カリフォルニア州サンノゼにおける、Googleのスマートシティ計画”Downtown West”とは?

2021年5月25日(米国時間)米Google社は、米国カリフォルニア州サンノゼに巨大なキャンバス”Downtown West”を建設する計画を発表した。サンノゼはシリコンバレーの文化的中心地であり、オープンイノベーション拠点となっている。本記事では、スマートシティの現在を踏まえた上で、当事例について紹介する。

スマートシティの現在地

近年AIやIoT、5Gなどの情報技術を活用した、新しい街の在り方が検討されている。上図にあるようにスペイン・バルセロナや、中国・杭州市の都市政策の事例、他にも、エストニアやシンガポール、ドバイでもスマートシティ化の検討や実装が進んでいる。

「スーパーシティ」構想について 内閣府地⽅創⽣推進事務局 令和3年8⽉

スマートシティ化においては、産学官民すべてを巻き込んだ都市づくりが重要だ。ビッグデータを活用した街づくりということでシステム開発はもちろん、物流や交通関係の企業、政府、自治体、NPOなどとの連携が模索される。実際、日本政府は「スマートシティ官民連携プラットフォーム」の取り組みを発足しており、次のように位置付けている。

スマートシティは、先進的技術の活用により、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図るとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する取組であり、Society 5.0の先行的な実現の場といえます。

課題先進国である日本では、急速な高齢化、多発する都市型災害など世界各国の多くの都市がいずれ直面する都市課題に先んじて直面しております。

我が国の有する高い技術力・研究開発力を活かし、各種都市問題に対するソリューションを提示するとともに、新たな価値を創造し、世界に向けてスマートシティモデルを分かりやすく提示することが重要です。

スマートシティ官民連携プラットフォームHP

カナダ・トロントの事例

こうした世界的な都市開発の動きの中で、2017年、Googleの親会社Alphabetの傘下企業のSidewalk Labsは、カナダのトロント市のフォーターフロント地区の再開発プロジェクトを掲げ、世界に衝撃を与えた。IT企業による街づくりであることに加えて、Sidewalk Labsがデータや技術を活用した革新的な案や街のグランドデザインを提案したため、この計画は大きな注目を浴びていた。
しかし、2020年5月7日Sidewalk Labsはトロントでの計画の撤退を発表。理由はコロナ禍での計画の難航とされているが、トロント住民の同意が得られず住民データの収集が困難となったことや、都市計画の採算を取ることが困難となったことなども挙げられている。

Alphabetにとっては失敗となってしまったスマートシティ計画だが、前述のとおり、Google社は新たにサンノゼでのスマートシティ計画を進めており、本計画の理念は消えていない。ここからは、本記事のトピックであるこの”Downtown West”計画についてまとめていく。

Google・サンノゼのスマートシティ計画

概要

2021年5月25日(米国時間)米Google社は、サンノゼに巨大なキャンバス”Downtown West”を建設する計画を発表した。

同社は約79エーカーのサンノゼの土地で、単なる企業キャンバスではなく、オフィス、住宅、公園、商業スペースなどを備えた複合施設を計画。例えば、上の画像にあるのは、”Gateway”と呼ばれるスペースで、イベント用の広場やコミュニティ活動に利用可能な円形の劇場が計画されている。
他にも”Creekside Walk”と呼ばれる散歩に最適な歩道が整備されたり、”Meander”と呼ばれるイベントや上映会等のパフォーマンスを行うための芝生の広場、車が入れないエリアも計画されており、SidewalkLab.でもみられた「人間中心のまちづくり」の哲学は引き継がれている。

コンセプトとして、サンノゼの文化/環境のルーツに基づき、かつサンノゼ市の多様なアイデンティティと革新的な精神を生かした、連動的なハブを目指すとしている。

6 goals

同社はこの開発において具体的に以下の6つの目標を掲げている。

  1. 現地での雇用。5700以上の一般賃金での建設作業での雇用を生み、地元の人々の雇用をターゲットとする。
  2. 手ごろな価格の住宅を多く新設。4000戸建設し、25%分手ごろな価格で提供する。
  3. コミュニティ強化。1億5千万ドル以上投じて、地域社会安定化・機会創出のための基金を設立する。
  4. 開放的なスペース。年間を通じ無料のイベントを提供する公園やオープンスペースを設置する。
  5. 気候目標の達成。65%の二酸化炭素排出量の少ない移動(徒歩、自転車、公共交通機関)を実現する。
  6. 生態系の確保。4.25エーカー以上の水辺の生息地を保全し、2,280本の木を新たに植樹する。

Four guiding principles

また、住民にとって素晴らしい場とするために4つの指針を掲げ、次のように示している。

  1. コミュニティ:場所とは、人々であり、また人と人とのつながりについてだ。  私たちは、幸福、包摂、相互接続を促進する活気のある場所に貢献したいと考えている。
  2. 革新:私たちは不可能を無視することを目指している。適応性と柔軟性を考慮して設計を行う。
  3. 自然:人々の幸福は地球の環境状態によって決まる。私たちは、復元性と循環性のある空間と場を構築し、人々を自然と結びつけ、資源の節約と廃棄物の削減を支援することを目指す。
  4. 経済:私たちは、より良い未来のために再現可能なソリューションを生み出す大胆なアイデアに投資する。私たちのデザインは、まだそこにない何かを世界に還元したいと考えている。

Design Standards and Guidelines

同社は、計画の概要である、 473ページにも及ぶガイドライン”Design Standards and Guidelines”をインターネット上に公開している。

それによると、建設は早ければ2023年に始まり、完成には10年以上の年月を要するとされている。

また、同社は、2018年にニューヨーク市マンハッタン地区のハドソン・スクエアにキャンパスを建設するために10億ドルを投資することも発表していたり、9月にはカリフォルニア州サンタクララのマウンテンビューに40エーカーの複合施設を提案しているなど、都市開発に積極的な動きを見せており、今後の動向も注目される。