第38回 Next Retail Lab フォーラム「『ビューティーテック先進企業が明かす』OMO大国ニッポン」ゲスト:磯崎順信氏・吉川拓伸氏―化粧品業界の挑戦―


2021年5月27日、『「ビューティーテック先進企業が明かす」OMO大国ニッポン』というテーマで第38回Next Retail Labフォーラムが開催された。 Next Retail Labは、小売りの未来を考えるシンクタンクコミュニティで、D4DRも企画・運営に携わっている団体である。

今回はパーフェクト株式会社代表取締役である磯崎順信氏、 資生堂ジャパン株式会社(現 資生堂インタラクティブビューティ株式会社)オムニエクスペリエンス推進部グループマネージャーである吉川拓伸氏をゲストとしてお招きした。

化粧品業界のEC率は6%(2020年)と、国内業界全体の中でも低い状況下にある。コロナ禍によって急務の課題となったEC化。これから化粧品業界はどのように進んでいけばいいのか、どのような形へと変化するのかをゲスト二人と議論した。

美容とITの融合「ビューティーテック」と「OMO」

ビューティーテックとは、スキンケアやメイクなど美容分野においてデジタル技術を導入し、個別最適化(パーソナライズ)を図ることである。このような動きが国内の化粧品業界でも近年少しずつ始まってきていた。その動きをさらに加速させたのがコロナ禍である。

従来店頭で行われてきたようなテスターのお試しや触れるカウンセリングができなくなってしまった。さらに、人と会う機会の減少で、メイクアップへの意識が希薄になるなど、化粧品業界に大きな影響を与えるものとなっている。

このような影響の中で、「取り組むべきはOMO(店舗とデジタルの融合)」であるとゲストの二人は語る。

コスメとデジタルにおける課題

国内化粧品業界のEC率が6%と前述したが、なぜ海外の化粧品業界や国内の他の業界に遅れを取っているのか。そこには「日本」「コスメ市場」という二つの特殊性がある。

まず日本という国は、コンパクトな都市が多く、発達した鉄道があり、化粧品を扱う店舗数も多い。そのため何かのついでに気軽に店舗に立ち寄れるため、デジタル化する必要性がさほど求められていなかった。

また日本の化粧品売り場には美容部員のおもてなしが大きな付加価値としてついている。丁寧なカウンセリングを行い、購入時には美しいペーパーバックで店舗を出るまで付き添いがある。そのようなおもてなしは日常的に味わえない特別感を演出している。そしてコスメは、香りや触感といった繊細な感覚が非常に重要視されるものである。デジタルでは再現できない感覚がコスメには存在する。

このような「日本」「コスメ市場」の特殊性が相まって、国内のEC率が依然として低くても店頭での取り組みが優先されてきた。

出典:資生堂

強みを生かしたOMOの在り方

以上のようにコスメとデジタルの課題はあるものの、リアル店舗が強いからOMOのチャンスがあるともいえる。国内のドラッグストアにバーチャルメイクのQRコードを設置したところ反響は大きかった。つまり「消費者はデジタルを使うが、店頭を好む」と磯崎氏は述べる。

デジタルの課題を店舗の強みとして捉え、店舗の強みをいつでもどこでも提供できるようにするためにデジタル技術を導入することが化粧品業界のOMOの在り方となる。

顧客の満足度が高い有意義な購買体験ができるサービスの導入が必要であり、そこには美容部員とのやりとりやおもてなしサービスの提供といったリアルでの強みとバーチャルメイクやWebカウンセリングといった、いつでもどこでも手軽に体験・購入ができるデジタルの強みが両立しなければならない。

そのためにはどちらか一方を重視したり、分断したりして考えず、店舗でもデジタルでも同じ体験ができ、垣根を感じさせない在り方が求められていく。

ビューティーテック先進企業の取組

では、ビューティーテック先進企業である資生堂株式会社は具体的にどのような取り組みを行っているのか。事例とともに紹介していく。

Beauty Techアセット強化

コロナ禍以前から導入されていた肌診断や、バーチャルメイクだけではなく、コロナ禍で需要が高まっているオンライン会議用のバーチャルメイクなど幅を広げている。

また、アプリではなく、クラウドで展開することで、店頭QR、Webカウンセリングにも活用でき、店舗や消費者の負担を軽減し、気軽にデジタルにアクセスできる環境構築をしている。

出典:資生堂

美容部員のツール強化

これまでの美容部員はお店で”待つ”というスタンスだったが、デジタルに”出ていく”というスタンスにも注力している。

   出典:資生堂

SNSでの情報発信やライブ配信での視聴者とのコミュニケーション機会の拡大、Web上での1対1のカウンセリングといったデジタル上でも店頭と同じような体験ができ、かつ美容部員と顧客のつながりを大切にするサービスを強化した。

また、カウンセリングの結果などを紙ではなくデジタルで提供することで個別のデータを管理し、どこでも同じサービスを受けられるサービスを提供し、店舗とデジタルが統合した形を実現した。

リアル店舗のDX

銀座に完全非接触型でバーチャル体験ができる「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE」をオープンした。トライアルから購入に至るまでの全ての体験を人と接触する必要がない。近くには美容部員も待機しており、細かい要望などにも対応することができる。

また、店舗と連携したバーチャルストアも公式ECサイトに設置されており、VRで店内を周り、動画でコンテンツが視聴でき、ECサイトで購入まででき、店舗に行かなくても店舗と同じ体験ができる。

出典:資生堂

一人ひとりに寄り添った未来へ

化粧品業界はOMOに向けて活発な取り組みが増えているが、まだ模索の段階であることがひしひしと伝わってきた。しかし、お客様にきれいになってもらいたいという意識のもとで、そのために何ができるかを考え、前向きにサービスの提供について考えていた。

デジタル技術の導入は、利便性だけでなく、一人ひとりに寄り添ったサービス提供を実現させるための手段であり、デジタル技術を導入しても、最後には人と人のつながりが重要になるとディスカッションの話題として挙げられていた。

一人ひとりの顧客満足度を高めるためにどのようなサービスを提供できるのか。またどうやってリアルとデジタルを両立させていくのか。これからも化粧品業界の挑戦は続いていく。