競合企業の動向調査から自社戦略へ(企業ベンチマーク調査事例)

前回は新規参入のための企業調査をご紹介いたしましたが、今回は自社と真正面から競合している企業を調査した事例をご紹介いたします。

なお今回もデータはダミーであることをご了承ください。

事例2「競合企業ベンチマーク調査」(学習塾)

調査概要

目的と背景

クライアント企業は、ある市場で古参ともいえるような古くから事業を営んでいました。しかし昨今新規参入が相次ぎ、新規参入ながら好調を維持し、このままいくと売上高、収益性など自社を脅かす存在になり得る企業が現れました。そこで、急成長している新規企業への対策を講じるために、当該企業の急成長の秘密を明確にすることを意図して調査を実施しました。

競合関係が激しくなってきた市場

FC(フランチャイズ)型個別指導型学習塾

調査対象

・老舗大手企業A社
・ 新規参入ではあるが着実に成長している企業B社

合計2社

調査項目

(1)企業の収益性

(2)個別指導塾セグメントの収益性

(3)FC戦略
・成功要因
・ブランディング
・競合との差別化ポイント
・FC加盟者の評価
・FCのビジネスモデル(投資回収期間、支援内容、本部支援体制)

(4)FC加盟店舗の開発戦術

(5)個別指導塾市場の将来像

(6)当該市場での自社の立ち位置と目指すべき姿

調査期間

約3週間

調査方法

A)調査対象企業本社、支社、教室などの施設に対するヒアリング
・本社=経営企画部のような部署を中心にFC開発(営業)部門、加盟社をサポートするFC支援部門
・支社=エリアの営業担当者
・教室=教室長

B)調査対象企業と取引のある銀行や企業に対するヒアリング(いわゆる裏とり調査)

調査費用<目安>

1社150万円~
なお、企業調査は、オープンデータに基づく調査、当該企業等へのヒアリングを行います。企業規模の大小にかかわらず1社あたりの調査費用はほぼ変わりません。

調査結果

2社の調査を踏まえ、以下のような結論(一部抜粋)を導き出しました。

学習塾市場の現状

学習塾・予備校業界は、教育資金に関して祖父母からの一括贈与が2013年度より非課税となるなど、税制改正が実施されることで活性化が期待されています。

A社のような老舗大手企業は本業の学習塾だけでなく、未就学児向けスクール、小学校受験用塾、スポーツ塾、医療系特化塾など幼児から予備校生まで幅広い年齢層を対象に教育活動を進めているため、この税制改正をA社は、更なる成長拡大の好機になるものとして注目しています。

またB社は、本業は同じ小中学生を教えるビジネスをしていて、その知名度で個別指導塾市場に参入し成功を収め注目されている企業です。“個別指導塾”に限っては、今大きな追い風を受けている状況のようで、少子化により、子ども一人にかける学習費の比重が高まってきています。

そのため集団塾よりも丁寧に、きめ細かな指導が行える個別指導塾のニーズは今後も拡大すると両社とも見込んでいます。

A社は、ドミナント戦略をとり販促に力を入れて、教育システムとして急成長しているタイプです。反対にB社は、成長スピードは遅く利益も出にくいものの、高付加価値の授業を行うタイプの塾です。

なお両社とも今後は高付加価値型がより伸長すると考えられているようです。

当該市場の将来

〇課題
当業界の課題は、高付加価値型個別指導塾が増えることにより講師の確保である。個別指導塾は「講師の質=授業の質=生徒の学習意欲」となるから、よりよい講師の確保が生徒の募集に影響を及ぼし、企業の収益に直結している。

〇市場性
少子化が進むなかでも、個別指導塾学習塾は順調な伸びを示している(グラフ)。
伸びている市場であるからこそ、新規参入が相次ぎ、講師と生徒の取り合いが発生しています。 新規参入企業は、講師の確保のために高額な報酬を支払うようになってきており、各塾の収益を圧迫しているようです。

今後は、個別指導塾以外の塾事業がしっかりしているか、多角化で学習塾以外の事業が成功を収めていて資金力が豊富な企業が生き残る市場と言えそうです。個別指導塾の需要は年々高くなっており有望な市場ですが、周り塾が淘汰されるまで「じっくり待つことができる」企業が最終的な勝利者になるとA社、B社ともに推測しています。

各社別調査の結果抜粋

〇各社の売上高内訳と解説

≪A社≫
A社の業績は、売上高全体では前年同期比0.3%減でしたが、個別指導塾のFCセグメントの営業利益は14.2%増となっています。
教室数が前年同期比10教室減の205教室となったことで、在籍生徒数が同0.8%減と微減となり、売上高の伸び悩みの要因となっています。
また、1教室当たりの平均生徒数が68.8人から65.8へと減少しています。そのため、ロイヤルティ収入は同0.5%減となったものの、教材売上の増加によってFC事業としては減収であったが増益を維持しています(表)。

≪B社≫
B社の場合、個別指導塾部門はまだ黒字化まで達していないようです。とはいえ、毎年増収増益であり。またFCでの展開が主となっていますが、元々のビジネスもFC展開で成功を収めており、元々のビジネスのクロスセル的な営業手法でオーナー候補には困らないようです。

〇成功要因
A社は知名度を背景に全国展開を行い、生徒募集はマスメディアを活用することが中心となっています。
反対にB社は元々の本業である英語教室はマスメディアを活用していますが、個別指導塾は「口コミ」重視のA社とは正反対の戦術で戦っています。

また、成長要因もA社が、ドミナント戦略による大規模多店舗展開に対してB社は急激な店舗増ではなく、質の高い講師の採用に合わせた展開を行っています。

どちらか一方が正解というわけではありません。両方とも収益を上げ、生徒を集めていますので、どちらの戦術も正解でしょう。

ただ、両社とも最初に決めた方向性をブレずに突き進んでいることが成功している要因と思われます。突き詰めてやりきることが重要なのでしょう。

≪A社≫
・ FC展開でのA社の強み
-個別指導のパイオニア→知名度が高い
-全国に開校している
-90分授業で問題を解き、できなかった問題を全教室で共有化→集積された巨大なバックデータがある
-安価、個別、CMといった親に響くマーケティング活動の実施

・A社成長要因
-多額の広告宣伝費(特にCM)により知名度がアップし生徒を短期間で多く集めることができる→初期投資の回収が短期間で済む
-ドミナント戦略による当該地域のシェア−独占化
-比較的安価な価格設定
-FC加盟者の利益を確実に確保できる業態→FC加盟者の他塾への流出防止
-新たな教室システムの導入により、本部やFC加盟企業でリアルタイムに数値が把握で、対策が講じられる
-マルチフラチャイジーやメガフランチャイジーを認めている
-予備校、スポーツ塾、外国人向け塾など多角的なビジネスを展開している

≪B社≫
・ FC展開でのB社の強み
-講師の確保力が高く、授業の高い質と安定している
-加盟候補者が多く存在している→全くの新規加盟を募らなくても問題がない程度存在
-他の事業で培った、テキスト、人材育成方法などノウハウがそのまま活用できる

・B社成長要因
-英語塾の知名度が利用できた
-高価格であるが、講師、授業の質がよいため「口コミ」が有効
-比較的成績が上位の子供にも満足される授業を行っている
-ある構造によって上位大学の学生を講師採用できている→講師・授業の質の向上により、他塾と差別化でき、良い評判が広がった
-授業の質の維持のため、1対1または1対2の授業中心
-私立の中高一貫校(名門校のイメージが強い)の補習塾として認知されている
-多額の広告宣伝費(特にCM)により知名度がアップし生徒を短期間で多く集めることができる→初期投資の回収が短期間で済む

特にB社では講師の育成に注力しているようです。

他塾に比べ、「教えること」「授業の内容」について教育するのではなく、如何にモチベーションを維持するか、生徒に維持させるかが主眼となっているようです。
そのため講師育成は、必ず「座学→グループワークショップ→各グループプレゼン」という流れで行われています。
また全体研修も盛んに行われており、原則、講師は全員参加となっています。そこでもグループワークは欠かせないようです(写真はB社研修のイメージ)。

〇本部支援:SV(スーパーバイザー)活動について

FC加盟店へのの本部支援の代表はスーパーバイザー(SV)と言えるでしょう。
両社はSVに関する方向性も異なっています。

≪A社≫
A社の本部SVは在籍していますが、業務範囲は各教室の営業数値の管理と本部からの情報を伝える程度のようです。
本来のSV業務(売上高管理、販促支援など)は、エリア長(エリアマネージャー)や教室長が行っています(一説には本部SVは「教室長が勤まらなかったから本部で面倒をみている」という意見もあるようです)。
A社は、本部SVへの期待は本部と加盟企業や教室とのすみやかな意思疎通のために存在しているとコメントしており、本部SVにエース級の社員が投入されているとは思えません。

ただし、昨今SVの指導力の有無は訴訟に発展することもあるので、A社においても経験任せのエリアマネージャーから本業のSVを育成するため外部機関やFC協会などのSV講座を受講させ、人材の育成に努めています。

≪B社≫
B社のSVはA社と異なりSVを専任業務としており、新規開業教室には半年程度は、ほぼ教室に入りきりになり、塾運営の仕方、生徒の扱い方、地域住民との接触の仕方、講師の採用・教育・マネジメント・モチベーションの作り方などをオーナーや教室長に徹底的に指導しています。

言うなればB社のエース級社員が登用されているようです。

おわりに

第2回目の事例紹介は以上です。

A社、B社とも個別指導塾では有名な二社ですが、出店やFC、SVの行動など、ほとんど全ての点で逆の取り組みを行っています。

それでも、両社とも増益となっています。調査が終了して依頼主であるクライアントに報告したところ、「両極端の企業を比較できた。今後は中途半端なことをやるのではなく、徹底的に一つの道を歩むべきという道しるべになった」とコメントしていただけました。

競合企業調査は、競合のことが把握できることはもちろんですが、自社についても再度見直す機会になっているようです。

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