エンジニアの新たなロールモデルを自ら創る:西脇資哲 第1回

西脇資哲氏
日本マイクロソフト
業務執行役員 エバンジェリスト

画像: opinion:西脇資哲「エンジニアの新たなロールモデルを自ら創る」第1回

西脇資哲氏は、日本マイクロソト初の業務執行役員でエバンジェリスト(伝道師)。マイクロソフトの全製品・サービスをわかりやすく伝える役割を担う。同氏の卓越したプレゼンテーション能力は、IT業界の枠を越えて多方面から高く評価され、これまでにも幾多の講演・講義をこなしてきた。

果たして、西脇氏は、どのようにして今の自分を築いてきたのか。3回の連載インタビューを通じて、そのサクセスストーリーと背後にある想いに迫る。

すべてのエンジニアが
ビル・ゲイツを目指さなくたっていい

ー 2014年に日本マイクロソフトの役員(業務執行役員)に就任されました。それによって、何か変化はありましたか。

1つは、講演するセミナーの規模です。以前は、小規模な勉強会やセミナーでもお声をかけていただくケースが少なくなかったのですが、最近呼ばれるセミナーは大規模なものが中心。おかげで、時間的な余裕が多少生まれたのですが、小規模な集まりは、最先端の動きをつかむうえでとても良い機会でした。それが減ったのは少し残念です。

もう1つの変化は、仕事でお会いする方の職位が高くなったことです。現在、お客様やパートナー先にお邪魔すると、役員以上の方にご対応いただくことがほとんどです。背後には、相手の職位に応対者のレベルを合わせようとする日本特有の商習慣があるのでしょうが、私にとっては、とてもありがたいことです。

ー  エバンジェリスト専任の役員というのは、日本マイクロソフト初の職位だとお聞きしています。そのキャリア形成について、ご自身ではどう評価されていますか。

従来型のロールモデルの枠組みを超越した、エンジニアの新しいキャリアを切り開いてきたと自負しています。

もちろん、「エンジニアの出世コース」なるものは、以前から存在していました。例えば、プログラマーからスタートして、システムエンジニア(SE)になり、のちにシステムコンサルタント、プリセールスエンジニアへとステップアップしていく、といった流れです。この種の出世コースは、個人的にまったく納得のゆくものではなかったんです。

ー どの辺りが受け入れがたかったのですか。

知識・キャリアの非連続性です。従来型の出世コースを辿ろうとすると、ある段階で、エンジニアとして積み上げてきた知識・経験を捨て去らなければならなくなります。もう少し具体的に言えば、せっかく技術を勉強してきたのに、出世の途中で、いきなり組織・人のマネジメントの勉強を強いられるわけです。
これでは、私のようにマネジメントに興味がなく、ひたすら技術だけを追い求めていたいエンジニアは、出世の道を諦めるしかありません。

ですが、すべてのエンジニアが、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツを目指さなくてもいいはずです。彼らのような経営者になることだけが、エンジニアの最高到達点であるはずはないし、もっと違う未来があってもいい――。私はそう考えていたんです。

ー そうした想いが、エバンジェリストへとつながったと。

そう言えます。実のところ、大抵のエンジニアが、30代前半に最初の転機を迎えるんです。つまり、この時期になると昇進や昇格、異動に悩んだり、友人との給料に差が出てきたり、転職も考えるわけです、さらには、家族ができたり、社会的責任が重くなったり、して、ロールチェンジや立場をしっかりと意識するようになるわけです。

そんな時期に、私はあくまでもエンジニアとしての資質を活かすことにこだわった。つまり、エンジニアとしての知識を積み重ねながら、40代、50代、そして60代のリタイア後も一線で活用したいと考え、そのための働き方を追求してきたんです。その結果として、現在の自分があるということです。

私は今の職場で、エバンジェリストとプリセールス、そしてコンサルタントの役割を果たしています。その中で、エバンジェリストは技術的な知識が絶対に必要とされる職務です。それは、エンジニアの延長線上にあるもので、自分にとって、ごく自然にたどり着いたキャリアと言えるのです。

 

【プロフィール】
西脇資哲(にしわき もとあき)日本マイクロソフト 業務執行役員 エヴァンジェリスト

1969年8月18日生まれ、岐阜県出身。業務アプリケーションソフト開発業務、ISPの立ち上げなどを経験した後、日本オラクルに入社。プロダクトマーケティング業務やエバンジェリストを担当。12年間在籍した後、2009年12月にマイクロソフトへ移籍しエヴァンジェリストへ。テクノロジーやプレゼンテーションの講演・執筆にも精力的な活動を展開。マイクロソフトだけでなく、さまざまなテクノロジーに精通する。著書に「エバンジェリスト養成講座 究極のプレゼンハック100」(翔泳社)「エバンジェリストの仕事術 自分の価値を高め、市場で勝ち抜く」(日本実業出版社)

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