発想が重要になってきます。ドライバーが減っていく中、大型二種免許が必要なバスは地方都市での持続性に課題がありますが、普通二種免許で運行できるタクシーが、バスのように需要に合わせて時刻表に沿って走るサービスには可能性があると思っています。

また、地方都市では免許返納後の交通手段の確保も課題ですよね。ずっと車を運転していた人に、「免許を返納したからこれからは新しいモビリティサービスを使ってください」と言っても難しいので、50代くらいから練習して慣れていく必要があると思います。

②自動運転で街はどう変わるか

藤元:

レベル3,4の自動運転の実現に向けて開発が進む一方で、日本で現実的に実用化されるのは、時速20km以下で走行する電動の低速自動運転車ではないかと思っています。すでに実証が始まっていて、人にぶつかっても死傷しないのでリスクが低く、自動車メーカー以外の企業も参入しやすい点が特徴です。低速自動運転車について、どのようにお考えですか。

牧村氏:

低速自動運転は、固定ルートであればハードルは低く、すぐに導入できるポテンシャルがあると期待しています。スイスのシオンという街では、自動運転バスが4年ほど前から毎日走っていますが、ポイントはエリア全体を時速20~30km規制に変更していることです。乗用車との速度差が自動運転との共存のハードルになっているためです。

藤元:

免許返納後の移動手段の確保の課題にも、低速自動運転車が街中を走っていることによって対応できる可能性があると思います。

③日本でMaaSを普及させるためにはどうすればよいか

牧村氏:

日本では、実験ではなく実サービスがすでにたくさん始まっていて、カバー人口で計算するとかなりの数になります。移動サービスだけでなく、目的地と重ねがけでサービスを提供していることが特徴です。そして、私自身いろいろな事業に携わる中で、これまではライバルだと言われていたような企業が協調して一緒にサービスを提供するという、奇跡的なことが起きていることを感じています。世界的に見ても、自動車会社と交通事業者が組んでいるのは日本だけではないでしょうか。MaaSの価値観やその先を見ることで協力関係が結ばれ、議論を通して全く違う価値観が生まれることはこれまではあまりなかったと思うので、重要なことだと思っています。

そして、モビリティはどんどん進化していくので、あえて完成させないという世界観で進めていくほうがいいということも感じます。ヘルシンキでは、モビリティ関連の団体を選定して、実証実験をサポートする仕組みがあります。実証を3~5年にわたって続けることで、住んでいる人は新しい技術を勉強・体感できます。モビリティはどのような進化していくかわからない。自動運転車が地上を走るより先に、空を飛ぶかもしれません。だから、ずっと実証を続けていくという普及の仕方もあると思っています。


本イベントでは、日本のMaaSの今後の展開について、データ活用や都市空間の変容、また地域に着目したビジョン共有や中長期的な社会受容性の醸成といった視点からも考察することができた。

今後も、FPRCでは多様な業界のイノベーションの動きをウォッチし、イベント等を通して引き続き発信を続けていきたい。