オムロン(株)制御機器事業のマーケティング戦略を考察してみた


制御機器国内シェア4割企業の実態

 生活者向けには、体重計などの健康医療機器で知られるオムロンですが、工場の自動化・最適化(ファクトリーオートメーション(以下FA)といいます)を支援するシステム機器では、独自のオートメーション機器の高い技術力に定評がある一流BtoB企業です。まずは、そんなオムロンの業績を確認します。

  • 制御機器で国内シェア4割を達成
  • 同決算では過去最高の連結売上高(約8,600億円)を達成
  • 世界で初めて「無接点近接スイッチ」「ATM」「自動改札機」などを開発
  • BtoBサイトランキングのターゲットに占めるニーズ充足者の割合で、14年連続1位(2020年時点)を達成
  • 18年3月期決算における制御機器事業の売上高は、前の期比2割増の3961億円。営業利益は740億円で同4割拡大。同年の営業利益率は18.7%でFA・制御装置業界の平均値が7%前後と考えると、非常に高い営業利益率だといえます
オムロン社HP IR資料室 ファクトブック2019より)
オムロン社HP 事業別業績 より)

 事業別にみると、売上の約半分をFA事業を中心とするIABが占めていることがわかり、FA事業がいかにオムロンの中核事業となっているかが表れています。

 コロナの影響で2020年度は会社全体としての業績は少し落ち込み傾向にありますが、事業別にみるとコロナの影響を受けたのは電子部品事業(EMC)などBtoC事業が中心であり、IABはほとんど変動していないことが分かります。最近では、FAによる感染症対策という観点から、主力事業での新たな需要創出に加え、その技術を応用した遠隔医療サービスへの参入も企図してもいるようです。

 本頁では、FA市場において強力な存在感を放つオムロンが展開したBtoBマーケティングの戦略や、具体的に実施された施策を調査し、その成功要因を分析しました。

激化する市場競争に直面し、エッジコンピューティングを武器に他社との差別化へ

 近年、独シーメンスや日立製作所などの電機・IT大手が、「クラウド」を旗印に工場の自動化ニーズを開拓しつつあり、さらに2013年ごろからは新興国での工場新設ニーズが鈍り始め、単純に商品だけを売るビジネスモデルが限界を迎えつつもありました。更にはファナックやキーエンスなども参入し攻勢を強め、オムロンの主力事業は激しい競争に直面することになり、生き残るためには他社との差別化が急務でした。

 社会的な課題として「人手不足、製造現場の安心・安全、品質向上」「駅の混雑・交通渋滞」「生活習慣病などの疾患」「エネルギーの不足・環境問題」などが問題となっていました。それを解決するためには、各種オートメーション製品が必要であり、オムロンはその提供を目指すことになります。

 しかし、課題の部分で触れたように「クラウド」コンピューティングの領域では、既に強力な競合他社が多数あって市場はレッドオーシャンの様相を呈していました。そこでオムロンは、FA事業の中でも比較的競合が少ない「エッジ」コンピューティング領域に光明を見出しました。

「クラウド」コンピューティングと「エッジ」コンピューティングのイメージ

 さらに、課題解決の結果、社会がどのように変化していって、次にどのような製品が必要とされるのかを先読みすること、つまり新たな社会的課題の先取りによる自らの需要創出を目指します。

様々な課題を抱える製造業をメインターゲットに、それを解決する商品を提供

 オムロンの主力製品には、ロボットの駆動に欠かせない「サポートモーター」、複数の製造装置を制御するために使う「プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)」、光を利用して物体の表面状態の変化などを検出する「光電センサー」、施設内への人の侵入を検知するための「近接センサー」などセンシング&コントロール技術を応用した製品があります。

 こうした製品に注力する背景には、人口減少や熟練工の退職に伴う慢性的な人手不足によって製造ラインに問題を抱えているか、工場の自動化を検討している製造系の企業やメーカーなどをターゲットとしていることにあります。さらに、ターゲットに対し、同社の強みである技術の統合力をクラウドよりもエッジ、つまり工場のような、より「現場」に近いところで発揮することも重視しています。

センシング&コントロール技術がふんだんに応用された商品群
オムロン(制御機器)HPより)

直接営業への転換 ~それを支えるオートメーションセンタ~

  オムロンは基本的に製品の営業・販売を代理店に任せてきました。しかし、複雑化するFA需要のなかで、代理店経由では顧客のニーズを正確につかみにくいという課題があり、 それを解決するために直接営業への転換を図りました。実際、日本国内では、約100人の営業メンバーが毎日どこかの製造現場を訪れ、ヒアリングを実施しています。多様化するニーズに合わせたコミュニケーションの構築も同時進行で進めました。

 付き合いの深いエンジニアの悩みを聞き出すのみならず、顧客自身が解決を諦めている課題をあぶりだすために、何気ない一言にも注意し、常に新しい需要の発見に努めます。それがオムロンの需要創出力の源泉となり、高い開発力に繋がっているのです。さらにこうした顧客に寄り添った営業自体が金額では計れない付加価値となっており、他社へのスイッチングコストを高めることにも寄与しているのです。

 顧客と直接コミュニケーションをとる上では、自社製品の魅力や情報、強みをいかに効率よく顧客に伝えるかが重要になってきます。事実として「実際に動いている現場と効果を確かめたい」というメーカーからの要望がオムロンにはたくさん届いていました。

 そこで同社は滋賀県に国内最大の製造拠点を建設、その施設を営業拠点としても活用すべく、同施設内に「オートメーションセンタ(以下AC)」と呼ばれる部屋を設置することにしました。そこでは、顧客企業が製造ライン上に抱える課題を聞き出したうえで、その課題を10台以上の製造装置が実際に稼働して解決するデモンストレーションが展開されます。顧客はそれを見学してよりリアルに製品導入後のイメージを掴むことができます。ACでは従来のように単体の制御機器を販売するのではなく、顧客のニーズに合わせた自動化技術をパッケージにして提供します。

 実際のデモンストレーションを見学して、慢性的な人手不足に悩む製造メーカーのなかにはその場で数十台の購入を即決する者もでるほど、営業効果は絶大でした。メーカーにとって、複数の装置をまたいで確実に部品を運べる小型のロボットはのどから手が出るほど欲しい製品です。また、そうしたデモの中で、AI(人工知能)を搭載してロボット同士を認識し、人間の作業員を見事によけて動きまわる姿も見学者には新鮮でした。 その結果、同様の拠点は20年10月末時点で世界20カ国(全37拠点、日本国内に4拠点)に拡大しています。今では、制御機器事業の新規商談の半数近くがオートメーションセンタ経由になったと拠点を統括する長は述べます。

オートメーションセンターTOKYOのデモンストレーションエリアの様子
オムロン(制御機器)HPより)

 ACには見学の申し込みが殺到し、時には3か月待ちになることもありました。評判を聞きつけ、工場への見学を検討するようになった潜在客も劇的に増えたと考えられます。その中には当然、工場まで実際に来れる人だけでなく、何らかの理由で足を運ぶのが難しい顧客も存在するはずです。そこでオムロンは多様な潜在顧客に対応すべく、①DVDによるバーチャル工場見学②セミナーによるサテライト工場見学、③ 現地見学によるリアル工場見学の3パターンの見学を可能にしました。

ロボットハンドに小型・軽量な3D画像センサーを搭載し、ピック&プレースを行うデモ をバーチャル見学する様子
オムロンコーポレートサイトニュースリリースより)

Webサイトを改良し、BtoBサイトランキング14年連続1位に

 制御機器事業ではACを活用するだけでなく、より確実に集客(リード獲得)するためにWebサイト(fa.omron.co.jp)の強化にも力を入れています。実際に、当サイトは BtoBサイトランキングのターゲットに占めるニーズ充足者の割合で14年連続1位(2020年時点)という驚異的な結果を残しており、BtoBの業界では非常に評価が高いです。

 実際に、当Webサイトは、過去3か月間( 2020年7月~9月 )の延べ訪問数は185.2万とBtoBサイトの集客としては非常に優れているといえます。さらに集客だけでなく、訪問者の平均滞在時間は5分5秒、一回の訪問当たりのPVが5.16、そして直帰率が38.89%と、Webサイト内での接客も大変優れていることがわかります。

 以下では、D4DRアナリストが当サイトをチェックし、いくつか優れていると思われる部分を挙げていきます。

来訪者の課題を想定した細かなキーワード・タグ設定

 同サイトでは、同社の持つ情報を4つのカテゴリ(用途事例、業界別、工程別、技術・トレンド別の4つ)軸に分類し、それぞれにキーワードを設定して想定ユーザーが求めるものに応じたコンテンツを探しやすい構成になっています。そこで提案されているソリューションの数も、膨大とまでいかなくとも十分に充実しており、タグによって「解決提案」なのか「事例」なのかが一目で判別できるようになっています。

オムロン(制御機器)HPより)

 商品情報についてもユーザー目線で作られており「目的・仕様」、「形式」、「改善活用事例」から探しやすくなっています。

 最近のよくあるwebサイトでは、サイト内で訪問者が自らキーワードを入れてサイト内検索できるような機能を取り入れているものが多いが、当Webサイトでは予め顧客のニーズや課題を想定し、顧客が求めているものに容易にアクセスできる点が優れているといえるでしょう。
 BtoB、toCに関わらず、Webが当たり前になっている今日において、Webで情報を探すユーザーのWebサイトに対する評価基準は日に日に高くなっています。そのようななか、当Webサイトは上記のようなもてなしをすることで来訪者の評価基準をクリアすることができているのでしょう。

ビジュアルの有効活用により、人感を出した温かみのあるサイトへ

 2020年度BtoBサイトランキング上位20位までのサイトを見比べてみたとき、当サイトの全体的なビジュアルの使い方が非常に上手なのも特徴的だといえるでしょう。当Webサイトの個々のコンテンツもわかりやすく設計されていることも当然素晴らしいポイントですが、最も評価できるポイントは、ビジュアルに人を多く使いサイト全体を温かみのあるものにしている点ではないでしょうか。このような人感があることで、来訪者も自分事として個々のコンテンツを捉えることができるでしょう。

オムロン(制御機器)HPより)

 上述した通り、製造業ではまだまだプロダクトアウトなWebサイトが多い中、当サイトはユーザー目線、課題解決型のサイトになっている点がユーザーの充足度を高めていると考えられます。

 営業手法やWebサイト等、オンライン・オフライン両面での顧客視点思考・顧客との密なコミュニケーションの重視が現在の業績に好影響を及ぼしているのだと考えられます。


会社概要
会社名:オムロン株式会社
創業: 1933年
所在地: 〒600-8530 京都市下京区塩小路通堀川東入
売上: 6780億円(2020年度3月期)
コーポレートサイト:https://www.omron.co.jp/
内容:オートメーションのリーディングカンパニーとして、工場の自動化を中心とした制御機器、電子部品、駅の自動改札機や太陽光発電用パワーコンディショナーなどの社会システム、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開し、約120の国と地域で商品・サービスを提供。

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Hiroshi ANDO

安東寛崇  早稲田卒/社会学専攻 専門は理論社会学や統計学など

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