ニューノーマル時代の食品スーパーのDX戦略―スーパーアプリ時代の顧客獲得成功ポイントとは―(Next Retail Lab.第34回)


2020年12月10日、D4DRが企画・運営に関わる「Next Retail Lab(ネクストリテールラボ)フォーラム」第34回が、「ニューノーマル時代の食品スーパーのDX戦略」をテーマにオンラインで開催された。

ゲストに株式会社東急ストア デジタルマーケティング部 西澤 慧美氏と東急株式会社 経営企画室マーケティングIT推進グループ 吉井 光生氏を迎え、モデレーターは弊社代表の藤元が務めた。 東急ストア・東急グループのLINE施策を題材に、スーパーアプリを活用したDX戦略ついて議論した。

西澤氏、吉井氏の講演では、LINE公式アカウントの導入・運用を中心に、東急ストアのDXの取組みについてお話いただいた。

東急ストアのDXの取組

LINE導入のきっかけ

東急ストアでのLINE導入のきっかけは、消費増税を前にした2019年4月頃、スーパー業界でもキャッシュレス決済の導入が進んだことだったという。東急ストアでも6月からLINE Payの試験導入を開始し、それを機に決済手段以外でのLINE活用にも着目した形だ。

LINE導入以前は、チラシ、レシートクーポン、ネイティブアプリを用いたマス販促しか行っておらず、ネイティブアプリについてはDL数が伸びず、運用や新機能の開発に課題を抱えていた。

9月末に東急ストアLINE公式アカウントを開設。2020年12月現在の友だち数は20万人弱、ブロック率、東急グループの共通ポイント「TOKYU POINT」との連携率も良好な数値であるという。

なお、吉井氏によると、LINE活用は東急ストアだけではなく、東急グループ各社で共通の基盤を作って実施している。今後はLINEのIDをグループ各社共通で活用しようとしているそうだ。

ポイントカード会員連携と店舗登録

東急ストアのLINE施策は、TOKYU POINT会員連携と店舗登録の2つをベースに行われている。会員連携によって、前月の購買情報でセグメントを分け、ターゲット別にインセンティブを設定したクーポン配信を行える。店舗登録情報はチラシの閲覧や店舗別のメッセージ配信に使用している。

友だち獲得は、LINE Pay決済、店内告知ツール、東急グループのメルマガを活用して行っている。LINE Pay決済では毎月100件以上の新規友だちを獲得。来店顧客向けには、店頭POPやレシートを活用し、3ヶ月で友だち数4倍を達成したそうだ。

顧客獲得成功の3つのポイント

西澤氏は、一連の取組みを通して見えてきた、スーパーアプリを活用した顧客獲得成功の3つのポイントを挙げた。

  • デジタル上の顧客接点を作りやすいプラットフォームを活用する
  • スーパーの一番の顧客接点である「お店」を最大限活用する
  • 本部主導になりすぎず、各店長を巻き込んだ取り組みにする

1つ目は、ミニアプリを活用し、顧客接点を日常的に使用しているスーパーアプリ上に構築すること。2つ目は、店舗を最大限活用して、ロイヤリティを持っている顧客をキャッチすること。最後に、本部からの押し付けではなく、現場を最もよく知る店長にタイムリーにデータが集まり、手を打てる環境を作ることが成功のポイントであると西澤氏は指摘した。

食品スーパーのDX戦略はどうあるべきか(ディスカッション)

講演後は、NRLフェローのロケスタ株式会社 長谷川 秀樹氏、スタイルビズ 村山 らむね氏、LINE株式会社 比企 宏之氏らを交え、ディスカッションを行った。トピックは東急グループのDXの取組、企業のDXにおけるミニアプリの位置付け、食品スーパーの流通など、幅広い領域に及んだ。ここでは、その一部を抜粋して掲載する。

店舗でのデータ活用について

藤元(モデレーター):
講演で、店長を巻き込んだ施策の中で、店舗別データをBIツールで展開しているとあったが、どんなツールを使っているか。

吉井氏:
Tableauを使って、東急グループに提供できるように、会員データを中心にデータを揃えている。その中にLINEのデータも整備している。TOKYU POINTとLINEを連携している人の場合、お買上金額によるランク別の人数を店舗別に見られるようにしている。

西澤氏:
店長が集まる毎月の会議でツールについて説明したりしていた。普段の店舗業務でデータを見る時間がなかなか無い中で、いかに役立てるかを考えた。自分の店舗でLINEに登録している人が何人いるかがリアルタイムで見られることがモチベーションに繋がっている場合もある。

東急グループのLINE施策について

フェロー:
LINE活用で、どのように売上を上げようと考えているのか。

吉井氏:
LINEの共通IDを使って、顧客基盤を一つにまとめようとしている。東急グループは会社間のサービスの親和性が高く、一つのサービスを利用すると、他のサービスも東急で、ということが多くある。今まではグループ各社が独自で顧客基盤を整備していたが、共通IDで相互送客できるようにしたい。

フェロー:
TOKYU POINTカードや、東急ロイヤリティクラブなどの既存の施策ではそれは実現できないということか。

吉井氏:
TOKYU POINTは沿線全域で効果があるわけではない。沿線の端のエリアではカバレッジが低い。会員の年齢層も高いため、カバレッジを沿線全体に広げ、若い層も取り込むことが課題だった。その解決策の一つとしてLINEを選んでいる。

スーパーアプリ活用について

フェロー:
東急グループの取組は、オフラインDXの体現として他社からも注目されている。LINE活用では、ミニアプリもLIFF(LINE Front-end Framework)も全部使って、こういう体験を実現するならミニアプリだよね、という考え方をしていて、ツールに振り回されていない。

吉井氏:
ミニアプリはあくまで手段の一つなので、あくまで顧客ファーストでそれありきでは考えないようにしている。運営側の現場を置き去りにしないことも大事。例えば、モバイルオーダーの実証実験では、アプリをそのまま使わず、現場のオペレーションを考慮してペインポイントを修正した。

フェロー:
ユーザー視点からは、レジでいろいろな動作をしなければならず、その上ポイントを貯めるアプリと決済アプリを両方開くことを負担に感じる。買い物という目的を達成するための作業が短時間でミニマムで済めば、それがミニアプリでもネイティブアプリでも、どんな形でも構わないと思っている。

フェロー:
その点、ミニアプリはLINEがインストールされていればQRを読み込めばいいだけなのでフリクションレスでサービスを受けられる利点がある。


後半の議論では、上記の内容の他に、モバイルオーダーの実証実験や、LINEで収集した意見を使ったフードロス削減の試みなどについても伺うことができた。

決済のデジタル化や、レジ袋の有料化、コロナ禍の巣ごもり消費拡大など、さまざまな要因で食品スーパーの店舗における生活者の体験は変化している 。東急ストアのLINE施策では、TOKYU POINT会員連携で既存の仕組みを活かしながら、スーパーアプリ上のミニアプリの利点を発揮している。 デジタル上での顧客接点も変化を迫られており、スーパーアプリ活用はそのための有力な手段の一つであると感じた。