SNS分析から消費者心理を掴む!多角的かつディープなトレンドリサーチ(海外SNS動向)

 スマートフォンやタブレットの普及、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の発展などにより、いつでもどこでも情報にアクセス・共有できるデジタル社会への変化が加速しています。2018年7月27日に総務省が公表した「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、全世代のネット利用時間は一貫して増加傾向であると発表しました。さらに40代において、ネット行為者率がテレビ(オンライン視聴)行為者率を初めて超えたと報告しました。(図. 1)

(図. 1)10代-60代の主なメディアの行為者率・行為者平均時間について 左:平日、右:休日

(出典:総務省 平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書)

また、全年代のネットメディア別の1日の利用時間で一番多かったのは「ソーシャルメディアを読む・書く」でした(図. 2)。

(図. 2)10代-60代のネットメディア別の1日の利用時間について 左:平日、右:休日

(出典:総務省 平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書)

 今後もネット利用率は増加し、それに伴ってオンライン上のコミュニケーションもますます増加することが考えられます。そのため、業界トレンドや、消費者心理などを調査する際に、オンライン上の話題を分析することも有効な手法の一つです。しかし、「検索ボリュームが大きいもの」=「流行っているもの・注目されているもの」と短絡的に判断するのではなく「なぜそれが流行っているのか」、「流行を作り出した要因は何か」までを調べることが、消費者心理や業界トレンドを理解する際には重要です。

 本記事では、検索ボリューム分析とソーシャルデータ分析から、ファッショントレンドが変化する要因について、英国のSNS分析ツールベンダーであるBrandwatch社が分析した事例をご紹介します。

ファッション業界のトレンドをSNS分析から明らかにする!

 2016年1月から2018年2月までのファッション業界に関するキーワード(英語のみ対象:「leopard print」や「oversized」、「colored fur」など)を対象にBrandwatch社はソーシャルメディア、Pi Datametrics社は検索ボリュームをそれぞれ分析しました。その結果、それぞれのキーワード出現量の増減は、検索ボリュームデータとソーシャルデータともに同じ傾向を示しました。キーワード「velvet(※)」の結果を例に、具体的に見ていきましょう(図. 3)。

※velvet:イタリア発祥の生地素材で、2枚の布にパイルを織り出したパイル織物の一種。柔らかく、上品案手触りと深い光沢感が特徴。フォーマルドレスやカーテンなどに用いられる。

(図. 3 検索ボリューム(赤)とソーシャルメディア(青)での「velvet」話題量  出典:Brandwatch社レポート)

 

 これを見ると、「velvet」に関する話題は9月から翌年1月に多くなり、季節性が存在することがわかります。今回の分析対象である英語の投稿が北半球に偏っているため、北半球の冬季である、9月から翌年1月にデータ数が多くなったと考えられます。

velvetのピークの要因は季節性のみ?

 寒い時期だから「velvet」に関する話題が増えた、というのは本当でしょうか。ピークの要因を探るため、Brandwatch社は2016年10月から12月末までの3ヶ月間の「velvet」に関するソーシャルメディア上の話題の中で、登場したブランドとハッシュタグについて分析しました(図. 4)。

(図. 4 velvetに関する話題の中で、登場したブランドとハッシュタグ。大きく書かれてるものほど、出現量が多い。

オレンジ:ブランド、青:ハッシュタグ 出典:Brandwatch社レポート)

 図. 4から、「balmainfw16」や「balmainarmy」といったファッションブランドの「BALMAIN」に関するハッシュタグが多く投稿されているのがわかります。ではなぜ、「velvet」に関する投稿で「BALMAIN」が多く含まれているのでしょうか?投稿内容を詳しく見ていくと、人気アーティストが、コンサートで「BALMAIN」の「velvetのコート」を着たということが大きな話題を呼んでいたことがわかりました。(図. 5)。

(図. 5 人気アーティストがコンサートに「BALMAIN」の「velvet」コートを着たことをツイート 出典:Brandwatch社レポート)

 このように、オンライン上の話題傾向を理解するには、投稿量の増減だけに注目するのではなく、ユーザーの興味や関心がなぜ変化したのかを多角的に分析することが重要です。

ポップカルチャーとファッショントレンドの関係は?

 デジタル社会となった現代において、ポップカルチャーやカルチャーイベントは、ブランドや消費者心理に大きな影響を与えるようになりました。Brandwatch社のこれまでの分析における経験では、グローバルファッションにおいて、アーティストや俳優など有名人による影響がとても大きいとのことです。(先程のvelvetの例は想定内)

 ここで別のファッションに関するキーワード「shearling(※)」について同様の手法で見てみましょう(図. 6)。

※shearling:毛刈りを終えてすぐの羊や山羊の革。コートやブーツに利用される。

(図. 6 検索ボリューム(赤)とソーシャルメディア(青)での「shearling」話題量  出典:Brandwatch社レポート)

 図. 6から「velvet」で見られたものと同様に、季節性が見られます。話題量が多くなる、2017年10月の「shearling」の投稿について、詳しく見ていくと「Ryan Gosling」と「Blade runner」に関する投稿の割合が多いことがわかりました(図. 7)。

(図. 7 「Shearling」に関する話題の中で、登場した人物やブランドとキーワード。大きく書かれてるものほど、登場頻度が高い。

黃色:人物・ブランド、青色:キーワード 出典:Brandwatch社レポート)

 図. 7の結果から詳しく調査をすると、2017年10月にリリースされた映画、Blade runner 46の主人公「Ryan Gosling」が「Shearling コート」を着ていたことで「Shearling」に関する話題が急激に多くなっていることがわかりました。この結果は先程の「velvet」の例と同様なので驚きはありませんが、図.7をよく見ると、「vegan:動物性の素材を使っていない」や「faux:嘘の、見かけ上の」といったワードが含まれていることがわかります。これは「Ryan Gosling」が着ていた「Shearling コート」がPUレザー(合成皮革)であったことから、「vegan」や「faux」といった「Shearling」の素材に関する話題にまで発展していることがわかりました。さらにソーシャルメディア別の「vegan shearling clothing」や「faux shearling clothing」に関する話題量について、Twitter・instagram・Blogで多かったことが明らかになりました(図. 8)。

(図. 8 ソーシャルメディア別「vegan shearling clothing」や「faux shearling clothing」話題量 

上からInstagram, Blog, Forum, News, Twitter, Facebook, General, Image 出典:Brandwatch社レポート

 「shearling」の例では、有名人が生み出した話題(素敵やかっこいいなど)だけでなく、「vegan」や「faux」などのエシカルファッション(※)にまで話題が及んでいたことが新たにわかりました。この結果が示すように、消費者心理を理解するためには、消費性向や業界トレンドをウォッチしたり、トレンドを生み出した要因を調査するだけでなく、そこから派生した話題も把握する必要があるでしょう。

※エシカルファッション(Ethical Fashion):環境問題、労働問題、社会問題に配慮し、良識に反しない素材の選定や購入、生産・販売をしているファッションのこと。

日本におけるフェアトレード市場規模の増加

Fairtrade Internationalが2017年10月に公表した2016-2017年度の年次レポートでは、国際フェアトレード認証製品の世界市場規模は78億ユーロに到達したと発表しており、その市場規模は年々増加しています。日本においては、2016年度の市場規模は対前年比13%増の113億6千万円にまで拡大したと報告しています。近年、日本でもフェアトレード(エシカルな消費)について認知が進み、2010年の約16億円から7倍程度増加していますが、まだまだ欧米諸国(特にイギリス:約16.4億ユーロ、アメリカ:10.6億ドル)には及びません。これからのエシカルなファッションや食材消費の普及には、先行事例であるイギリスやアメリカを参考にするとよいかもしれません。

D4DR分析アナリストの目線 ~効果的なSNS分析を行うには~

 今回の事例のように、SNSの投稿数を見るだけでは、大局的な流れは掴めますが、深いインサイトを得ることはできません。投稿数を集計するのは、ソーシャルメディア分析のスタートラインに過ぎないのです。消費者心理や業界トレンドの変化を深く理解するには、流行の発生源が何なのかを特定する必要があります。さらに「shearling」から「vegan」や「faux」などに話題が派生したように、消費者の興味がどこまで及んでいるのか把握することも重要です。このように、効果的なSNS分析を行う際には、マクロとミクロの視点で、定量と定性の両方面から分析を実施しなければなりません。

 D4DRでは、専門のアナリストがブランドやテーマに応じて最適な分析手法を選択してSNS分析を行っています。TwitterとInstagramの双方から広告戦略、マーケティング戦略につながる分析も可能です。流行の根源は何か?どこまで話題が派生しているか?など、消費者心理の深い部分まで明らかにします。

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Muta

FPRC事務局担当。専門はエネルギー・資源開発を中心に社会・環境問題全般。オープンイノベーションプログラムの立ち上げ支援や新規事業戦略の立案など様々なプロジェクトに携わる。豊富な海外経験を活かし、独自の視点で発信中。

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