g-Life委員会 平成30年度第1回「スポーツとITの融合 ~今とこれから~」

 開催まであと2年となった東京五輪・パラリンピックは日本国民のスポーツへの関心とスポーツ人口の増加に寄与すると期待されている。2017年3月に文部科学省は「第2期スポーツ基本計画」を策定し、国民のスポーツ参画人口の拡大のための施策を実施することを発表した。この計画では成人の週1回以上のスポーツ実施率を現状の42.5%から5年後の2022年には65.0%まで引き上げることを目標として掲げている。これにはスポーツの実施によって国民の健康寿命を延伸させ、医療費の増大に歯止めをかける狙いがある。スポーツによる健康促進の効果を最大化させるためには、スポーツ医学やスポーツ科学をさらに発展させ、積極的に活用していくことが必要であるとしている。

 そのような背景の中、位置情報や様々なデータに関連する技術やサービスの広がりについて議論するg-Life委員会(gコンテンツ流通協議会主催)が、7月13日に「スポーツとITの融合」をテーマに開催された。スポーツへの関心の向上や日本国のスポーツ産業の発展に位置情報やIT、センシング技術等といった最新技術がどのように活用されているのか、今後どのように活用していくのかについて、業界をリードしスポーツ産業を盛り上げている方々に講演をお願いした。

スポーツと人をITでつなぐ

 日本政府はスポーツ市場を2012年度の5.5兆円から2025年度までに15.2兆円規模まで成長させるという目標を掲げている(平成28年6月スポーツ未来開拓会議)。しかし日本のプロスポーツ産業の現状は米国や英国と比べて、まだまだ未成熟である(図. 1)。本セッションでは、株式会社NTTデータ経営研究所の河本敏夫氏が米国でのプロスポーツのIT活用について話をした。

 
画像: 河本敏夫:株式会社NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー

河本敏夫:株式会社NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー

画像: 図. 1 日本と欧米のプロスポーツ市場の比較 出典:「スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~」スポーツ庁・経済産業省

図. 1 日本と欧米のプロスポーツ市場の比較
出典:「スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~」スポーツ庁・経済産業省

 プロスポーツビジネスにおける収入は興行収入、放映権収入、商業収入の3つが主に挙げられる。海外プロスポーツにおいては、放映権収入が最も大きな割合を占めている。そのため、海外のプロスポーツでは長く視聴されるようなコンテンツの作成に力を入れ、視聴者とのエンゲージメントを高めることに注力しているのが特徴である。米国では近年、VRを活用したスポーツ観戦や、専用アプリを起動したスマートフォンをスタジアムに向けることで選手データが視覚化されるなど、ITを活用した、観戦者を喜ばせる様々なサービスが生まれていると河本氏は語る。

 河本氏は試合をより長く視聴させるための取り組みの一例として、米国プロバスケットボールリーグNBAが提供する「NBAInPlay」というアプリを紹介した(図. 2)。このアプリのユーザーはスマートフォンを片手にNBAを観戦し、試合結果と選手のパフォーマンス結果を予想する。ユーザーは4回のクォーターごとに選手を選択し、その4人の選手のパフォーマンスポイント(得点数・リバウンド数・アシスト数)の合計を他ユーザーと競い合う。各クォーターには、パフォーマンスポイントが増加する48秒間のターボブースト機能が実装されており、試合の視聴に集中し、戦局等を見極めないと勝てないような仕組みとなっている。最もパフォーマンスポイントを集めたユーザーには賞金や試合のチケットなどのインセンティブが与えられるためユーザーの熱中度は高いそうだ。

画像: 図. 2 NBA InPlayのアプリ画面 www.nba.com

図. 2 NBA InPlayのアプリ画面

www.nba.com

 このように米国のプロスポーツでは試合を長く視聴・楽しませる仕組みや、スタジアムで観戦したくなるような仕組みを積極的に導入し、新規ファンの獲得や既存ファンとのエンゲージメントを高めていると河本氏は話す。

 一方、日本のITを活用したスポーツビジネスについては、米国に比べると参入プレイヤーの数が少なく、多様性も乏しい現状にある。スポーツテック産業の成長には、「データ保有」「技術開発」「理論研究」「実証フィールド」間を仲介し、足りないパーツを埋めるようなプラットフォームの構築が必要であるという。また異業種・異分野との連携や、産官学の知識・技術の融合により、デジタル化時代とマッチしたスポーツビジネス、周辺産業や地域と連携したスポーツビジネスエコシステムを目指していくことが重要であると河本氏は語った。

AIで変わるバレーボールの未来

 近年、AIは医療や自動車、流通など様々な分野で用いられており、ビジネスにおいて必要不可欠なものとなった。最近ではスポーツの世界でもAIが活用され始めており、日本でもその動きが見られる。本セッションでは、株式会社LIGHTzの代表取締役である乙部信吾氏がLIGHTzの中核テクノロジーである「スペシャリストの思考をAI化」する技術をバレーボールに活用した例を話す。

 
画像: 乙部信吾:株式会社LIGHTz 代表取締役社長

乙部信吾:株式会社LIGHTz 代表取締役社長

 バレーボールは、試合中にデータを取得・分析し、戦術に活かすなど、スポーツの中ではデータを積極的に活用する競技であるが、LITGHzではAIを活用したシミュレーションを行っている。トップ選手は相手のブロック位置や仲間の配置など、様々な要素を一瞬で把握し、行動に移している。LITGHzはトップ選手が「行動を決める要素は何か?」に注目し、トップアスリートの知見や経験、感覚の再現を目指している。選手に対してブロックやスパイク等の行動の判断要素となる事象についてヒアリングを行い、ブレインモデルと呼ばれているLIGHTz独自の思考回路を作製している。これをAIに組み込み、コート上で12人の選手全員が同時かつ自律的に動く試合のシミュレーションソフトを開発した。(図. 3)このシミュレーションによって、試合の「勝ち/負けパターン」をイメージすることができ、試合の戦術づくりなど、チームの強化に活用することができる。またトップ選手の独自の感覚や知恵、経験を後世へ継承するのにも役立てることができるという。

画像: 図. 3 バレーボールの1ラリーの分析結果。黒い点線はボールの動きを示す。 出典:LIGHTz説明資料

図. 3 バレーボールの1ラリーの分析結果。黒い点線はボールの動きを示す。
出典:LIGHTz説明資料

 今後はトップアスリートの思考やノウハウをAIによって理解することにより、バスケットボール選手が走力向上のためにサッカーのトップ選手の知見を利用するといった、横断的な活用が可能になるだろう。このようなトップ選手の感性や思考に基づくAIは、競技の垣根を超えて活用され、各選手の競技技術の向上が期待できると乙部氏は話す。

画像: g-Life委員会の様子。

g-Life委員会の様子。

 今回のg-Life委員会では、スポーツとITといった分野について、幅広い知識・知見を共有できた場となった。選手の競技技術の向上やスポーツビジネスの発展にはITを積極的に取り入れていく必要性があるだろう。ITの技術発展やコモディティ化を実現させるためには、開発をスポーツ業界だけで完結させるのではなく、異業界・産官学との連携を進め、様々な知恵・ノウハウを取り入れ、昇華させることが重要である。

講演者プロフィール

◎河本敏夫:
  株式会社NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット シニアマネージャー。総務省を経て、NTTデータ経営研究所に参画。中長期の成長戦略立案、新規事業開発、事業構造改革を得意とする。スポーツ・不動産・メディア・コンテンツ・教育・旅行・HR・街づくりなど幅広い領域が守備範囲。業界を問わず、世の中にない新しいテーマの発掘・解決に挑戦し、異業種間アライアンスによる成長戦略と次世代テクノロジーによるイノベーション創出を多く手掛ける。著書に『マイナンバー 社会保障・税番号制度-課題と展望』、『ソーシャルメディア時代の企業戦略と実践』(ともに、金融財政事情研究会)など。スポーツ事業創発コンソーシアム「Sport-Tech & Business Lab」発起人・事務局長、早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。

◎乙部信吾:
  株式会社LIGHTz 代表取締役社長。2001年、Canon入社。レンズ修正研磨装置の開発に従事。2004年、NEDO主導の「権紫外線(EUV)露光システム開発プロジェクト」に参画し、IBF加工装置(イオンビーム・フィギュアリング)内の多軸ステージ開発に従事。2011年製造業向けコンサルティングファームO2 入社。CTO(最高技術責任者)に就任。開発・設計・製造の技術コンサルタントとして、100社以上の改革活動に携わる。2016年「スポーツ×AI」を手掛ける株式会社LIGHTzをつくば市にて設立し、代表に就任。

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D4DRの広報PR担当です。webやソーシャルメディアを通じて、ITビジネス、デジタルマーケティング、各種データ分析、CRM、ソーシャルメディア分析などの消費者インサイト発見に関する情報を発信しています。

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