デジタルデータを支えるアナログな職人技 / 永山 淑子 社長(コマースリンク株式会社)

事業戦略コンサルティングからO2O/オムニチャネル戦略、行動情報マーケティングやソーシャルメディアの分析など、D4DRでお手伝いをさせていただいているプロジェクトは幅広く、クライアント様・パートナー様も業界も多岐にわたります。

お付き合いいただいている多様な業界のクライアント様やパートナー様に、業界の知られざる舞台裏やD4DRとのプロジェクトを語っていただく対談連載をスタートします。

第1回となる今回は、コマースリンク株式会社の永山淑子社長です。買い物好きが昂じて会社まで立ち上げた永山さんに、商品データにまつわる裏話などを伺いました。

インターネットの黎明期からECに関わり続けて

藤元:最初に、コマースリンクという会社の説明と、永山さん自身のここまでの経歴をお話しいただけますでしょうか。

永山:コマースリンクは2003年7月に設立しました。ショッピングサーチという商品検索サービスで始まった会社で、現在もメインのサービスになっています。インターネット上にあるECサイトから集めてきた商品データを、ショッピングサーチ用に成形してデータベースに入れて、検索できるようにしています。ECサイトごとにばらばらの画像やデータを、私どものシステムが揃えています。

2008年9月にはデータフィード最適化サービス「DFO(Data Feed Optimization)」の販売を開始しました。カカクコムその他の商品検索サービスやアフィリエイトサービスを提供している人たちから、整った商品データが欲しいというニーズがあったので、私たちのデータ成形技術を使って商品データを提供したのが、DFOというサービスの前身です。なので、DFOはショッピングサーチのノウハウがぎっしり詰まったサービスなのです。

2015年11月からは、「monococo(モノココ)」というO2Oサービスを始めました。現在ご案内できるお店の数が4000店舗、ブランド数では140あります。エリアは、首都圏・関西・東海・北海道・九州をカバーしました。2017年度中に全国対応する予定です。

私自身は理学部化学科を出て、富士通研究所の材料分析課に入りました。毎日データを取って、データ解析をして報告書を書いてという仕事をやっていましたが、出産などがあって、いったん退職しています。再雇用制度で戻ったときにはパートタイマーで、当時の上司が正社員に戻してくれて、ステップアップできました。富士通グループの中でパートタイムから役員までやった人はいないと思います(笑)。最終的には、ニフティのEコマース部にいました。

インターネットの黎明期からECに関わり続けています。インターネットを初めて見たときに、世の中のものを全部探せるのはすごいと思ったのがベースにあります。すでにアメリカにあったDealtime(現 shopping.com)という横断的な商品検索サービスを導入しようと準備していましたが、あっという間に日本から撤退してしまいました。そこで、富士通のデータベース部門の人たちと一緒に作ったのが、ショッピングサーチです。

初代のショッピングサーチを作ったのが2002年10月です。その2カ月後の2002年12月に、GoogleがFroogleという今のGoogleショッピングの元となる商品検索サービスを出しました。ほとんど同じ機能だったので愕然とした反面、Googleも同じことをやるんだとほっとしたという、複雑な思いがありました。せっかくGoogleも目を付けているようなことなので、なんとか大きくしたいと思い、先代の社長と私で当時のニフティの社長にショッピングサーチで独立したい、ついてはお金も出してくださいとお願いしてコマースリンクを立ち上げて独立し、今に至ります。

データ化されていない商品

ずっとコンピューターの会社にいたので、情報の取り扱いに関しては、かなり長けています。私は超お買い物好きで、自分が興味ある商品は徹底的に調べるほうです。世の中で買えるものはすべて知っておきたい。商品の情報を事前に知り抜いていると、店頭スタッフとの会話も楽しめ、押し売りされることなくいい買い物ができます。商品情報を得やすい場を作りたいというのが、私の思いです。

藤元:インターネットでは遠い海外の情報はいくらでも手に入るけど、近所のスーパーで何を売っているのか分からない状況が長く続いていたのが、データがどんどん流通するようになって、変わってきたのかなと思います。

永山:データは、いまだに流通できるようなかたちになっていないものも多いのです。リアルのお店は、商品を置いておけば見えるし、においもするし、触感もあるので、そのことをデータに置き換える必要がありません。百貨店などでも、データ化されていません。情報化社会になっているにもかかわらず、店にさえ来てくれたら物があるからという売り方がずっとされていて、商品そのものはデータ化されていない状態なのです。事前に消費者が物の情報を知りたいと言ってもすごく知りにくい状態がずっと続いてきて、それではいけないという状況になって、やっとなんとかしなければならないとなっているのが、今だと思っています。

Googleの功罪

藤元:データ流通が遅れた理由の一つに、Googleの存在があると思います。XMLみたいなもので業界ごとに標準化して流通していこうという流れがありましたが、非構造化データで全部集めて、後でマシンパワーでやる。Googleの圧倒的な存在感とコンピューティングパワーの前に、どうせGoogleがやってくれるよという意識が生まれてしまいました。


もちろん、ユーザーからするとGoogleによって便利になったとは思います。一方で、個人的には、職人的にデータを成形するところがおろそかになった気がしているのですが、いかがでしょうか。

永山:私の感覚だと、Googleでとにかく探せるようになった、それで十分。Googleは圧倒的なパワーでやってきて、太刀打ちできない。彼らは何でも無料で提供してしまうので、お金を取ってビジネスをしていた人たちを市場から追い出してしまいます。だから、そこで戦ってもしょうがない。そういう意味では、あきらめ感はあると思います。

藤元:そんなGoogleでも、個別データが増えていく中で、外部からもいいデータを探すことはやっていて、御社ともおつきあいがあるそうですが。

永山:実は、Googleとのつきあいは古いのです。富士通時代から検索を通じてずっとGoogleとやりとりしていた経験があって、Googleが検索サイトではないところに検索連動型広告を日本で初めて出したのが、ショッピングサーチだったのです。コマースリンクを設立したときには、当時のGoogle Japanからお花が届きました。

デジタルデータのアナログな職人技

Googleショッピングのデータ仕様は、すごく複雑です。当社でもショッピングサーチをやっているので理解できるのですが、自分たちの思うようにきれいに成形して、レーティングして、ランキングしてデータを出そうと思ったら、それなりの品質のデータがないと、実現し得ません。非常に細やかな手作業が必要になってきます。

海外にもGoogleショッピングのためのデータを作る事業者はたくさんいます。ということは、Googleも、Googleショッピングのデータは、彼らだけでは難しいと考えているのだと思います。

藤元:そうしたデータ成形の職人技が、Googleショッピングなどの利便性を支え、日本の検索やデータ流通を支えているのですね。

永山:黒子ですね。集めてきたデータにはいろいろな情報が入っています。会社によって特性があって、Googleは純粋な商品名だけを付けます。商品名に「送料無料」「いま売り出し」とは書いてはいけないのです。それらの言葉をきちんと切り落として、Googleのレギュレーションに合う形に加工して出します。逆に媒体によっては「送料無料」は入れたほうがいいと言われるので、付け足します。それぞれのサイトのレギュレーションや、どういうふうに打ち出したいかに合わせて個々に対応しています。

もっと細かいことを言うと、カテゴリーマッピングは全部手作業で紐付けするのです。たとえばスニーカーは、ファッションだったら〔ファッション>靴〕なのですが、スポーツ用品だったら〔スポーツ>ランニングシューズ>レーサー用〕となるなど、同じ靴を表す体系が違います。それをすべて手作業で紐付けています。

初期にカテゴリーを紐付けして設定しても、時間がたって商品が入れ替わってくると紐付けられて漏れてくる商品が増えてきます。ですから弊社では、また手作業で全部チェックして紐付け直す。細やかな、地味な仕事をやっています。

ハッピー+ハッピーで積み上げ

私どもはショッピングサーチをきちっと回すためにデータを取り扱ってきました。十数年間、毎日の積み重ねがあります。リターゲティング広告が出てきて、そこに商品データが必要になった頃から、データフィード会社が出てきましたが、彼らはCriteoのためにデータを作って納品して終わりなので、私たちのように媒体を持っていて、それをよくしたいというのとは、モチベーションが違います。

ショッピングサーチで成果が出ることで、お客さまの成果も上がり、私どもも売上が上がる構造ですので、データをきちっと磨き上げることで、私どものお客さまのネットショップさんもハッピーだし、私どももハッピー。その関係でずっと積み上げてきた技術です。

むかし雑誌、いまスマホ

藤元:リアルな世界のショッピングでも、お店の在庫がデータで分かればもっと便利なのに、それがない。ECサイトに行って、見てみないと分からない状態がある。それがまとめて見られるのが、モノココです。モノココの生まれた背景を教えてください。

永山:やはり、スマホが普及してきたのが大きいです。私の娘を見ていると、買い物に行く前に、すごくスマホを見ています。一緒に行くと店に入っていってすぐに「これ、これ」。なんでというと、「スマホで見ていたもの」。かつて私たちがファッション誌を見て、欲しい商品がどこのお店にあるかと巻末を見てから買いに行っていたのが、今はスマホで見ています。

今までPCの前でしか見られなかったのが、スマホによってどこでも見られるとなると、お出かけ先で情報を取る価値が出てきます。もともと私は、ネットショップとリアルでの買い物は区別していません。全体の1割でしかないECだけでは、買い物は語れません。

ある時に藤元さんが、「在庫情報をクロールして検索できるようなことをやると面白いのにな」とつぶやかれたのを私はつい拾ってしまいまして、ああ、私だけじゃないんだなと思って作ったのが、モノココです。

藤元:在庫データも、いろいろなECサイトがばらばらに出しています。それをクロールして集めて整えることが必要です。そこにコマースリンクの職人技が生きました。

人は分かってもコンピューターは理解できない

永山:ショッピングサーチは、毎日4000万商品のデータを収集して載せたり入れ替えたりしています。モノココは、商品数は約6万しかないのですが、商品の在庫データは、商品数×SKU(Stock Keeping Unit)×店舗数という掛け算で膨大なものになって、ものすごく苦労しています。お店が全国に1000店舗ぐらいあるようなサイトだと、データが取りきれません。データを取る頻度を上げると、負荷がかかって相手のサーバーを倒してしまうので、相手のサーバーの邪魔をしないように遠慮しながらやっています。

もう一つ大変なのが、所在地や店舗名の記載の仕方です。意外とめちゃくちゃなのです。「○○有楽町店」「有楽町○○」など、同じサイトの中でもばらばらの表記をしていて、クローラーで集めてきたコンピューターは、そこで考え込んでしまいます。現在は全部人力で修正しています。

また、たとえばあるブランドの「東京店」があります。ユーザーからすると、東京店と言っても、どこにあるかさっぱり分からないじゃないですか(笑)。建物の名前が入っていないとユーザーは行けないから、丸ビルに入っているなら「丸ビル店」にしてほしい。そこでその表記に建物名の「丸ビル」という言葉を追加しています。

人は分かってもコンピューターが理解できないことが山のようにあって、そこにすごく苦労しています。

藤元:そういうのは、人工知能やディープラーニングで学習できるのでしょうか。

永山:もしディープラーニングで学習させようとすると、コンピューターはまだ頭が悪くて、1件や2件では覚えてくれないのです。人手でやるほうが早い。もうちょっと少ないサンプルで学習してくれるようになれば別ですが、今はまだ精度が全然上がらないです。

地図に、ピン

藤元:永山さんが目指しているモノココの理想的な姿を聞かせてください。

永山:いちばんユーザーからのニーズが高いのは、たとえば「ニューバランスの996の紺色の23.5cmが欲しい」という探し方です。人気の色やサイズほど、在庫があるお店の情報は重要です。どこのお店にあっても分かるようにしたい。

また、春に着るトレンチコートが欲しいといったときに、どのブランドのトレンチコートで、この型のこれが絶対欲しいという場合もあれば、手持ちの黒いタートルネックに合ってすっきりしていればブランドはどこでもよい場合もあります。型番でも属性でも、両方の探し方に対応したい。

いずれも、見つけた物が地図上にピンが立って分かる機能を、今年中に実現させたいと考えています。

もう一つはその裏で、お客さまの位置情報も把握した上でのジオフェンス的なサービスも組み込みたいのですが、来店検知などがすごく難しいので、焦らずにやろうと思っています。

藤元:技術的にはできそうでも、データがきちんと整っていないからできていないのが、O2Oの世界。それに対して地道に取り組んでいるのが、コマースリンクのすごいところです。

永山:日本は、一商品に対するアイテム、カテゴリーなどが世界でいちばん多いのではないでしょうか。Googleは自動化してシステムで回す会社ですが、日本のECは人手をかまさないと絶対にうまく回りません。

俯瞰して支える

藤元:D4DRでは、モノココのプランニングのお手伝いをさせていただきました。我々のようなブレーン的な会社が、永山さんみたいな人にとって、どんな価値があるのでしょうか。

永山:職人技で仕事をしていると、視野が狭くなってしまうのです。そういうときに、D4DRからこういう人たちもいますよ、こういう考え方もありますよと言っていただくことで、頭が柔らかくなります。広く俯瞰的に見るのと、ぐっと細かく見るのと、両方の目が必要なので、広く見るほうを支えていただいています。

藤元:経営的な話がメインですが、もともとはモノココの立ち上げからミーティングでずっと議論しながらやってきています。後は制作会社から上がってきたUIやUXを客観的に指摘しています。

我々のクライアントの中でも、トップと直接ディスカッションしながら進めていけるプロジェクトは非常にやりやすいし、何よりもコンセプトが共鳴できるO2Oのサービスなので、こういうビジネスは我々にとっても、やっていて楽しい。世の中にぜひ広めていきたいし、職人的なところはもっと知ってもらいたいと思っています。

永山:とにかく買い物が楽しいんですよね。朝市や道の駅がとても好きです。おいしいもの、ファッション、家具、最近は陶器や食器もよく見ています。

商売的観点から言うと、Amazonとカカクコムと勝負してもしょうがないと思っているところがあります。がちがちスペックを見て値段を比較して買う買い物は楽しくない(笑)。

藤元:買う気になっているものはAmazonやGoogleで検索すればいいですが、ウィンドーショッピングをする感覚が、ネットの世界にももう少し欲しいですよね。永山さんのように買い物の楽しさまで考えている経営者は、なかなかいない。まして女性経営者ですから、いつもコマースリンクは貴重な存在だと思っています。

ぜひパートナーとしても今後ともどうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

(イノビート編集部)

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今後も多様な業界の経営者やプロフェッショナルをお招きして、知られざる舞台裏を語っていただく予定です。どうぞご期待ください!

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D4DRの広報PR担当です。webやソーシャルメディアを通じて、ITビジネス、デジタルマーケティング、各種データ分析、CRM、ソーシャルメディア分析などの消費者インサイト発見に関する情報を発信しています。

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