第39回 Next Retail Labフォーラム ゲスト:室賢治氏「巨大ECマーケット中国におけるリアル商業空間の最前線」


2021年6月24日、D4DRが企画・運営に携わるNext Retail Labフォーラムが開催された。39回目となる本会は、国内外の大型商業施設・大型ホテル施設のブランディングやMD企画、業態開発からデザイン設計業務までプロジェクトのディレクションを行うGARDE株式会社専務取締役、クリエイティブ総括本部シニアディレクターの室賢治氏をゲストとしてお招きし「巨大ECマーケット中国におけるリアル商業空間の最前線」をテーマにご講演いただいた。

小売業の売り上げが世界最大を誇る中国市場の現状と変化から、今後日本の小売業はどのように変化するのだろうか。

中国における小売市場の現状

中国市場の規模

中国の国土面積は960万㎢と日本の国土面積の25倍、総人口は約14億人と世界で最大であり、最大の市場規模を誇る。広大な中国本土では、内陸部と沿岸部で生活レベルが全く異なるため、同国内では都市のレベルを1級から5級に区分する。これらの都市レベルは人口の多さのみならず、生活レベルや商業資源、将来性など様々な項目から評価される。

「2020年中国都市発展レベルランキング」では1級都市として沿岸部に位置する広州、上海、重慶、北京などが選ばれ、「マーケットを捉える際にもこのような指標は重要であり、1級都市や2級都市で事業展開が活発的に行われている」と室氏は言う。

出典:GARDE株式会社室賢治氏「アジアマーケットの小売施設開発からの日本の小売業の展望」

小売市場の現状

急激な成長を見せる中国の小売市場の売上高は、2019年に約614兆円に達し、同年のアメリカの売上高約586兆円を抜いて世界最大の小売市場となった。また、アリババグループを中心に中国EC市場も拡大してきており、中国小売市場におけるEC売上高は35.5%を占め、世界のEC売上高の約56%を同国が占めている。

2020年は新型コロナウイルスの影響により市場の成長率が低下したが、現在は回復傾向にあるという。回復の後押しをしているのが、中国の強みであるスピード感だ。日本と比べ事業設計から立ち上げまでかなり早く、そのスピード感を持ってECに挑戦する企業が増加している。

コロナ禍における中国消費市場の動向

中国国内の消費構造は、量から質へと変化しているという。中国政府は消費の安定成長促進のために省エネ車やスマート家電などの購入に対して補助金を出す制度を制定後、次はデジタル社会下での新消費スタイル構築に乗り出した。このような動きの中で、デジタル生活が幅広い世代に浸透・常態化し、リテールイノベーションの実現や店頭サービスのバーチャル化が個人経営のスーパーなどにまで広がっている。デジタル社会が当たり前になっている中国では、新たな消費価値をもった消費者に販売していくスタイルが構築され始めてきている。

リアルとネットの融合

デジタル先進国である中国では、リアルとネットが融合されたサービスが提供され始めた。同国では「Wechat/微信」を使ったライブコマースが盛り上がりを見せている。ライブコマースとはライブ配信とECを掛け合わせたサービスであり、コロナ打撃を受けた小売業主たちが続々と参入し、ライブコマース市場が急成長している。主にインフルエンサーなどがライブ配信を行っており、2020年におけるライブコマースの流通総額は約14.6兆円に達した。同サービスは買い物の手段だけでなく、「手軽な娯楽」として消費者に受け入れられていることが成長を加速させているという。

また、中国最大のオンラインマーケットであるアリババは、「ニューリテール」を提唱し、オンラインとオフラインを融合させたシームレスな買い物体験を提供している。アリババが展開する生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマー)」は生鮮食料品を中心にしたスーパーでありながら、半径3km以内の地域には無料で30分以内に配送をしている。また、フードコートが併設されており、店内で販売されている食材を使った料理を食べることも可能である。手ぶらで新鮮な食材を購入できる利便性から近辺に引っ越す人さえ現れたと室氏は述べる。このように中国ではデジタル社会に適応したサービスが実現されている。

小売業における各社の取り組み

中国小売業では集客のために様々な取り組みが行われている。ショッピングモールや百貨店は「いかにくつろげるか」というコンセプトをベースに様々な取り組みを行っている。例えば、フードコートの導入により飲食比率の拡大や、トイレの充実化により顧客満足度を上げている。また一定の購入額を満たした人しか入れないVIPルームを設置し、差別化を図ることもある。

そしてこれらの取り組みの中でも最も注目すべきは主題区と呼ばれる集客装置の導入である。若者の来店率を上げ、顧客の滞留時間を伸ばすことを目的としている。各社とも個性あふれるテーマゾーンを導入している。

ここでいくつかの事例を紹介する。

北京SKP Sでは、2019年に「未来の商業施設」をコンセプトに韓国のGENTLE MONSTERと提携し、全体環境をデザインした。体験型の新たな商業価値を生み出す空間として注目されている。

出典:GARDE株式会社室賢治氏「アジアマーケットの小売施設開発からの日本の小売業の展望」

 TX淮海では、若者だけをターゲットとした店作りを展開している。館内はアート施設、音楽を楽しむ場としても機能している。フロアごとにコンセプトがあり、行くたびに新しい発見があることを強みとしている。

出典:GARDE株式会社室賢治氏「アジアマーケットの小売施設開発からの日本の小売業の展望」

このように中国の小売業のリアル店舗は、買い物をする場所としての展開だけでなく、体験型のテーマゾーンを積極的に導入することで集客をしている。ディズニーランドのようなコンテンツを作ることで消費者にも飽きられず、何度も足を運ぶ形の実現を目指しているという。

日本商業のおける展望

以上からもわかる通り、中国市場はデジタル社会のなかで大きな変化と発展を遂げていることが分かる。日本の10年先を走っている中国市場を知る室氏は日本商業の展望として、ターゲットを再定義し、体験型施設を増加するなどして魅力的な店舗づくりが求められるという。また、小売店のネットワークとEC事業者のプラットフォーム、販売チャネル、消費データの分析によるマーケティング等を活用した相乗効果が創出できる仕組みづくりが求められていくと予測している。

日本の先を行く中国だが、日本も負けていない部分がある。それは接客の丁寧さなどサービスの付加価値であると室氏は述べる。日本の強みを生かしつつ、顧客満足度が最大になるような新しい価値のあるコンセプトストアの創造ができれば、日本がアジアのトップランナーとして復権を果たすと思い描いていた。中国が日本の良さを取り入れながら発展したように、日本も中国の良さを取り入れながら発展していくことが重要になってくるだろう。