【未来戦略コンサルタント藤元健太郎が考える】2026年から未来へ向けて:AI時代に日本人が幸福を掴むために必要な3つのトランスフォーメーション
D4DRは現在二つのシンクタンク「Future Perspective Research Center」と「HR未来共創研究所」の活動を行っており、どちらもバックキャスティングで未来からありたい未来社会を一人一人が自分毎で考えていくというコンセプトの基に、様々な未来社会像を発信してきている。
年始に合わせ、60年前の丙午の迷信のように未だに過去の常識を継続していて未来に向けたアップデートがされていない3つの領域を重要テーマとして考え、これまでの常識をアンラーニングし、メタ視点で「あるべき姿」を妄想してみた。
トランスフォーメーション①
「教育:学びのトランスフォーメーション」
【背景】
日本の多くの小学校が現在創立150周年を迎えているように、現在の教育システムは明治政府が1872年に学制を発布した枠組みが土台になっている。戦後の1947年に教育基本法が制定され現在の制度になっているが、基本的な考え方は150年もの間、変わっていない。明治政府は富国強兵のために大量の兵士と工業化の労働力を必要とし、戦後も高度経済成長を支えるためには大量の均質な労働力が求められた。
1980年頃からは、さすがにこのままではいけないという議論が始まり「ゆとり教育」が導入されたが、部分最適な変更は混乱だけが残りシステムは続いている。これはOS(基盤)を入れ替えずにアプリケーション(内容)だけを変えようとした限界であろう。この先の未来からのバックキャスティングで考えれば、もはや社会が大量の均質的な労働力を求めることはないはずだ。人口が減り、AIとロボティクスが普及し、人間は一生学びを続けていくこれからの時代には、以下のような力を身に付ける必要があると考えられる。
【トランスフォーメーションにおけるポイント】
・人生を通じて常に新しい問いを立て、学び続けていく力
・社会の一員として他人と協働し、人の役に立つ喜びを感じる力
・新しい技術と向き合い活用していく力
・自分の幸福を追求していく力
こうした時代に毎日学校に通い、国語、数学・算数、理科、社会のようなカリキュラムを学ぶことが本当に意味のあることなのかを、本質的に見直す必要があるだろう。極端なことを言えば、自分が学びたいことが見つかればあとはAIが24時間いつでも教え続けてくれる。先生の役割は教えることではなく、コーチやメンターのように探求や問いに対する気づきをサポートしてくれることであり、集団行動のファシリテートの方が大事になるだろう。小学校低学年における最低限の知識取得の場は残るとしても、高学年以上には運動会や文化祭などの方が、学校が提供する体験価値としては大事なのかもしれない。負けることや失敗すること、他人と協業することの難しさと喜びの体験はAIでは当面難しいと考えられるからだ。そうすると、例えば以下のような制度はどうだろうか。
【トランスフォーメーションのグランドデザイン】
・小学校(義務教育)
平日に毎日通う4年制(学びリテラシー、基本知識の習得と社会の仕組み・活動の基本習得)。
・中学校(義務教育)
従来の小5、6と中学3年間の5年制。知識取得は基本的にAIで行う。学校での学習はグループワークと探求学習中心、体験としてイベントと地域活動、ビジネス体験などを行うため学校に行くのは週の半分程度。
・高等学校
総合科は廃止。高専含む専門過程のみ存続し、中学校卒業生の中で行きたい人だけが選択する。
・大学
中学校卒業生から高齢者までの全社会人を対象にした、高度な学びの場の提供と研究活動の場。
こうなれば中学校を卒業した後は専門スキルを身に付けて社会に出るか、中学校卒業後に一旦働いて、必要なタイミングで大学の授業を受けたり、中学校卒業後に大学で高度な研究を行ったりと多様な選択を行う人が増えるだろう。いずれにしても大学は生涯を通して何かしら関わりを持つような存在になる可能性がある。学びはAIでいつでもできる時代において、問いを立てる力があれば、これくらい大胆な転換が必要になるのではないだろうか。

トランスフォーメーション②
「家族:多様性へのトランスフォーメーション」
【背景】
明治以前の家族システムはあくまで生産活動と生活のための組織であり、1898年に制定された明治民法が現在の家族制度のベースになっている。すべて手作業で管理をしなければいけない時代において、国家が管理をする上で、個人ではなく家族を管理単位とした方があらゆる制度において便利であったことも大きいだろう。ちなみにこの時、家長として男性である父親が定義されたことが、その後の女性の社会における地位を決定づける大きな要因であったことも間違いない。戦後に高度経済成長が進み、人口が増えていた時代には、村社会の家族から切り離された若者が大量に都会に移動した。そのまま核家族化が進展したが、生活はどんどん豊かになり、多くの家族の幸福感が高まっていった。しかし経済成長が止まった1990年代くらいからは、祖父母世代の高齢化と介護問題、夫婦二人の子育て環境の高負荷化、婚姻できない・しない人の増加など、家族の問題は一気に増加する一方となった。
【トランスフォーメーションにおけるポイント】
・家族単位から、個人単位の管理インフラの整備
・身体的・時間的制約からの解放
・「家族の機能」の外部化・分散化
一方で技術は進歩し、スマートフォンの普及とマイナンバー制度により、国が「世帯」ではなく「個人」を直接把握し、行政サービスを提供することが可能になった。
また、生殖技術においても、卵子凍結や体外受精の導入が進み、婚姻や年齢という従来の制約に縛られず、個人の意志で出産やライフプランを選択できるようになった。さらには、家庭内で行われていた労働や育児を、テクノロジーやシェアリングエコノミーによって社会全体へ分散・アウトソーシングすることが容易になった。
【トランスフォーメーションのグランドデザイン】
・「個人単位」の社会インフラへの完全移行
世帯単位の課税、扶養控除、年金制度を全廃。すべての権利と義務をマイナンバーに紐付けた個人単位に再設計し、「誰と住んでいても・いなくても」不利益のない社会へ変革
・「ソーシャル・ペアレンティング(社会親)」制度
子育ての責任と費用を特定の親に帰属させず、地域社会全体で分担する仕組み。育児は「家庭の無償労働」ではなく、専門家や地域住民がチームで担う「社会の有償活動」として再定義
・「マルチ・パートナーシップ契約」の導入
従来の一夫一婦制の「婚姻」というパッケージを解体。複数のパートナーや、恋愛関係にない同居人とも「遺産相続」や「代理権」などの法的権利を個別に契約・共有できる柔軟な制度に
・「拡張家族」型居住コミュニティの推奨
男女の関係や血縁を超えた数世代・数十人が共に暮らし、リソースを共有する地域における共生関係をベースとした拡張家族・コミュニティを容認する
このように、従来の固定的な家族のあり方にとらわれるのではなく、個人の意志やライフステージ、価値観に合わせて変化し続ける「動的なつながり」を自らの手で選択していくといった価値観への変革こそが、これからの時代を生きる私たちの幸福を決定づけると考える。
テクノロジーによって、個人が自律的に生きられる基盤が整うからこそ、血縁や制度という「受動的な絆」を超え、互いの価値観で結ばれる「能動的な共生」へとシフトする。このマインドセットのアップデートが伴って初めて、150年続いた旧来の社会システムは、真の意味で未来へとアップデートされるのではないだろうか。

トランスフォーメーション③
「働き方:流動化トランスフォーメーション」
【背景】
日本の一律的な高い教育レベルから生み出された新卒中心の終身雇用、年功序列、企業別労働組合といった制度は、高度経済成長期には強いシステムとして機能し、世界の中でも競争力の高い日本企業を多数生み出すことに貢献してきた。
終身雇用と年功序列は社員を家族ぐるみで会社が面倒を見る形になり、特に大企業では男性が長時間労働を会社に差し出す代わりに、結婚相手候補としての女性社員を雇用し、結婚した女性は退職して家を守り、子育てをする役割分担を定着させ、社宅や住宅ローン、保養所など余暇やライフステージのプランまで、会社が全ての面倒を見てくれる家族丸抱えシステムだった。
しかし、1990年代からのIT革命と株主至上主義は産業構造と経営モデルの劇的な転換を生み出し、日本企業のグローバル市場における相対的な地位低下を招き続けている。終身雇用制度を維持したまま株式市場からのプレッシャーに応える利益を出すためにも、保養所は売り払い、人件費抑制が続く中で非正規雇用が一気に広がり、正社員との間での格差が拡大した。一方で、出し続けた利益は内部留保として蓄積され、現在では640兆円ものお金が有効活用されないままだ。
【トランスフォーメーションにおけるポイント】
・AI・ロボティクスによる定型労働の消失
・スキルとジョブのリアルタイムでの可視化
・会社中心から「プロジェクト中心」へのシフト
AI・ロボティクスの進展により、短期的にホワイトカラーの事務作業から、中長期的には工場の製造工程まで、従来の「人間が時間を切り売りしていた仕事」の多くが自動化され、企業が膨大な人員を抱え込む必要性と合理性が消失する。
一方で生産年齢人口が減少する中で、雇用の流動化が急速に進み、職務経歴や個人のスキル、実績がデジタルデータとして客観的に証明・可視化され、AIによる高度なマッチング技術によって、様々な労働を選択できる未来が予測される。
そうした中では、国レベルで人材の大流動化と最適マッチングのための以下のような政策をより加速させる必要があるだろう。
【トランスフォーメーションのグランドデザイン】
・終身雇用の土台である解雇規制を撤廃し流動化を加速
「企業が一生守る」仕組みから、市場価値に応じて「最適な場所へいつでも移れる」社会へと転換し、組織の硬直化を防ぐ
・日本全体の生産性と人的資本力向上
労働者の未来に必要なスキル向上をサポートするほか、AIで余力が生まれた優秀なホワイトカラーの力を、本当に人手を必要とする成長産業や一次産業へシフトさせるなど、国全体の生産性を底上げする「人材の再配置」として企業や産業を越えた最適マッチングを行う。
・起業とM&Aを増やし、労働力を活性化することで産業構造シフトを加速
内部留保を眠らせず、挑戦(起業)と再編(M&A)に還流させる。古い産業から新しい産業へ「人と金」がダイナミックに移動する、新陳代謝の激しい経済圏を構築
・社会横断で個人のスキルや自己実現を可視化し流通させ、最適にマッチング
個人の「真のスキル」や「何をしたいか」を可視化し、社会全体から自分に最適なプロジェクトが届くような、個人と仕事の直接マッチングを実現する

さいごに
目先の税制や所得の議論も重要だが、日本社会をどのような社会にするかはこの3つの領域のグランドデザインこそが鍵を握っている。
①教育:「問いを立てる力」を養い、
②家族:「動的なつながり」で支え合い、
③労働:「自律的な流動」で価値を発揮する。
我々の生き方を幸福に向かわせるためにありたい未来社会を一人一人がイメージし、実現したいという強い思いを持つ2026年にしたいと思う。