『ニューヨーク市警察の捜査における人種差別の有無のロジスティック回帰分析:分析編』(ちょいみる統計)

前回「導入編」では、アメリカの警察や人種問題について問題提起をしました。これからお送りする「分析編」ではこの問題に対し、統計学的なアプローチをかけることによって少しでも問題の本質について解明できるようにすることが目標です。そのために、まず人口統計や犯罪統計の集計をまとめ、俯瞰的な分析をし、その後より詳細にロジスティック回帰分析を用いたいと思います。

前編 『ニューヨーク市警察の捜査における人種差別の有無のロジスティック回帰分析:導入編』 
後編 『ニューヨーク市警察の捜査における人種差別の有無のロジスティック回帰分析:分析編』 ←今回

データ

今回主に使用するデータは、前回紹介したように、ニューヨーク市警察の公開しているオープンデータです(http://www.nyc.gov/html/nypd/html/analysis_and_planning/stop_question_and_frisk_report.shtml)。またそれに加え、ニューヨーク市の人口統計および犯罪統計も使います(http://www.nyc.gov/html/nypd/downloads/pdf/analysis_and_planning/year_end_2015_enforcement_report.pdf)。データに関する説明は、導入編をご参照ください。

(注:Stop―職務質問、Frisk-身体検査、Arrest-逮捕)

データ俯瞰

先ほど述べた通り、本格的な統計分析を行う前に、ニューヨーク市の人口および犯罪における人種の違いについての大まかな傾向を俯瞰していきます(注:今回は簡略化のため、黒人・白人以外の人種は除いて考えます)。

グラフ①:NYCにおける犯罪、stop、人口の白人と黒人の割合

statics-002.2_1

ニューヨーク市はアメリカ最大の都市であり、非常に多様なことで知られています。人口に関しても、全米での比率が白人77%、黒人13%であるのに対し、ニューヨーク市では白人が45%、黒人が25%となっており、白人以外の人種が全米と比べて多いことが分かります。
では犯罪関連はどうかと言うと、グラフを見ると一目瞭然ですが、人口が少ないにも関わらず、黒人の占める割合が多くなっています。軽犯罪による逮捕者は、黒人が全体の40%であるのに対し、白人は20%です。さらに顕著なのは殺人罪で、黒人が逮捕者全体の60%を占めています。
似たように、Stop数においても黒人が白人よりも多い傾向にあります。白人のStop数は約2,500件、対して黒人のStop数は約1.2万件あります。

グラフ②:stopされた人のうち、friskまたはarrestされる割合

statics-002.2_2

次に、Stopされた人のうち、Friskされた人とArrestされた人の割合を見ます。Stop数を100%とすると、Friskされた黒人は71.25%であり、白人の55.07%よりも多いことが分かります。またArrestを見ると、黒人と白人とであまり差はないようです。

考察
データの俯瞰により、以下の二点が分かりました。

黒人の方が白人よりもStopされやすい
Stop、Frisk、Arrestと段階を追うごとに人種間の差は狭まっている

ただし、71%と55%が意味のある差であるかどうかは分かりません。あくまで目視による推察なので、より詳しく要因分析をする必要があるので、次にロジスティック回帰分析を行います。

ロジスティック回帰分析

ここでは実際に統計的手法を取ってデータを分析したいと思います。

ここでは主に容疑者の身体的特徴に着目し、モデルを構築します。まず、用いる変数は、

目的変数:身体検査の有無(frisked)、権力行使の有無(physical force: hands, wall, ground, weapon drawn)
説明変数(全て容疑者のもの):性別、身長、体重、年齢、人種

また、これらについて調べる際には、「逮捕されなかった人」、つまり無実なのに身体検査を受けた人・暴力を振るわれた人のみを使うことにします。そうすることによって、不当な捜査があったかどうかを見極めます。

結果

まず、人種を含めた総合モデルを見ると、Friskに関しては、性別、身長、年齢、人種が有意な要因であることが分かりました。つまり、男・黒人・身長が高い・年齢が低い方がFriskされやすいのです。特に、男である場合Friskされる確率が約3倍、黒人である場合Friskされる確率が2.1倍高くなるようです。
次に、権力行使に関しては、手による暴力(physical force: hands)が目的変数のときにのみ説明変数が有意でした(身体検査と同様に、同様に性別、身長、年齢、人種が有意的な要因であることが分かりました)。特に、男である場合手を使った暴力をふるわれる確率が約1.7倍、黒人である場合1.5倍高くなるようです。ただし、留意点として、これらは警官による事後報告であり、特に「手を使った暴力」という説明自体が曖昧であるため、実際にどれほどの暴力だったかは知りえません。例えば、手で相手を押さえつける場合と、相手を殴る場合では暴力の度合いが変わってきますが、そのような詳細な情報は残念ながら一切ありませんでした。

考察

以上の結果から、逮捕されなかった人のうち、黒人の方が身体検査および暴力(度合は不明)を受けることが判明しました。したがって、ニューヨーク市警察による捜査には何らかの人種的なバイアスがかかっていると結論付けることができます。
しかし、警察がその問題を放置しているわけではありません。ニューヨーク市警察は2016年後半から捜査の透明性を高めるための新たな制度を開始します。警官による全ての実力行使をより明確に記すことが義務付けられ、また警官による過度な暴力を他の警官が目撃した場合は報告義務が発生するようになります。これによって、透明性、説明責任、そして警官の教育においての向上が期待されています。

付録

以下はFriskedおよびphysical force: handsを目的変数としたロジスティック回帰モデルの各数値です。

Frisked
statics-002.2-3

Physical force: hands
statics-002.2-4
※1.87E-08の表記は1.87 × 〖10〗^(-8)を意味します。

出典

・United States Census Bureau「QuickFacts United States」
https://www.census.gov/quickfacts/table/PST045215/00
・New York Police Department「The Stop, Question, and Frisk Data 2015」
http://www.nyc.gov/html/nypd/html/analysis_and_planning/stop_question_and_frisk_report.shtml
・Shirley Chan & Karla Rama「NYPD implements new ‘use of force’ policies to curb physical confrontation」
NYPD implements new ‘use of force’ policies to curb physical confrontations
・Al Baker & J. David Goodman「New York Police Will Document Virtually All Instances of Force」

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