【イベント報告】スマートシティの光と影(JIPDECスマートシティ研究会)

JIPDECが主催する次世代電子情報利活用推進フォ―ラムにて、第1回となるスマートシティ研究会が開催された。代表の藤元が座長を務めている。
今回は「スマートシティの光と影」と題し、株式会社rimOnO代表の伊藤氏をゲストに迎え、スマートシティの成功例、失敗例から学べること、アフターコロナでスマートシティ構想がどう変わるのか、議論を行った。その内容を簡単にレポートしたい。

新しいモビリティサービスの普及が街を変える

新しいモビリティサービスの普及により、路肩の需要が急速に高まった。従来のバス、タクシーだけでなくライドシェア、カーシェア、バイクシェアなどが路肩を使用するようになったためだという。

今後は自動配送ロボットの活用により、さらなる路肩の混雑が予想される。

Sidewalk Labの計画では、ライトレール(次世代路面電車)の促進などマイカーを持たなくても生活できるようなモビリティサービスの提供、配送ネットワークを地下で構築し効率化する、歩行者優先の街をデザインする、人流・車の流れなどのデータを取得し交通を最適化する、等の街がデザインされていた。

歩行者優先のコンセプトが貫かれた、サイドウォークラボ

Sidewalk Labでは前述のとおり、マイカー利用率を下げて、公共交通、自転車、徒歩による街づくりが進められていた。
先ほど路肩の混雑について触れたが、道路の面積を自在に変更することが可能なデザインが描かれている。
路上駐車スペース、ポップアップ店舗スペース、子供の遊び場など、道路と路肩の面積を変えることで、様々な目的・用途で公共空間を活用できるようになる。

また、交差点はビーコンを埋め込み、視覚障害者であっても確実に迷わず移動できることや、人との接触が回避できる自動運転車のみが侵入できるゾーンを設けるなど、高機能かつ人に優しい街づくりが目指されている。

今後のモビリティ環境の変化も見据えており、車道スペースの歩道や広場への転化、立体駐車場のオフィススペースへのリノベーションが容易にできるようになるなど、新たなインフラのあり方も提示している。

他にも、全体でCo2排出ゼロ、オンタリオ州内の木材を使用した高効率な建築、リノベーションやリフォームを見据えたフレキシブルな仕組み、高度なごみ処理システムなど、新しい都市のあり方が様々に示されている。

残念ながら、新型コロナウイルス流行による「世界全体における経済の不確実性が高まったこと」「トロントの不動産市場の変動」を理由にSidewalk Labはトロントから撤退したが、このトロントのプロジェクトにより培われた街づくりの哲学は、他の街の開発へと引き継がれていくことだろう。

ディスカッション
「日本において、スマートシティプロジェクトはどうあるべきか」

藤元とのディスカッションでは、特に公と民が一体となってプロジェクトを進めていくことの重要性が熱く議論された。

すでに海外では官公民の良いところを取って、スマートシティプロジェクトが進められている。
アメリカでは新しいモビリティサービスがどんどん誕生し、サービス提供後に規制を導入している。
中国では国が主導して特定の実験都市を決定し(深センなど)規制改革やインフラの集中投資がなされている。

日本では、現代版の天領地(江戸幕府の直轄地で、交通、港湾、商業の要所であった)のような場所を設定し、中央官庁が最後まで手を動かし続けること、なおかつモチベーションを高く、熱量を持って取り組んでいくことが重要、との話が出た。やはり国が率先して、今後の街のあり方を示していくことが、国内では重要なファクターとなるだろう。

また、Sidewalk Labが示した動的な公共空間(道路・路肩)についても議論された。
日本の家屋が古来から持っていた縁側のようなセミパブリックな概念こそ、スマートシティを議論する上で重要になる。MaaSやシェアリングが当たり前の社会になる未来では、日本が本来持っていた「縁側」のような価値観が応用できる。このような日本独自の価値観をスマートシティに取り入れ、世界に発信していくことが期待される。

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Yoshida

専門は卸小売り、個人のライフスタイル、宗教・哲学など人文学。未来社会の事業環境整理・ 戦略コンサルティング、スマートシティ戦略立案等のプロジェクトに関わり AI、ロボット、IoT による社会課題解決に関心を 持つ。 カワイイ白犬と一緒に暮らす、ミレニアル世代。趣味は筋トレ・山登り・座禅・華道で、剛と柔の両立を目指している

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