ファッション分野におけるIoTの事例(先進IoTビジネスの動向|第3回)

はじめに

前回はスポーツのIoT化について取り上げたが、こうして様々な分野について調べていくと、着実にIoTが産業において広がりつつあることが実感できる。続いてIoTファッションの調査を進めた結果、筆者が導き出したトレンドは主に三つある。

  • ウェアラブル端末のファッション化
  • IoTによるデザイナーの創造性への貢献
  • ファッション関連の小売の販売戦略におけるIoT活用

ハイテクのファッション化、ファッションのハイテク化の両方が存在し、さらに小売業の戦略にもIoTは関わってくる。今回は、これらのトレンドを軸にしていくつかのファッション関連の事例を紹介したい。

ウェアラブル端末のファッション化:VINAYA Zenta

まず紹介するのは、ロンドンのスタートアップVINAYA社のスマートジュエリー、Zenta。ユーザーの精神状態を計測してくれるブレスレットであり、独自のセンサー技術によって心拍、呼吸、発汗、血圧、そして皮膚電位を計測し、スマートフォン利用状況(ソーシャルメディアの利用回数やカレンダーの予定など)と合わせ、ユーザーの感情や精神状態を把握し、ストレス解消や感情のコントロールのための提案をしてくれる。また機械学習のアルゴリズムを取り入れ、ユーザーの行動や感情の動きを学習し、よりパーソナライズされたフィードバックをしてくれる。

Zentaは、「ウェアラブルのファッション化」の最たる例だ。画像のように、モデルが身に着けているのを見ても、ウェアラブルとは気づかないだろう。またスワロフスキーと提携し、クリスタルを施した限定モデルも、通常のラインアップに加えて登場している。

ちなみに、Zentaは、クラウドファンディングにて出資者を募集した結果、目標出資額を大幅に超えている人気ぶりだ。

 

IoTによるデザイナーの創造性への貢献:Marchesa & IBM Watson

次に紹介するのは、ハイエンド・ファッションブランドのMarchesa社がIBM社と手を組んだプロジェクト。協同で「Cognitive dress」を開発し、ファッションの祭典「MET Gala 2016」でスーパーモデルのKarolina Kurkovaがそれを披露した。

このドレスの特徴は、ツイッターユーザーの感情によってドレス内蔵のLEDライトの色が変わる点だ。IBMの人工知能プログラムであるWatsonがツイッターに流れている「Karolina Kulkova」「IBM」「Marchesa」そしてドレス関連のツイートをセンチメント分析にかけ、その傾向に合わせた色を選択する。つまりこのドレスはユーザーの感情をリアルタイムに反映する仕組みだ。またこのドレスのコンセプト立案、研究開発、デザイン、制作すべての工程にIBM Watsonが関わり、Marchesaのデザイナー陣をサポートした。

このように、ファッションデザイナーがIoTを用いて創造性を表現するのは、非常に興味深い試みであることは間違いない。さらに、人工知能を利用して開発の効率化と最適化を図っている点でも面白い。人工知能に全てを委ねるのではなく、上手く利用することの可能性を示している。

ファッション関連の小売の販売戦略にIoT活用:Polo Ralph Lauren & Oak Fitting Room

最後に紹介するのは、ポロラルフローレンのニューヨーク旗艦店で展開されている、スマートでインタラクティブな試着室、「Oak Fitting Room」。この試着室にはタッチスクリーン搭載のミラーがあり、顧客が試着室に入ると起動する。持ち込んだ商品のRFIDタグを読み取り、ミラー上に商品の写真、バリエーション(色、サイズ)、店内の在庫状況、そして同商品に合わせる他の商品のレコメンドを表示してくれる。顧客はタッチスクリーンを通して店員へそれらをリクエストでき、またその場で決済ができる。

顧客の立場では、ユーザーインターフェイスの優れた試着室で買い物をより簡単にさせてくれる。逆に、小売の立場では、「試着→購入」という顧客体験の効率化、および顧客行動データ(試着時間、数、コンバージョン率など)の取得・分析を通した販売戦略の最適化を図ることができる。

このように、IoTをファッション小売業者が活用することで顧客・小売業者の両者への利益があるWin-winの関係を築くことができる。

A Polo Ralph Lauren associate trying out the interactive fitting room.

(出典:http://wwd.com/

今後

見た目の美しいZentaからも分かるように、ウェアラブル端末はある種ファッションアイテムになりつつある。またそれに伴い、いずれウェアラブルは日常生活に完全に溶け込んで、「見えなく」なるのではないだろうか。今まではApple WatchやFitbitなど、誰が見てもウェアラブルと分かる製品がほとんどであったが、最近はZentaのようなファッショナブルなウェアラブルも出てきている。一つ例を挙げるとBellabeat Leaf。葉型のブローチのような活動量計で、すぐにウェアラブルとはわからない。

また、ファッションに限らず、商品開発や販売戦略など、ビジネスのあらゆる場面で人工知能・機械学習・IoTなどの先進技術を活用する流れが定着すると考えられる。例えば、最近人工知能を活用してビールを醸造しているIntelligentX Brewing社がある。顧客のフィードバックを絶え間なくビールの醸造レシピに反映させ、常にビールを「進化」させている。まさに、人工知能ありきのビジネスだ。

IoTをはじめとするテクノロジーのビジネス利用はこれから指数関数的に増えていくだろう。その中で、ファッションはほんの一例に過ぎない。

(出典)
Liz Stinson「IBM’s Watson helped design Karolina Kurkova’s light-up dress for the MET Gala」Wired
Lulu Chang「AI participated in designing this supermodel-worn dress at the MET Gala」Digitial Trends
ZENTA: Stress & Emotion Management On Your Wrist
Vivienne Decker「Vinaya’s Kate Unsworth Launches Zenta: The World’s First Biometric Band For Your Emotional Wellbeing」Forbes
Rachel Strugatz「Ralph Lauren, Oak Labs Debut Interactive Fitting Rooms」WWD
Maria Bobila「Polo Ralph Lauren debuts interactive fitting rooms at Fifth Avenue Flagship: Start-up Oak Labs found a retail home for its first “smart mirror”
Emma Sandler「You Can Now Drink Beer Brewed By Artificial Intelligence
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