<イベント報告>パルコのOMO戦略に学ぶ、ショッピングセンターが果たすべき役割の変化


D4DRが企画・運営に携わる「Next Retail Labフォーラム」第31回は「アフターコロナ現場からのアプローチと消費者の変化」をテーマとして、前回に引き続きオンラインで開催された。

ゲストには株式会社パルコ執行役員・株式会社パルコデジタルマーケティング取締役の林直孝さんを迎え、モデレーターは弊社代表の藤元が務めた。緊急事態宣言が解除されたばかりの状況で、リテールの現場に起こっている変化や、これからショッピングセンター(以下SC)や百貨店が提供していくべき価値について議論を交わした。

■登壇者プロフィール(敬称略)

林 直孝
株式会社パルコ執行役員 デジタル推進部・CRM推進部兼デジタル推進部担当
株式会社パルコデジタルマーケティング取締役
パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web 事業を行うグループ企業の株式会社パルコ・シティ(現株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。
2013年に新設された「WEBコミユニケーション部」にてPARCO のデジタルマーケティング及びオムニチャネル化を推進。
2017年より「グループCIT戦略室」にて、SCのDX (デジタルトランスフオーメーション)を具現化するため『デジタルSCプラットフォーム』戦略の推進を担当。
2020年3月より現職。

■フェロー(敬称略・五十音順)

川連一豊  JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事
高野一朗  フリーランス 代表
竹信瑞基  株式会社カウンターワークス 新規事業開発準備室
玉木欽也  青山学院大学経営学部経営学科 教授
坂野泰士  有限会社シンプル研究所 代表
比企宏之  LINE株式会社 Developer Relations室 Technical(Evangelismチーム/マネージャー 広告事業本部 OMO販促事業推進室 プラットホーム事業開発室)
樋口進   株式会社シンクエージェント 代表取締役
逸見光次郎 株式会社CaTラボ 代表取締役
松本阿礼  ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター研究員
村山らむね 有限会社スタイルビズ 代表取締役

アフターデジタル時代に向けた戦略はwithコロナ時代にも有効

林さんの講演では、まず今回の時短営業や休業を経て現れた変化について、そして以前からアフターデジタル時代を意識してきた取り組みが休業期間にも功を奏したというデータを示した上で、withコロナ時代にSCが求められる役割の考察を聞くことができた。
林さんは、営業再開後の売上の変化などから「なるべく短い滞在時間で、人と接触せずに欲しいものを買いたい」というニーズが生活者にあると説明した。一方、これまでSCが担ってきたのは「不要不急」とされた欲求を満たすものであったことが、コロナ禍で可視化されたとも言う。それはつまりSCや百貨店が、セレンディピティや、接客を通じて「信頼できる他人に背中を押してもらえる安心感」を提供する場所であることの証左である。


もともと、林さんはアフターデジタル時代を意識したOMOなどの対応を推進してきたとのこと。それは、SCや百貨店の価値が商品そのものではなく購買に紐づく一連の体験にシフトしていく中で、来店前から来店後までのそれぞれのタイミングで接点を確保する必要があるためだ。アプリ「ポケットパルコ」もその一例である。緊急事態宣言により、ほぼ全館の休業を余儀なくされた期間中にも、アプリのアクティブユーザーのロイヤリティは高いことがデータに現れ、そのような施策の重要性を示すこととなった。


パルコでは、営業再開後も感染リスクを抑えて体験できるオンラインとオフラインを組み合わせた新しい取り組みを行っている。また、来店してもしなくても商品やブランドと出会うことができ、ほしい商品は確実に手に入るという価値も引き続き追求していく。
様々なブランドが集まるところだからこそ、顧客とブランドの出会いのプラットフォームというSCの役割は不変だ。ともすれば世相の変化のほうに注意が傾きがちだが、反対に変化しないものとは何か、変わらない価値を提供しつづけるにはどうすればよいのか、ということを考えなければならないと林さんは強調した。

顧客理解を深めるためのデータシェア

ここで、弊社の自主調査についても講演を行った。コロナ禍において、Instagramで各ブランドがどのような施策を行っているか、また飲食店のテイクアウトに関する投稿がどのように増えたか、それぞれの分析と考察を共有した。こちらについては後日別の記事で詳しく触れるため、ここでは割愛する。


続いての参加者からの質問では、テナントとSCやデベロッパーとの関係にも注目が集まった。
今回のパンデミックでは、店舗への集客ができない分オンライン上で接客を行う試みも進んだ。リアルで顔を合わせなくても心地の良いコミュニケーションを取ることが可能ということが分かったことを踏まえると、そのノウハウを持たないテナントにも提供できるようにすることは、これからのSCの役割の一つと言える。
また、SCにはSCにしか、テナントにはテナントにしか取れないデータがあることも事実だ。withコロナ・アフターデジタル時代にも成長を続けるには、それぞれの持つ顧客や購買データに関する情報を各々のために活用するだけではなく、匿名性やプライバシーに配慮した上で共有し、顧客の理解を深めることで全体としての価値を上げていくことが必要である。

変化の渦中にこそ変わらない価値と果たすべき役割が明確になる

以前より起こりつつあった生活者の価値観や行動の変化が、パンデミックの影響で図らずも一気に加速することとなった。オンラインとオフラインの境界も融け、価値提供の仕方がさらに多様化していくことであろう。
一方、買い物におけるワクワク感やセレンディピティ、「背中を押してもらえる安心感」といった要素へのニーズは変わらない。ブランドと顧客の出会いの場を担うSCとして、これらの価値を提供することがこれまで以上に求められる。そして、そのためにはテナントとの協力も欠かせない。また、テナント同士で接客ノウハウやデジタル戦略などを共有できる場であることも、SCの重要な役割になっていくと考えられる。
withコロナ・アフターデジタル時代には、SCとテナントのような関係だけでなく、たとえ競合同士でもデータなどの非競争領域で連携を深めることが、社会全体を良くすることに繋がる。企業のミッションやビジョン以上にパーパスが注目されているように、これからは、そのような全体最適の考え方を念頭に置いて戦略を練る必要がありそうだ。