高齢者有利社会・若年層の諦念とは?
予想される未来社会の変化
- 超高齢社会の深化により、高齢者比率が上昇。若年層の絶対数が減少し、政治・市場・社会の重心が高齢者にシフトする。
- 社会保険維持・拡大(年金・医療)など、政治的インセンティブが高齢者向けに偏り、若年層への投資(教育・子育て)は後回しとなる。
- シニア雇用延長によりポストが詰まることで、若手の昇進・賃上げ機会の減少が起こる。
- 若者の努力に対するリターンへの期待が低減し、長期志向の崩壊(結婚・出産の回避、キャリア投資の縮小)、社会参加の低下、諦めの合理化(ミニマリズム・省エネ人生、デジタル空間への逃避(メタバース・推し活))などが生じる。
トレンド
労働の塊

少子高齢化による労働力不足により、雇用期限を設けない継続雇用制度の導入や、定年制自体を廃止する企業も出現している。このように働きたい高齢者が働き続けられる環境を実現することは、高齢者自身の所得増加や生きがい確保に有効であるほか、年金財政にもプラスである。一方、その副作用として、高齢者の雇用延長が若年者の雇用機会を奪うことがあるのかどうかについては争点となっている。
雇用における高齢者と若年者の関係については、「労働の塊」仮説との関連で議論されることが多い。同仮説は、仕事を高齢者と若年者で分け合っている状況では、より多くの高齢者が働き続けるようになれば、高齢者に割り振られる仕事が多くなり、代わりに若年者の仕事が少なくなるというものである。理論的には、職場における高齢者の増加が若年者の雇用機会に与える影響は、若年者への労働需要を増やす「シナジー効果(高齢者と協働することで助言などを受けて若年者の生産性が高まる)」と、逆に減らす「収穫逓減効果(短期では、労働投入量を増やせば増やすほど、追加的に生み出せる生産量は減少していく)」のどちらが大きいかに依存する。
アメリカの国勢調査の個票を用いて、年金支給に伴い高齢者の退職行動が変化したときに、若年者が雇用される機会がどのように変化するかについて分析したところ、少なくとも賃金が大きく変化しない期間においては、高齢者の雇用が増えれば年齢の若い若年者ほどより多くの雇用機会が失われることが分かった。解釈としては、採用や解雇権を有する経営者や管理職は、よほどのことがなければ一緒に働いている部下や同僚を解雇することには気が引ける一方、まだ人となりも分からない採用候補者に対しては冷淡に不採用を通知することや、そもそも採用自体を控えることがあるとみられる。
高齢者の雇用延長は若年者の雇用機会に負の影響があると認識したうえで、その影響を緩和するような措置を講ずることが求められる。それは決して高齢者に早期退職を迫るといった世代対立を煽るものであってはならない。必要となることは2点である。①高スキルの高齢者が起業しやすい環境を整備すること。企業が若年者への採用余力を高めるほか、そのスタートアップ企業が新たな雇用を生み出し、わが国の雇用機会自体が拡大する。②大企業は、既存製品・サービスの品質改善よりも全く新しい製品・サービスの創出に投下する資源を今までよりも増やすこと。家計の潜在需要を掘り起こし、人口減少下でも売上を増やすことができれば、若年者への労働需要も増え、高齢者の雇用延長による負の影響を相殺できると考えられる。
若手社員の成長志向の低下

パーソル総合研究所では2017年より毎年「働く10,000人の就業・成長定点調査」を実施しており、近年のデータからは、若手社員の管理職志向の低下や早期リタイア志向の高まりなど、顕著なトレンドが浮かび上がっている。
2023年以降の調査では、若手社員を中心に成長意識が大きく変化していることが明らかになった。若手社員が「働くことを通じた成長」をどの程度重視しているかという基本的な調査項目では、20~30代の正社員において、2023年頃から「働くことを通じた成長」を「とても重要」「重要」「やや重要」と回答する割合が1割程度減少している。
若手社員の業務外における学習や自己啓発活動にも顕著な変化が見られており、2022年から2025年にかけて、「とくに何も行っていない」と回答する若手社員が約10ポイント増加。
また、「働くことを通じた成長」のイメージに関する質問についても、2023年以降、「報酬の上昇」「効率性の向上」「専門性の向上」「コミュニケーション力の向上」「成績・評価を得ること」「視野の拡大」といった従来型の成長イメージを持つ若手社員が減少している。このことから、「組織内評価やスキルアップを通じて成長する」というイメージが若手社員にとって現実味を失いつつあることが読み取れる。
SNSでの老鼠人(ラオシューレン)」(ネズミ人間)動画の増加

出典:COMEMO『もしかして私たち「低エネルギーネズミ人」?寝そべり族が進化した。中国の若者に広がる、共感しちゃう新現象』
出典:BUSINESS INSIDER『中国の燃え尽きた若い労働者たちは、「ネズミ人間」という旗印の下に集結している』
中国のSNSでは、「老鼠人(ラオシューレン)」(ネズミ人間)と自称して、家から一歩も出ず、人と一切交流せず、昼夜逆転して一日を過ごすような様子を撮影した動画が、失業中のミレニアル世代やZ世代の間などで急速に拡散されている。
中国のテック業界では、午前9時から午後9時まで週6日働くことから「996」と呼ばれる過酷な週72時間労働が常態化している。それに反発して絶え間ない競争を拒否し、よりリラックスしたミニマルな生活を選ぼうという「寝そべり族(躺平)」になる若者が増えた。「ネズミ人間」は、それをさらに極端にしたバージョンであり、「何もしない」ライフスタイルを自ら進んで受け入れ、それを美徳としている。