【イベント報告】経営と人材とデジタル(7/29第40回NRLフォーラム)

2021年7月29日、D4DRが企画・運営に携わるNext Retail Labフォーラムが開催された。40回目となる本会は、小売りのDXの最前線で活躍する株式会社CaTラボの代表取締役でオムニチャネルコンサルタントである逸見光次郎氏と、株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役の鈴木康弘氏をゲストとしてお招きし、「経営と人材とデジタル」をテーマにご講演いただいた。

 

DXに向けた経営陣の意識改革とデジタル人材育成の必要性についてゲストお二人と議論した。

DXと企業変革

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「デジタル機器などの導入による効率化を図ること(デジタイゼーション)」と、「デジタル技術を活用して、更に収益性の高いビジネスモデルへ変革すること(デジタライゼーション)」の掛け合わせによって生まれる企業変革であると逸見氏は語る。

ただアナログからデジタルに変えることや、ITやデジタルマーケティングに詳しい人材を採用することなどはあくまで部分最適化に過ぎない。DXは社内全体を巻き込むことで本当の効果を発揮し、企業変革に繋げることができる。

逸見氏は過去の現場経験から、現場を知ることが全社最適を果たすカギであるという。社内全体の業務フローを知ることや、顧客と相対する経験を積むこと、経営陣と数字で対話できることが現場経験から得られ、全体最適の改革への第一歩に繋がる。これらの企業内外で培われた業務経験は様々なシチュエーションで活かされるだけでなく、DXの本質であるビジネストランスフォーメーションで大きな役割を果たすことになる。

出典:「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0(経済産業省H30.12)」

デジタル人材の「育成」

デジタル化を達成するのに重要なのは「人」であるが、そのためにデジタルができる人材を採用しなければいけないわけでない。デジタル人材は社内で育成することができ、現場主体の教育こそが育成においてとても重要だ。デジタルの知見がない人に対しては教育プログラムを提供すること、社内の人が安心して変革・チャレンジに取り組める環境を経営陣が構築することで、社内に全体最適化を定着させることが可能になる。

一方で、デジタル化の阻害要因となるのも「人」であると述べる。デジタルシフトによる失敗への恐れや、過去の成功体験にいつまでも固執し、現状のままで良いと考える経営者も多く、なかなかDXに乗り出せないでいるケースもよく見受けられる。このような考え方を見直さない限り、DXから得られる多くのメリットを失うことになり、世の中の変化に置き去りにされてしまう。世の中の流れに取り残されないためにも、リスクを背負いながらデジタル化に取り組む姿勢が必要となる。

デジタル化に向けた経営者の役割

DXを目指すにあたり経営者の協力を得ることなしには、DXを実行に導くことができない。なぜなら、経営者は最終的な意思決定権を持つからである。主な3つの権限として、事業方針決定権、資金配分決定権、人材外聞決定権が挙げられる。鈴木氏はこれらの「3つの権限」を発揮しなければ、DXは小手先のものとなり成功することはないと述べる。

そのため、成功させるにはまず経営者がDXに対して消極的な理由や、なぜDXに対して否定的な考えを持っているのかを理解しなければいけない。理由は様々だが、利益が下がることに対する不安や、失敗した際に株主へ顔向けができないなど、経営者としてリスクを避ける心理から来るものがほとんどである。DXに向けた第一段階として、経営者の立場を理解した上で、DXがもたらす利益やそこから得られる収益を、経営者に説明することが求められる。

デジタル推進体制の構築

経営者の意識改革後は、組織全体が進むべき方向性を示すためのデジタル推進体制を築き上げる。デジタル変革において体制構築が成否を決めると鈴木氏は言う。デジタル推進体制は、DXを推進することを目的とし、企業変革に取り組む役割を持つ。この体制が率先して社内にデジタル化を働きかけ、今までの社内意識を変え、新たな方向性と考えを共有・実行する役割を担うことになる。

DXに必要な3つのスキル

DX人材に問われるスキルは3つあると鈴木氏は述べる。1つは企業のビジネスモデルをゼロから再構築する「企業変革スキル」。1つは業務を体系的に整理し、課題にあった対応策を考え改革を推進させる「業務改革スキル」。もう1つは企業で稼働するシステムを体系的に整理し、業務改善と連動しながらシステムを構築する「システム構築スキル」である。しかし、これらすべてを兼ね備えた人材はごく少数しか世の中に存在しない。そのため、社内でこのようなスキルを兼ね備えた人材を育成する、または、社内で役割を分担するなどがDX成功への最大の近道だという。

日本でDXを推進するためには

DXを推進する体制は、現場で働く人・経営陣両方の協力なしには達成することはできない。効率性を目指す現場とリスクを恐れる経営陣。相手を知らずして説得するのではなく、しっかりとした信頼関係を常日頃から築いておくことによって、本音で企業の将来のためになる方向性を見出すことができるのではないだろうか。

日本におけるデジタル化は他国に比べ、遅れをとっているかもしれない。しかし、経営陣の意識改革をはじめ、同じ企業に所属する全員が自分ごと化し視点を上げることができれば、日本のDX普及率は上がっていくであろう。

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