アパレル業界の裏方で存在感を放つプロワーカーの流儀:齊藤孝浩

齊藤孝浩 有限会社ディマンドワークス 代表
在庫コントロールを中心に急成長するアパレルのコンサルティングを行う。
1965年、東京都出身。明治大学卒業後、総合商社、ベンチャー企業、国内アパレルチェーンを経て、2004年に独立。著書に『人気店はバーゲンセールに頼らない』(中公新書ラクレ)『ユニクロ対ZARA』(日本経済新聞社)がある。

キャリアのアウトプットを意識する

齊藤がプロワーカーとして独立したのは、「インディペンデント・コントラクター(IC)」という働き方を新聞記事で読んだことがきっかけだった。高度な専門性を持ち、複数の企業と契約して任務を遂行する、雇われない・雇わない働き方について、2004年に日経MJが特集を組んでいたのだ。独立という場合、漠然と事業会社の社長をイメージしていたが、違う選択肢があることを知り、興味を持った。

齊藤は大学生時代、商学部のアントレプレナーシップの授業から大きな影響を受けた。起業家精神が世の中を活性化する、という意識がこのころから芽生え、40代には独立=事業会社の社長になる、と考えるようになっていく。

就職活動は商社を受けた。安くて良い物、良いサービスを日本へ持ってくる輸入で社会を豊かにしたいと考えた。就職した商社で配属されたのはアパレル。希望とは異なる分野であったが、夢中でいろいろなものを吸収していった。

キャリアのプロダクトライフサイクル

商品でいわれる、導入、成長、成熟、衰退というプロダクトライフスサイクル理論。人のキャリアにもライフサイクルがあると齊藤は言う。20代は人から言われたことを必死でやりとげ、30代は自分で考えて実行し、専門性を積み上げる。通常であればここで40代は成熟期に入るが、さらに成長軌道を描くためには、転職や独立することで専門性を整理し、教えることで自らも成長を続けることが必要である。またこのサイクルを手に入れれば、50代が衰退期ではなく、成長軌道で進んでいく可能性が高まると齊藤は考える。

ファッション業界は働く人が若い産業である。齊藤がよく知る某アパレルの会社は、社員が30歳を過ぎると社長が直接「君はこれからどうするんだ」と聞くという。その会社に骨をうずめるのか、転職・独立するのか。その言葉を聞き、多くの人が辞めていくが、健全な人の入れ替えが行われ、その企業は成長を続けているという。

齊藤はというと、20代を過ごした大手商社で仕事の基本動作と専門性の基礎を築き、30代でベンチャー企業と中堅アパレルチェーンの現場で実践する力をつけ、40歳になる直前の39歳でインディペンデント・コントラクターとして独立した。

後編では、独立後のブランディングと「なりたい自分」へ近づくためのヒントを紹介する。

(聞き手・文 小林利恵子)

画像: 齊藤孝浩 有限会社ディマンドワークス 代表

齊藤孝浩 有限会社ディマンドワークス 代表

何によって覚えられたいか〜自分のブランドをつくる

アパレルの在庫管理・流通コンサルタントの齊藤孝浩が常に意識するのは「何によって覚えられたいか」というピーター・ドラッカーの言葉。専門性を持って仕事をすれば、たとえ企業の中にいても、第三者が自分を紹介するときに勝手にキャッチコピーをつけてくれる。「在庫管理のプロなんですよ」「2000年にあの事業を立ち上げたやつなんです」。その専門性が1つの会社だけではなく、複数の企業に求められれば、独立して食べていくことができる。

独立直後から、齊藤はブログで専門知識を惜しみなく発信していく。ブランドづくりのためである。ブログが直接仕事につながることはないが、案件がスタートするときに、クライアントがブログを知っているケースが多く、すぐに信頼関係を築くことができるという。

知っていることはすべて出し、わからないことは学んで整理していく。企業に勤めていた時にマニュアルづくりが得意だったという齊藤。異動の際、多くの人が口頭で簡単にすませてしまう引き継ぎを、しっかりマニュアル化して、誰でもできる形で残す。アウトプットを想定して活動する、現在の齊藤の仕事のスタイルにつながっているのだ。

未来の“なりたい姿”へ導く情報発信力

40歳で経営者になる、50歳で本を出版する、55歳でリタイアする。齊藤が20代に10年単位で描いてきた将来像の2つはすでに達成した。55歳にはセミリタイアをして、海外の都市で2年間暮らしたいという。1ヵ所ではなく3ヵ月ごとに場所を移動しながら。

長期だけでなく、3年単位の短い期間のゴールも描き、それを意識した情報収集や勉強、ブログも続けている。

ブログの数は10年間で1900本。新聞は3誌購読しており、毎朝気になった記事を切りとって保存する。読むのは、日本経済新聞、日経MJ、繊研新聞、WWJ、週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、Fashionsnap.com、シブヤ経済新聞など。ブログの内容は、上記のメディアで気になるニュースをピックアップし、数行でまとめ、コメントをつける。シンプルなものだが、「専門家はどうみているか」という解説は、業界外だけでなくアパレル業界の人もチェックするアクセスの多いコンテンツとなっている。

英語も投資してから3年間後に成果が出た。ある投資ファンドの国際会議に招かれた際、聞くことはできたが、会話が十分にできず恥をかいたのが習うきっかけだった。そこから英会話教室に月2回通うようになる。英会話教室の教材を使うのではなく、コンテンツは自分で用意する。英会話講師にプレゼンテーションをして、コメントしてもらう。講師は毎回変える。「今さら“トムとジョンが週末テニスしました”なんていう英会話に興味持てないでしょ」(笑)3年後、別の投資ファンドから招かれた会議はスムーズに英語で対応した。

さらに、2014年11月に出版された書籍『ユニクロとZARA』のZARA本社の取材にも、その英語力を最大限に活用した。同書の出版は「在庫」だけでなく、アパレル業界のコンサルタントとしての地位を確立した。

こうありたいという自らの「アウトプット」を常に意識する齊藤。プロフェッショナルだからこそ、自分が今、学ぶべきことは何かを見きわめていくことを怠らず、専門性を高めていく。今後も常に「成長」の軌道に存在し続けていくだろう。

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Sho Sato

Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。