【新規事業×市場調査】他社の成功要因・失敗要因の調査手法と事例
はじめに
新規事業の立ち上げは、多くの企業にとって成長戦略の中核をなすものです。しかし、新規事業の成功率は決して高くなく、さまざまな調査によれば、新たに立ち上げた事業の多くが数年以内に撤退または縮小を余儀なくされるという現実があります。
その一方で、失敗の裏には必ず「学び」があります。そして、その学びを体系的に収集・分析する手法こそが「市場調査」です。特に、自社だけでなく他社の成功事例・失敗事例を深く掘り下げることは、自社の新規事業戦略をより確かなものにするための重要なプロセスとなっています。
本記事では、新規事業開発における他社の成功要因・失敗要因を調査することの意義と具体的な手法について解説するとともに、業界をまたいだ実際の事例を通じて、簡易的に示唆出しまでを実践いたします。
他社の成功要因・失敗要因を調査することの重要性
「失敗の再現」を防ぐリスクヘッジ
新規事業においては、ゼロから仮説を立てて検証するよりも、すでに他社が経験した失敗のパターンを把握することで、同じ轍を踏まないようにすることができます。市場における「既知のリスク」を事前に把握できれば、それだけ自社の検証コストや時間を大幅に削減できます。
たとえば、ある市場で複数の企業が「早期参入したが顧客獲得コストが高すぎて撤退した」という共通パターンがあれば、後発企業はその市場参入時にLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスを最重視した事業設計を行うべきという示唆が得られます。
成功要因の「再現性」を見極める
成功事例を調査する際に重要なのは、その成功が「再現可能な要因」によるものか、それとも「特定の時代・環境・人材に依存した偶発的な要因」によるものかを見極めることです。
たとえば、創業者のカリスマ性や特定のタイミング(コロナ禍特需など)による成功は、他社が同じ戦略を取っても再現できない可能性があります。一方で、「顧客の深い課題理解に基づいたプロダクト設計」「反復可能な営業モデルの構築」「データドリブンな意思決定プロセス」といった要素は、業種を超えて再現性のある成功要因として多くの事例で共通して見られます。
仮説の精度を高める「外部視点」の獲得
新規事業担当者は、どうしても自社の強みや既存のビジネスモデルを軸に思考してしまいがちです。そこで他社事例を徹底的に調査することで、自社の思考の「盲点」を補う外部視点を獲得できます。特に異業種の成功・失敗から類比的な学びを得ることは、既存の業界常識にとらわれない革新的な事業仮説の構築に貢献します。
他社の成功要因・失敗要因を調査する手法
デスクリサーチ
まずはじめに取り組むべきなのが、公開情報を活用したデスクリサーチです。有価証券報告書、決算説明資料、プレスリリース、業界誌・ビジネスメディアの記事などを体系的に収集・分析します。IPO企業の目論見書や事業計画書などは、事業の立ち上げ期から成長期にかけての戦略変遷や意思決定の背景を把握できる貴重な一次資料です。
また、失敗事例については創業者・経営者のインタビュー記事、SNSでの発信、書籍・講演などでの振り返り発言も重要な情報源となります。近年では、失敗を語る文化が日本のスタートアップ界隈でも広まりつつあり、率直な失敗の振り返りを公開している事例も増えています。
インタビュー調査
デスクリサーチで仮説を立てた後は、実際に当事者や関係者へのインタビューによって一次情報を収集することで精度を高めます。対象としては、他社の新規事業担当者、元従業員、業界アナリスト、投資家、顧客などが挙げられます。特に「なぜその意思決定をしたのか」というプロセスの内側に迫ることで、表面的な情報では見えない本質的な成功・失敗要因が浮かび上がることがあります。
競合・参照事例のフレームワーク分析
収集した情報をただ蓄積するだけでなく、フレームワークを用いて構造化することが重要です。代表的な手法として以下が挙げられます。
- SWOT分析:対象企業の強み・弱み・機会・脅威を整理し、なぜその事業が伸びたのか・失敗したのかを多角的に分析する
- バリューチェーン分析:事業のどの工程で価値が生まれているのか、あるいはコストが過剰になっているのかを可視化する
他にも競合調査に関連するフレームワークは多々ありますが、本記事では割愛いたします。フレームワーク分析の詳細が気になる方は以下を参考にしてください。
- 3C分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
- SWOT分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
- ファイブフォース分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
- PEST分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
- VRIO分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
- PPM分析とは?実践的活用法と事例を交えて解説
実践事例① ~ サブスクリプション型フィットネスサービスの成功と失敗~
事例の背景
スマートフォンの普及とコロナ禍を契機に、自宅でトレーニングができるデジタルフィットネス市場が急速に拡大しました。この市場には複数のプレイヤーが参入しましたが、その成否は大きく分かれました。
成功企業の要因分析
成功した企業は、単なる動画配信プラットフォームを超えた「コミュニティ体験」を提供することで差別化を実現しました。トレーナーをインフルエンサーとして育成し、ユーザー同士が励まし合うSNS的な仕組みを製品に組み込むことで、継続率(リテンション率)を業界平均の2倍以上に高めることに成功しています。
また、ハードウェア(高品質なエクササイズ機器)とソフトウェア(コンテンツサブスク)を一体化させたビジネスモデルにより、顧客のスイッチングコストを高め、LTVを最大化する構造を作り上げました。初期費用をやや高めに設定することで、「本気で続けようとしている顧客」のみを獲得するセグメンテーションにもなっていました。
失敗企業の要因分析
一方、同時期に参入して失敗した企業の多くは、「デジタルコンテンツの提供」のみに特化し、コミュニティやリテンションの仕組みを後回しにしていました。月額料金を低く設定しすぎたために、顧客の真剣度(コミットメント)が低く、解約率が高くなる悪循環に陥りました。
また、マーケティングコストを過大に投下したものの、プロダクトの磨き込みが不十分なまま拡大路線を走ったため、解約が先行してユニットエコノミクスが崩れました。プロダクト・マーケット・フィットを確認する前にスケールしてしまった典型的な失敗です。
【事例①まとめ】
実践事例② ~ 中小企業向けSaaSの立ち上げにおける明暗~
事例の背景
デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流を受け、中小企業向けの業務効率化SaaSが多数登場しました。特に、勤怠管理・請求書処理・経費精算などのバックオフィス業務のデジタル化を支援するサービスは多くのプレイヤーが争う激戦市場となりました。
成功企業の要因分析
この市場で成功した企業の共通点は、「シンプルさ」へのこだわりと「オンボーディングの徹底」にありました。中小企業のユーザーはIT専任担当者がいないケースが多く、導入・設定・運用のすべてが直感的に行えることが最重要要件でした。
成功企業は、機能の多寡よりも「最初の1週間で成功体験を得られるか」を製品設計の最優先指標として設定し、カスタマーサクセスへの先行投資を惜しみませんでした。また、初期は特定の業種・規模・地域に集中したニッチ戦略を取り、そこでの圧倒的な事例を作ってから水平展開するアプローチが奏功しました。
さらに、既存の会計ソフトや金融機関サービスとのAPIによるシームレスな連携を早期から実現したことで、「既存のワークフローを壊さずに導入できる」という大きな採用障壁の解消にも成功しました。
失敗企業の要因分析
失敗したプレイヤーは、多くの場合「機能の充実」を競争優位の源泉と捉え、次々と機能を追加し続けました。その結果、製品は複雑化し、中小企業ユーザーには使いこなせない「機能過多」に陥りました。初期解約(チャーン)が止まらず、LTVが計算できない状態が続きました。
また、顧客開拓においても「誰にでも使えるプロダクト」として広くターゲットを設定しすぎたため、マーケティングメッセージが拡散し、特定の顧客層に刺さる訴求ができませんでした。ペルソナの不在による戦略の分散が失敗の本質的な要因です。
さらに、顧客の声を収集するフィードバックループが機能しておらず、プロダクトの改善が市場ニーズではなく社内の仮説に基づいて行われていた点も見逃せません。「作る→売る」のサイクルだけが回り、「顧客の声を聞く」プロセスが欠如していました。
【事例②まとめ】
まとめ
本記事では、新規事業開発における他社の成功・失敗要因の調査の重要性と手法を解説し、2つの業界事例を通じて簡易的な示唆出しを実践してみました。
2つの事例から浮かび上がる共通の示唆は以下の3点であると考えられます。
- プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を確認する前にスケールしない:どちらの事例においても、失敗企業はPMFが不十分な段階で拡大投資を行い、ユニットエコノミクスの悪化を招いていました。成功企業はまず「誰かにとって本当に必要とされる状態」を確認してから、段階的にスケールしています。
- 顧客との継続的な接点を仕組み化する:成功企業はいずれも、顧客が「離れにくくなる構造」や「フィードバックが自然に集まる仕組み」を製品・サービスに組み込んでいます。一方失敗企業は、顧客との接点が弱く、市場の変化や顧客ニーズの変化への対応が後手に回っていました。
- 「選択と集中」による初期の勝ちパターン構築:広くターゲットを設定することは魅力的に見えますが、新規事業の初期段階においては「誰か特定の人にとって圧倒的に良い」状態を作ることの方が、長期的な成長につながります。ニッチで勝ち、そこを起点に水平展開する戦略は、多くの成功事例に共通して見られるアプローチです。
他社の成功・失敗から学んだ示唆を、自社の新規事業にどう転換・適用するかが、新規事業を成功へと導く鍵となります。
本記事では実践事例として、あくまで簡易的に他社の成功要因や失敗要因を考えましたが、D4DRではより深く、他社の経験や考えを調査することができます。
新規事業で失敗しないために、調査を検討している方やどのように調査すべきかお悩みの方はお気軽にお問合せください。
Sho Sato
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